第9話
卒業式の朝
「亜紀ちゃん、武田くんに気持ち伝えた?」
「うん、昨日ね。……でも、怖くて、返事聞く前に帰ってきちゃったの。
もう、今さら聞けないよー」
「亜紀ちゃん、ダメだよ!
しっかりと話さないと、ねっ」
「美帆ちゃん、でも…」
「わかった。私に任せて」
「え?美帆ちゃん、ちょっと…」
式が終わり、それぞれ、写真を撮ったり、話したりする中
グランドの端で友達とはしゃいでる彼の姿を見つけた
私は最大限の勇気を振り絞って彼に声をかけた
「武田くん、あの…少しいい?」
「あっ、うん」
初めて彼と会った校門をくぐり、一歩、外に出た
見上げると青空に白い綿菓子のような雲が風にゆっくりと流れてた
大きく息を吸い込んで彼と向き合った
「あのね、武田くん、亜紀ちゃんのこと好き?」
「な、なんで?いきなり」
「亜紀ちゃんから好きって言われたでしょ?」
「美帆ちゃん、どうして?」
でも、俺は…。美帆ちゃん…」
「言わないで!
私は…もう同じ事を繰り返したくない。
大切な友達を傷付けたくないの…お願い」
俯いて肩を震わせる目からポタリと涙が地面に落ちた
「美帆ちゃん」
手を伸ばした俺から逃げるように後退りして顔を上げた
「武田くん、亜紀ちゃんは素敵な人よ。
こんな私の友達になってくれた。
武田くんのこと…大好きなの」
「でも…」
「武田くん、側にいつもいてくれた人、誰?」
「……。」
「ねっ、そうでしょ?
私は武田くんと亜紀ちゃんにありがとうって何度も何度も言わないといけない。
高校最後の年、二人のお陰で素敵な思い出が出来たの。
本当にありがとう
だから、二人に幸せでいてほしいの。
…………さよなら、武田くん」
そう言って彼女は……笑ったんだ
初めて笑顔を見せたんだ
涙をポロポロ流しながら、
眩しいくらいに笑ったんだ
やっと、笑った
ほんとは抱きしめて一緒に笑いたかった
でも、
こんな、悲しい笑顔なら、
見ない方が良かった
勝手な男だよな…俺……
自然に溢れてくる涙を拭うこともなく、
彼女の後ろ姿が見えなくなるまで見送ることしか出来なかった
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