第14話 オレっちが仲間?


「女の子かも知れないでしょ?!!何してんの!!」

「いや、オレっち男だけど!!じゃなくて!何してくれてんだ?!お前ら!!」


 真っ赤な顔をした私と、可愛い顔をした彼が、顔を見合わせて、二ヴェルへと抗議の声をあげれば、二ヴェルは「何が?」という顔をしている。


「え、ちょっと二ヴェル?!この子、男の子だって言ってるけど、こんなに可愛いのよ?!嘘かも知れないじゃない!それに本当は女の子だったら、大事件!」


 二ヴェルが捲りあげた胸元は、つるんとした主張の無い胸元だったけれど、伸びしろがある可能性だってあるわけで、バッ、と慌てて服を戻せば、「フィン?」と二ヴェルが不思議そうな声で私を呼ぶ。


「失礼ですが、フィン、どこからどう見てもコレは男ですよ」

「人をコレ呼ばわりすんな!」

「だって名前知らないですし」

「リアーノだ!コレなんて名前じゃねえ!」

「おや、それは失礼」


 彼女、いや、彼だった可愛らしい少年、リアーノに、二ヴェルは全く悪びれた様子もなく謝る。


「二ヴェ」

「フィン、話が進まない。ちょっと黙って」

「んぐっ」


 言葉に謝る気持ちの欠片も見えない二ヴェルの名前を呼ぶものの、パッ、と背後からハルトの手に口を抑えられ、私の言葉は途中で止まる。


「リアルでもリアーナでも何でもいいけどさ」

「おい、だから、オレっちはリアーノだ」

「お前の名前なんてどうでもいい。まずフィンに謝れ」

「まぁ、確かにハルトの言うとおり、女の子にぶつかっといて、謝らないのは頂けないなあ」

「チッ」


 少年、リアーノ君に向かって、言うハルトの声は、冷たく、二ヴェルとハルトと、少年の言い合いの間も、きょとんとした顔をしながらも黙って少年の後ろ手を押さえこんでいたジャンがやっと口を開き、そのジャンの言葉に、少年は小さく舌打ちをし、じっ、と私を見たあと、もう一度、チッ、と短く舌打ちをしたあと、少年が少し顔を背けながら、口を開いた。


「……オネーさん、ごめん」

「!」


 明らかに、拗ねたようなイジケたような表情はしているものの、きちんと謝った少年に、ハルトは呆れたような表情を浮かべつつ「やれば出来んじゃん」と満足そうな表情を浮かべている。


「まあ、一応、及第点、と言っておきましょうか」


 とりあえず、とハルトの言葉に賛同しながら二ヴェルは頷く。


「ま、そうだな!で、結局、このちびっこはどうするんだ?」

「うわっ?!」


 二ヴェル同様に頷いたジャンが、「ちびっこ」と言いながら少年を片手でヒョイ、と持ち上げ、突然のジャンの動きに驚いた少年は、驚きの声をあげる。


「っ!んー!」

「あ、ごめん」


 ジャンの手に、ぷらーん、とぶら下げられるような格好の少年を早く降ろさなければ、といつまでも口を覆ったままのハルトの手をバシバシと叩きながら、抗議すれば、ハルトがケロっとした表情で私の手を離す。


「っぷはっ!もー!ジャン!下ろしてあげてよ!」


 息を吸い込みながら、ジャンの名前を呼びながら言えば、「わかった」とジャンが少年をすとん、と地面へ下ろす。


「逃げないでしょう?リアーノ君」

「……こいつら面倒くさそうだからな」

「……うん。それは、ある」


 にっこりと笑いながら言った私の言葉に、少年、リアーノ君は、諦めたような表情で答え、私もまた、その意見には同調しかなく、おおいに頷く。


「で、どうすんの、オネーさん。オネーさんが憲兵のとこ、連れてく?」

「え、いや、ハルトとジャンのおかげでお金も戻ってきたし、二ヴェルのおかげで別に怪我もしてないし、行く必要な」

「ああ、それなんですけど、少年。君、ご家族は居ますか?」

「……は??」

「……へ?」


 リアーノ君の問いかけに答えていた私の言葉に、二ヴェルが、リアーノ君を見ながらそう問いかけ、リアーノ君と私は、また顔を見合わせて、思い切り首を傾げた。



「……オレっちが勇者様御一行のメンバーねえ」


 カタン、とリアーノ君がテーブルに置いた器が音を立てる。


「ま、別に君じゃなくても構わないんですけどね。ただ、多分、君なんでしょう」


 トントンと指でテーブルを突きながら言う二ヴェルの指の先には、先程、二ヴェルが胸元から出していた一枚の紙。それは、私とハルトが旅に出た時に渡された簡易的な世界地図で、私たちはほとんど開くことは無かったのだが、先の宿屋で二ヴェルが確認した以降、頻繁に二ヴェルは地図を開いていた。


