第10話
彼女の笑顔を見れた嬉しさと
その笑顔が離れていく淋しさと
よくわからない気持ちが入り交じって
気が付くと俺も泣いてた
「周平?どうしたの?
泣いてるの?」
「亜紀…
美帆ちゃん…笑ったんだよ」
「そうなの?笑ったのー!」
…なのに、どうして?」
「亜紀、俺は……」
「周平…ごめん、ひょっとして…私が周平を苦しめたのかな?」
亜紀は俺を抱きしめて
背中をさすりながら、“ごめんね”と消え入りそうな声で言った
美帆ちゃんが好きだとわかりきってる心とは裏腹に亜紀の温かさを愛しく思えた
卒業して
結局、俺は亜紀と付き合うようになった
俺は亜紀を好きになろうと思った
元々、彼女は俺にとって大切な存在だったし、付き合うっていうカタチになったとしても、うまくいく、
…そう思ってた
でも、そんな簡単なもんじゃなかった
人は好きになろうって思って、なるもんなんかじゃない
気付けば好きになってる
恋をするってそういうことなんだ
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優しさは…時には残酷なもの
愛する人が幸せでいてほしい
誰しも願うこと
だからこそ、偽りなく生きていかないといけない
あなたはあなたらしく…。
側にいるだけでいい
それだけでいいと思ってた
でも………
やっと、手に入れた温もりを私は自ら手離す決心をした
「周平、もう…いいよ」
「何が?」
「だから、もういい。
私はもういいから、素直になりなよ」
「どういう意味だよ?」
亜紀は柔らかく笑って、俺から目をそらし、懐かしそうに話始めた
「…覚えてる?
小学生の時、いっつもクラスで1番走るのが早かった周平が1度だけ負けたことあったでしょ?
悔しいって今度は絶対負けないって放課後、練習してたの…私、応援してた」
「覚えてる」
「そうだ、まだあるよ。
中学の時、好きな先輩に振られて、体育館の裏でこっそり泣いてた時も一緒に帰ってあげたでしょ?」
「…うん」
「はぁー、何かねぇ、私、いっつも周平のことを応援したかった。ほっとけなかったの」
「だから?」
亜紀は大きく息を吸って涙を飲み込むように言った
「だから、これからも応援する」
「どういうこと?」
「もう~あいっかわらず、鈍感だね。
私の方から別れ話を切り出してるんだよ
言わなきゃわかんない?」
「別れる?何で?まだ付き合ったばかりじゃん」
「あー、もう周平はいつまでたっても手がかかる」
「っんだよ」
「ねぇ、目瞑って」
「え?」
「いいから、早く」
「わかった、こう?」
「ゆっくり深呼吸して…
周平がだいっっ好きな人の顔思い浮かべてみて」
「誰が浮かんだ?」
「亜紀…あの…」
「目開けないで、そのまま聞いて」
「周平は優しいの、優しすぎるの。
人の気持ちばっかり考えてると結局、誰も本当の笑顔になれないよ。
だから…ね
今、心の中に浮かんだ人のところにいって。いちいち、私に気を遣わないでよ。
わかった?」
「俺は…いつまでたっても亜紀に応援してもらってるんだな」
「そうよ!
ずっと応援してあげる」
亜紀の香りが近付いてきたと思うと俺の腕を掴んでソッと触れた唇
思わず、目を開けて抱きしめようとすると慌てて離れていった
「ダメ、もっ1回目、瞑って!早くっ」
「周平…ありがとう
…………さよなら
絶対、幸せになってね」
フワリと風が動いたと思って、目を開けるともう彼女の背中しか見えなかった
俺は慌てて叫んだ
「亜紀っ!…亜紀こそ
幸せになれよ」
彼女は立ち止まって振り向くことなく、大きく頷いた
雪のように舞い降りる桜の花びらの中、亜紀の姿が小さくなって行った
まるで、その淡い桜色の世界に吸い込まれるように…
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