第12話

恋する気持ちが芽生えた時

いつも思い描く

心が通いあう瞬間


その瞬間はまるで夢の中にいるような

ふわふわとした不確かな感覚


確かなものは

彼のぬくもりと響く鼓動


私は

武田くんと付き合い始めた


あの頃から笑顔をなくしていた私は

男の人とちゃんと付き合うのはこの年になって初めてのことで…。


彼は時間が出来ると会いに来てくれるし、毎日電話で話した


📱~

「美帆、免許とれたんだ

兄貴に車借りたから、明日、どっか行こう」


「ほんと~!…でも、運転大丈夫?」


「大丈夫だって、まかしといて。

じゃあ、明日迎えに行くね」



朝早く出ようって言ったくせに相変わらず寝坊して焦ってる。

頭を掻きながら目を細めて、ごめんって手を合わせられたら、何だか可愛くて、結局、いつも許してしまう



「美帆、ほら、海見えてきたよ 」



「うわぁー」


運転席越しに見えた海は水平線に近づく太陽がキラキラと反射して眩しかった


でも、私にはそんな景色よりも隣でハンドルを握るあなたの横顔を見ていたかった



海岸沿いに車を停め、外に出ると、さっきまでの輝いてた陽は赤く海を染めていた



「武田くんが寝坊するから、もう夕方になっちゃったよ」


「ごめんね」


「いいよー、綺麗な夕焼け見れたからねっ」



ガードレールに手を置いて海を眺めてると

後ろから包み込むようにその手に重ねられた大きな手


背中に彼の胸がピタリとくっついて鼓動が感じられた



「武田…くん」


「フフ、もう、武田くん、やめない?」


「う、うん

しゅう…へい…くん?」


「周平でいいよ」


肩から覗き込まれた顔が近くて恥ずかしい


「あのね、私…こういうの慣れてなくて

なんか……ごめんね」






真っ赤になって俯く美帆を後ろからきつく抱きしめた


「何で謝まんの?おかしいじゃん」


「だって…」


「俺は美帆がやなことはしないよ

…絶対しない」


「嫌なんか、そんなこと…ない

ただ、ドキドキするだけ」


「もうさぁ、そんな可愛いこと言うのやめてよ」


「へ?」


身体の向きを変えて美帆を正面から包み込んだ


「そんなこと言われたらさ、俺……やなヤツになったらどうする?」


「たけ…あっ、周平くんはやなヤツになんかならないよ」



しっかりと俺の顔を見つめて言う彼女の瞳に吸い込まれそうになる



「美帆の…その目がダメなんだよ」


唇をそっと塞いだ


肩がビクンとしたけどすぐに小さな掌は俺の腰を掴んでた



軽く触れた柔らかい唇を離すと、すぐに胸に額を押し当てた

彼女の頬に手を添えてもう一度さっきより長いキスを落とす


「んっ、ふっ、息出来ないよ」


「美帆…もっと…」



首を縦に振ったくせにまたぴったりと胸に顔を埋めてしまう



「やっぱ、いいや、このままで…いい」



腕の中におさまった美帆の優しい香りが俺のはやる気持ちを落ち着かせる




俺が笑えば美帆も笑う

笑顔が連鎖する、

幸せもきっとそう



少しずつ笑顔が増えてきた彼女を見てると

嬉しさが込み上げてくるのと同時に

まだ、壊れそうな心をずっと守ってあげたいと思った

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