aki_2

「ねぇ、亜紀、サッカー部のマネージャーになったの?」


「なったけど、もう辞めた」


「そうなのー?残念。

だって、サッカー部にイケメンの先輩いるでしょ?」


「イケメン?さぁー」


「颯真さんって人」


「んー?いたかな?」


「髪型は○○で、冷たい感じなんだけどかっこいいのよー!」


ん?それって、アイツ??


「ひょっとして…あのむかつく男かも」


「知ってるのー!紹介してよ。

颯真さん、すごい人気なんだよ」


「ふーん、あれがね。

知らない、別に知り合いでもない」


アイツモテるんだ

あんな感じ悪いのに




講義が終わると、図書室で過ごすのが私の日課になってた

どうしてだろ…

時間を…早く進めたかった



帰り道グランドを通り過ぎようとすると

ボールを蹴る音が聞こえる


薄暗いグランドを目を凝らして見るとあの先輩の姿


ただ、ひたすらゴールに向かって蹴り、ボールを集め、また蹴る

何度も何度も続けてる


いつまでやるんだろ


そんなことを思いながらしばらく見てると、

じっとしていられなくなった



「あの、私、ボール拾いやります」


「あ、お前…いいよマネージャー辞めたんだろ」


「辞めましたけど…でも…やります」



グランドにはボール蹴る音

芝生を踏むスパイクの音

先輩の息遣い以外何も聞こえなかった



「お疲れ、

腹減ったから飯、行こ」


「いえ、私…帰ります」


「俺のことムカつくか?」


「べ、べつに」


「じゃ、着替えてくるわ」



部室から出てきた先輩はいくぞっと一声かけて、さっさと歩いて行った


自転車を押して歩く彼


この雰囲気、あの頃を思い出す



この間、あんな風に言い合ったきりだったから、特に会話もなく、社交辞令のようにポツリポツリと問いかける彼の低い声だけが響く



いつも部が打ち上げをするという居酒屋さん


並んで席につくと、彼の肘の辺りが赤くなってるのが目に入った


これ、私がボールあてたとこ



「…ごめんなさい」


「ん?何?」


「ここ、私が」


「あー、お前なぁ、サッカーボールは蹴るもんだぞ」


「ほんっと、ごめんなさい」


「もういいよ、俺も初対面から、くってかかったからな

あの日、ちょっとイラついててこっちこそ、悪かった」


「いえ…」



お酒も進み、先輩はサッカーのことを熱く語り始めた


私は何のことだか、さっぱりだったけど、

子供みたいにキラキラした目で話す彼を見てると不思議とつまらなくなかった

むしろ、引き込まれてた


彼のペースに巻き込まれて、私も結構な量のお酒を飲んでしまってた



「おいっ、えっと、名前何だっけ?」


「亜紀です~」


「亜紀、寝るな」


「いきなり呼び捨てですかぁー」


「どうでもいいだろ、そんなもん」


「立てるか?」


「立てません」


「はぁー、めんどくせぇなぁ」


いきなり、ボールぶつけてきたかと思ったら、練習つき合うって言ったり、っで今度は酔いつぶれて寝るかよ


この女ほんと意味わかんねぇな



そんなむちゃくちゃなところばかりなのに、テーブルに突っ伏せてスヤスヤと眠る彼女の寝顔がどこか淋しそうに感じてた




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