「ねぇ二ヴェル。さっきもハルトと二人で地図見てたよね?何か特別なことでも書いてあったの?」


 コトとカップを置きながら問いかけた私に、二ヴェルがニッコリ、と微笑みながら口を開く。


「フィン、お勉強タイムとしましょうか」

「……え…」

「大丈夫。この前買った魔導書に書いてあるやつです。さて、問題です」

「ちょ、待ったなし?!」

「ありません。この地図は、紙は普通のもの。ですが、とある条件が重なると、地図の中で光るようになっていますが」

「なんだ!それ光るのか!」

「ジャン、お前は今は黙ってろ。で、光るようになっています、が、まず、光るために、イチ、地図を書く時にすること、ニ、地図を書いた後にすること、を答えなさい」

「ええと……」


 唐突に始まった二ヴェルの先生モードに、困惑をするものの、確かに、魔導書に書いてあったような気がする。

 何だっけ…と顎に手を当てながら考えていれば、「あ」と呟いたハルトの声が隣から聞こえる。


「ハルトは分かったみたいだな」

「多分な」

「えええ!ううんと……」


 ニヤリ、と笑いながらハルトを見た二ヴェルに、ハルトが頷きながら答え、その二人を見た私は答えが思い出せそうで思い出せなくて、そわそわし始める。


「んんと、まず、インクが光らなきゃいけないから」

「なあ」

「ん?」


 考え始めた私に、リアーノ君が、「なあ」と声をかけた。


「オレっち、魔法のことは詳しくないけどさ。光るインクって、光る鉱石を細かく粉砕して作るインクじゃねぇの?ちょっと変わった市場で見るぜ」

「おやおや。まさか君がバラすとは」

「あ、ごめん」


 ほんの少しだけ驚いた表情を浮かべつつも、玩具を取られて不貞腐れる子どものような声を出した二ヴェルに、リアーノ君が素直に謝る。


「……まあ、いいでしょう。正解です」

「お、よっしゃ!フラフラしてた暮らしもたまには役に立つな!」


 ふふん、と上機嫌そうに言うリアーノ君に、二ヴェルの機嫌は多少は下がったものの、会話に困るほどではない。


「では、その後はどうします?フィン」

「その後は……指にインクがつくから、とりあえず地図を乾かす?」

「いや……まぁ、そうなんですけど」


 んんん?と首を傾げながら言った私に二ヴェルが顔を横に背けながらごにょごにょと答える。


「…たまぁに、フィンも斜め上ってやつだよな!」


 にかー、と笑いながら言ったのはジャンで、リアーノ君は「あの人、天然か?」とか言って笑ってるし、ハルトは「フィンが絶賛可愛い」とか意味わからないことを言ってるし、それよりも何よりも。


「二ヴェル、肩震わせて声抑えて笑うの止めてよ!笑うなら声出して!」

「やだなぁ、フィン。ふふ、笑ってないですよ」


 少しの間をおいて振り返った二ヴェルの瞳はほんの少し涙が浮かんでいて、これは確実に笑われている。


「いや、だって、まさか乾か……ククククッ」

「むう……答えはー?」


 だって、村の近くで取れる鉱石で作ったインクはなかなか乾かなかったし、指につくとなかなか落ちなかった。

 そのイメージで答えたら凄い笑われてるし、結局、笑ってて答え教えてくれないし!


「答えですか?答えは、フィンので合ってると言えば合ってる、んですけど」

「二ヴェルがこんな笑い上戸だなんて知らなかった!話進まない!」


 クツクツと相変わらず笑っている二ヴェルの肩を軽くパシ!と叩けば、「はあー、笑った」と二ヴェルが楽しそうに笑う。


「答えは、おい、ハルト、何でお前がフィンの魔導書を持ってるんだよ」


 答えは、と途中まで言った二ヴェルの視線が、私の奥の席のハルトに移り、それと同時に二ヴェルの表情が不思議そうなものに変わる。


「さっきの、気になったから」


 素直にそう答えたハルトに、二ヴェルは一瞬、キョトン、とした表情を浮かべるものの「そうかよ」と小さく笑って答え、それを見た私は、驚きのあまり瞬きを繰り返した。







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