恋のようなそうじゃないような

Kei

真夜中のピースオブケイク

僕が「ひとみちゃん」と出会ったのは、大学2年の夏、合コンの席だった。

ひとつ年下の彼女は、長野から上京してきて、僕の大学のすぐ近くの女子大に通っていた。


ひとみちゃんは、色白で少し病気がちな感じのとてもおとなしい女性だ。

話しかけると緊張するのか、少し顔を赤らめて恥ずかしそうにしている。


合コンが終わって席を立つ時、僕は何気なく彼女に聞いてみた。


「ひとみちゃん、家どこ?」

「わたし、板橋。Kさんは?」

「え?僕も板橋だよ!」


なんと、ひとみちゃんの家は、僕の家から歩いて3分ほどのすごく近いところだったんだ!


長野県の実家の両親はとても厳しい人らしく、「東京で悪い男にひっかからないように」と、親戚のおばさんが経営しているアパートの2階に、厳重な管理体制の元で住んでいた。


一方、僕は、そこから歩いて3分ほどのぼろぼろの安いアパートを借りて、ひとりで住んでいた。



合コンの後、僕たちは複数の男女でコーヒーを飲みに行ったり、テニスをしたりしたけど、ひとみちゃんと二人きりで会うことは一度もなかった。


--------- 僕らはそうして、普通の友だちとして過ごしたんだ。 


一緒に合コンをした仲間の中には、

その後、付き合ったカップルもいたけど、うまくいかずに別れたりして、

結局、「友だち以上の関係」にならなかった僕とひとみちゃんは、

そのあとも普通の友だちとして学生時代を穏やかに過ごしていったんだ。


ある日のこと、バイトが終わって、夜11時過ぎに家に帰る途中、

ひとみちゃんの家の前を通りかかると、2階の窓のカーテン越しに人影が見えた。


 (あ!ひとみちゃんだ!)


僕は、小さな声で


「ひとみちゃん!ひとみちゃん!」 と、呼んでみた。


ひとみちゃんはまだ窓際に立っている。

管理人のおばさんは1階に住んでいる。


 (見つかったらやばいな~)


今度は、猫の鳴き声で呼んでみた。


「にゃ~、にゃ~」


すると、ひとみちゃんは、猫の声に気づいて窓をガラリと開けて顔を出したんだ。


「だれ?」


不審そうに細い声で尋ねた。


「おれ!おれ!K!」

「あ!Kさん?ははは、どうしたの?」


僕たちは、虫の鳴くような小さな声で話した。


「ひとみちゃん、ヒマ?コーヒー飲みに行こうよ!!」

「え?だめよ、こんな遅くに!」

「いいじゃん、コーヒー一杯だけ!」

「だめよ、おばさんに見つかったら大変!」


そんな風に話しながら、結局、なんとか彼女を説得して、

管理人のおばさんに見つからないように静かに扉を閉じて、

僕らは24時間営業のファミレスに歩いて行った。



歩きながら僕はひとみちゃんに言った。


「ねえ、ひとみちゃん、手つないでいい?」

「え?」


ひとみちゃんは驚いた様子で僕を見た。


「だめ?」 僕は、少しふざけた感じでもう一回聞いた。


「はははは、何言ってんの~?ダメに決まってるじゃない~」

「どうして~?」

「だめ!私たち恋人じゃないんだもん」


そんな風に言ってた。


--- 真夜中のピースオブケイク


僕とひとみちゃんが二人きりではじめて食べたケーキの味は、なんとなくレモンの香りがしていた。


◇ ◇ ◇


やがて2年の月日が流れて、卒業してひとみちゃんは長野県に帰って行った。


結局、知り合ってから2年間ずっと、僕らは「ただの友だち」だったけど、

心にずっと残る思い出をくれたひとみちゃんでした~


お.わ.り.

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