初めてのバレンタイン

 小学校5年生の時、隣にものすごく勉強のできる女子がいた。


「おまえ、なんでそんなに頭いいの?」


 ある日、そう訊くと彼女は「頭いいわけじゃなくて、毎日予習と復習をしっかりやってるだけだ」と笑った。


 僕は、毎日「予習と復習」をする人が世の中にいることに衝撃を受けた。


「Kもやってみなよ、ね、一緒にやろうよ」



--- 彼女のその一言が僕の人生を変えた。



 翌日から僕たちは、朝学校に行くと前日の夜どこまで予習復習をしたかをお互いに見せ合い、褒めあい、毎日勉強するようになった。


 突然人が変わったように勉強をするようになった僕を見て、親も先生も大喜びで、もちろん、学校の成績もどんどん良くなり、学校に行くことが楽しくて仕方なくなっていた。


 それから時が流れて、6年生の最後の2月14日。


 彼女が、チョコレートと手紙を入れた紙袋を僕にくれた。



--- そこには、「Kのことが大好きだ」と書かれていた。



 ただ、どうしてチョコレートが入っているのか、僕には意味が分からなかった。


「なんでチョコが入ってるの?」と訊くと、


--- 「バレンタインだから」と言われて、


「なにそれ?」って感じだったけど、詳しくは教えてくれなかった。


 家に帰って早速母親に話したら、ウチの親もそういうのに疎くて全然わからず「すぐお礼しなさい」と言われて、あわてて僕もチョコを買いに行き、「俺も好きだ」と返事を書いて、翌日学校に持って行った。


「はい、これ昨日のお礼」

「なにこれ?」


 彼女はチョコを見て大笑いし、「OKなら、男は3月14日にクッキーを返すんだよ」と説明してくれた。


「え?でも、返事、手紙に書いてきたよ」と言ったら、


「じゃあ、手紙だけちょうだい」と言われて、手紙だけ渡した。


 それを読んだ彼女はとってもうれしそうだった。

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