第6話
いつもと違う朝
今日、あの人に会ったらお礼を言おう
…たった、それだけのことなのに、
朝陽も髪を揺らす風もどこか違って
通いなれた道を歩く歩幅が少し大きくなる
校門をくぐると変わらない朝の慌ただしい空気
人の並みに押されて俯いてしまった私
後ろから誰かが肩をポンと叩く
「おはよっ、石垣さん」
「武田くんっ」
「ハハハハ、そんなびっくりしないでも…
もう大丈夫?」
「うん、大丈夫。
あの~ありがとう」
「ん?」
「…アイス」
「あー、アイスね」
「ごちそうさま」
「いえいえ」
照れくさそうに笑う彼の笑顔
この人…きっと、お姉ちゃんが言ってた通りかも。
「ねぇ、石垣さん…
まだ顔色悪いよ
今日、帰り送ってあげる。
放課後自転車置き場で待ってて」
「いいよ、そんな」
「いいから、俺達もう友達だからっ、ねっ、じゃあ、放課後」
手を振りながら走って行った彼
友達とじゃれあいながら歩いていく背中が彼だけ周りと違った色に見えてた
武田くんって、私の友達…なんだ
いいのかな
放課後
自転車置き場に向かうと彼は自転車に寄りかかってキョロキョロしている
駆け寄って、急いで言った
「私……
大丈夫だから、1人で帰れるから
ありがとう。じゃ」
「ダメダメ、
まだ熱下がったところだし
早く乗って」
「でも…いつもの…彼女はいいの?」
「いつもの?亜紀のこと?」
「うん」
「あいつはただの幼なじみで俺をこきつかってるだけだって」
「だっれがこきつかってるってぇ?」
「亜紀ぃー!
お前急に登場すんな」
「さっきからいたわよ
石垣さん、いいから送ってもらいなよ」
「でも…」
「はいっ、こっち座って、
周平、丁寧に走りなよ」
「わかってるって、行くよ」
自転車の荷台にちょこんと乗って遠慮がちに恥ずかしそうに俯く彼女の姿といつも見ている周平の広い背中を見送った
私って何してるんだか
恋をした時に感じる胸の痛みとはどこか違うような重い息苦しさを
どこにぶつけることも出来ずに夕焼け空を仰いで深呼吸した
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ねぇ?石垣さん?
ちゃんと持っとかないと落ちるよ」
「え、うん」
遠慮がちに添えられた手が少しだけ前に動いた
自転車が揺れる度に近づく彼女の温もりにドキドキしながらも、もう少しこのままいたいと思ってた
「とうちゃーく」
「ありがとう」
「全然。また、明日も」
「いいよ。明日は。
じゃあ…」
「……」
「何か?」
「うううん、
今日はお姉さんは?」
「まだ仕事だけど」
「そっか
お姉ちゃんに会いたかったんだ
お姉ちゃん美人だからね」
「いやっ、そうじゃないよ」
「おかしいと思ったの。
私に声をかけるなんて…
さよなら」
ドアに手をかけようとした彼女の腕を掴んだ
「待ってよ、違うって。
じゃあ、何で昨日、俺ここに来たんだよ」
「あっ」
「でしょ?お見舞いに来たんだよ? 」
「ごめんなさい。私、早とちりして」
「石垣さん、可愛いんだから自信もちなよ」
「可愛い?私が?
そんな訳ない。笑顔も見せない私が
からかわない……」
グイっ
掴んでた腕を引っ張って、俺は屈んで彼女の目を見つめた
「からかってなんかない
ほんとに可愛いと思う」
「たけ…だ、くん、
離して」
「あっ、ごめん、俺、石垣さんに信じてほしくて」
真っ赤になった彼女は何も言わず、お辞儀をして家に入っていった
「俺……好きなの……かも」
自転車に乗らず押しながら近くの公園のベンチに座った
沈んでゆく太陽をぼーっと見つめてると自分の心を照らされてるようで何だか恥ずかしかった
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