指で描いたお日様

 高校を卒業してすぐ自動車の免許を取った。


 カーステレオで音楽を流しながら街を走ると、それだけで何となくドラマの主人公になったような快感を覚えた。


--- 誰かを助手席に乗せて走りたい


 恋人のいなかった僕は、何しろ僕の隣に座ってくれる「誰か」が欲しくて仕方なかった。


 そんなある日、高校時代のバンドの友だちが、そいつの彼女とその友達の女の子の4人で遊びに行かないか?と誘ってきた。


 そこで知り合ったのがサリーちゃんだった。


「さゆりなので、サリーなの」


 サリーちゃんは、そう言って人懐っこい笑顔でいきなり僕のことを「Kちゃん」と呼んでくれた。


--- 髪が長く背の高いスリムで明るい子だ


 僕は知りあって間もない彼女に、「オレの夢を聞いてくれる?」と聞いてみた。


「なあに?」

「オレね、助手席に女の子を乗せてドライブしてみたいの」


 僕がそう言うと、サリーちゃんは、二つ返事で「いいよ!」と言ってくれた。


「どこに行く?」

「えっとね、江の島に海を見に行きたいんだ」


 僕が唐突にそう言うと、意外にもサリーちゃんは飛び跳ねるみたいにして喜んで、僕たちは翌日の朝、早速サリーちゃんの家の前で待ち合わせることにした。


「あのね、親に見つかるとうるさいからぁ~、あっちの原っぱの方にクルマを停めて待っててくれる?」

「わかった!」


 友だちのクルマで彼女を家まで送ったとき、別れ間際に僕たちはそう約束をかわした。


「じゃあ、明日、朝5時ね」

「うん」


 サリーちゃんは、にっこり笑ってそう答えた。


「あ、あのさ・・・」

「ん?」

「もし、雨だったらどうする?・・・」


 恋愛経験の浅い僕は、つい余計なことを言って迷わせるようなことをすぐしてしまう。


「雨だったら?」


 サリーちゃんは、一瞬思案顔をした後、ニッコリ笑って「じゃあ、あたしテルテル坊主つくるね」と言った。


◇ ◇ ◇


 朝5時。

 

 朝からシトシトと静かな雨が降っていた。


(雨降っちゃったな・・・)


 僕は、雨が降ったからドライブは中止にしようと言われるのが恐くて、待ち合わせの原っぱに停めたクルマの中で落ち着きがなかった。


--- 暗闇の中、ダッシュボードのデジタル時計が、5:00を示した。


 時間ぴったりに助手席の窓をたたいて、サリーちゃんが現れた。


 傘をたたみながら助手席に腰かけて、「おはよう!」と笑ってる。


 僕は、嬉しくてどう反応してよいか分からず、少しあわてながら答えた。


「雨になっちゃったね・・・どうする?海・・・」


 恋愛経験の浅い僕は、ここでもまた、余計なことを言って迷わせるようなことをしてしまった。


 僕が反応をうかがうようにして彼女を見ると、サリーちゃんは笑いながらフロントガラスに指で何かを描いている。


「見て」


--- 息で曇ったガラスに指で描いたお日様が笑ってる。


「お日様描いたから晴れるよ」


 僕は、その言葉に安堵した。


「じゃ、行こうか!」

「うん!」


 僕は、暗闇の中ゆっくりとアクセルを踏み、クルマは滑るように人気のない雨の道を走りだした。


 大好きな音楽をかけながら、助手席を見るとサリーちゃんが笑ってる。


◇ ◇ ◇


 今でも、静かな雨の降る明け方にクルマに乗ると、サリーちゃんを思い出す。


 恋じゃないけど、恋みたいな不思議な思い出。


 ドライブの後「I love Sally」という曲を書いたけど、結局、その後、聴かせることができなかった。


--- なんでだろう???


お.わ.り.


I Love Sally

https://www.youtube.com/watch?v=z7A9X86cxHo

 

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