第3話
校門前の騒動が一段落した後、鉄を含む新入生達は一同学園内にある巨大なドームへと運んだ。その内部はすり鉢状の観客席に中央にあるステージ、そして天井には四方を向いた巨大なモニターが吊るされており、一目でここが大会運営を行う場所であると理解できた。その中を新入生達は入学前に行われた実力テスト(勿論内容は各科のeスポーツによる擬似ランクマッチ)によって分けられた最初のクラス毎に席を案内される。何とかギリギリでAランクへと入れた鉄は先程一悶着あった双子の姉水姫の隣に座る。その様子を見いた視線があり、何となく横目で見てみると隣のクラスでありながら事実学年最強と名乗れる、Sクラスの最前列にいた沙姫が中指を立てて水姫を挑発していた。
「……双子ってもっと仲のいいイメージあったんだけど。」
「あ、いえ、これでも仲は良いんです。お互い本音で話せる分気が楽と言うか、その、はぅ……。」
余程妹以外と対面して話すのが苦手なのか、俯きながら耳まで赤くしている水姫に何処か居心地の悪さを感じた鉄は、話題を変える事にした。
「そう言えば何故水蠍さんはAの最下位に?実力的にはS入れると思うんだけど。」
実は鉄が水姫の隣に座ったのは意図的なものではなく序列毎の問題で、FPS科の最下位が水姫でその一個上が鉄だからだった。だが、ネットでも言われている通り彼女のプレイヤースキル自体は高い。何か特別な理由が無い限りこの順位は不当なものだと鉄は考えていた。しかし、その質問に水姫が苦笑しつつ
「えっと、その、オーバーキル(倒した相手の死体を撃つ行為で、スポーツマンシップに反している為禁止行為とされているもの)と全チャ煽り(FPSはチームゲームな為、基本的にチャットはチーム内でしか行えないが敵味方含めたチャットも可能)と、私一人で充分だったので開幕FF(フレンドリーファイアの略。リアルさを追求した仕様上起きてしまう味方を撃つ行為でこちらも故意のものは禁止。)で私以外殺して味方もオーバーキルした上にフルラウンド(基本的にラウンド制のゲームルールがFPSの大会では採用される。)までわざと持ち込ませたら素行不良でこの位置に……。」
「成る程。いつもの水蠍さんだった。」
などと述べたので思わず頷いてしまった。確かにそれなら面目的な意味でSクラスは入れないけどBクラス以下だと毎回の様に同じ事が繰り返され心を病んだ人が自主退学や転科しかねない。その点、ある程度は抑え込める実力があり尚且つ煽り耐性も高いだろうAランク帯の人間の中に放り込まれたのは納得の理由だった。
水姫と話し込んでいるとドーム内の照明が落とされ、入学式が始まるとの放送が流れた。とは言っても電網学園の入学式は普通の高校のものとは違い祝辞や学園長の話などと言った伝統的な物はない。彼らの様な特殊な選手育成を求めた学園故に入学式すらも時間を無駄にはしないという学園長自らの心意気だった。
代わりに入学式では卒業生の中でもより活躍している選手のフラグムービー(要するに良い所を詰めたダイジェスト動画)が各科毎に流される。その動画が終わった後に中央のステージへと1人の生徒が登壇し一礼。マイクを手にして周囲を見渡した。
『不肖ながら現生徒会長である
竪山生徒会長が頭を下げると同時にドームの中から割れんばかりの拍手が生まれる。ただ感服したからではない。学生ながら日本のMOBAの選手を務め、『浮沈の盾』とまで呼ばれる最硬のTank(MOBAにおける体力や防御力の高いキャラの事)プレイヤーからの激励となれば当然だった。
その後、照明が点灯し上級生の案内の元各クラスへと移動を行う事に。その間特に話す事なく教室へと足を運んだ鉄達だったが、教室に到着し扉を開いた途端全員が驚きの声を上げた。なんとそこには国内モデルとしては最高峰とも言えるPCが人数分、更には一人当たり学習机4つを重ねた広さを持つデスクが並び、椅子も全てゲーミングチェア。そして教卓の横にはそれらを繋ぐ強大なHUBがあり回線等も安定しているという正にゲーマーならば喉から手が出る環境だった。
「やはりいつになっても新入生はこの光景に驚くんだね。いやはや。新鮮でよろしい。」
そのHUBの横に立っていた背中まで伸びた白い長髪に眼鏡をかけた男性が和やかに微笑む。どうやら教員らしき雰囲気を醸し出しているが鉄には誰か分からなかった。しかし、同じくAクラスで別の科らしき女子生徒が悲鳴の様な声で名前を呼んだ。
「ま、ま、まさかあの……shoot the kids(eスポーツ公認のTPS。余談ではありますがタイトルなどは勿論フィクションです。)の元日本代表オフェンサーの、白狼様では……⁈」
「正解。という事は君はTPS科だね。よろしく。」
青年が微笑んだ瞬間その女子生徒は気を失った。というか男が見てもイケメンオーラヤバいのに微笑んで尚且つイケメンボイスとか現実とネット共に最強かよ。と内心ツッコミつつどうすればいいか彼に聞く。
「あ、とりあえず皆名前が張られている場所に座って。ゲーミングチェアだからその子も気絶しながら座れるだろうから女の子達運んであげて。……ありがとう。改めてようこそ電網学園へ。僕はAクラス担任の
礼儀正しく頭を下げた日下部先生を拍手で迎える。その後、PCを立ち上げる様に指示を出した彼はそのままデバイスを接続させ確認、更には各人のPCに其々選択した科に応じたゲームが入っているかどうかを確認させた。
「とりあえず最初の確認とかはこれで終わりかな。あ、後は自分の校内ランキングは常に学園サイトで確認出来るから後程見ておく様にね。それじゃ一旦休憩にしようか。」
クラス全員が確認し終えたのを見渡した日下部先生は二度頷いた後全員(気絶した女子も途中から気を取り戻していた)を立たせ終業の礼をし、教室を後にした。
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