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 空になったグラスを受け取って新しいものを作る。サラトガ・クーラーはジンジャーエールとライムの爽やかな一杯だ。酒豪の蘭子さんには足りないのだろうけど、きっとそんなことは些細なことなのだろう。オーダーして飲みながらバーテンダーと話す。蘭子さんがしたいのはこれだろうから。

「明日は早くないんですか?」

「遅くないわけないじゃないの。社長だとしても重役出勤はしたくない主義なの」

「さすが蘭子さん」

「当たり前でしょ。私を誰だと思っているのよ」

「超やり手の女性社長、ですよ。それで、どうするんですか」

「え? どうするって、なにを?」

 何をとぼけているんだ。

「浩太郎さんとのこれからの事ですよ」

「浩太郎ねぇ・・・隣に私が居るのに他の女のホワイトデーの贈り物を考えるわ相談するわ、そんな男の事なんて」

 男の事なんて。

「嫌いになりました?」

 つい、意地悪な顔になってしまうのは生まれつきそう言う性格なんだ。

「・・・好き」

「そうでしょうね。蘭子さんが浩太郎さんの事を嫌いになることなんて、想像できませんもの」

 その表情を見れば分かる。どれだけ浩太郎さんの事が好きか。

「私の気持ちが全部浩太郎に伝わればいいのに。見ただけで気持ちが分かるような機械が早く出来ればいいのにね」

 そう言って蘭子さんはうっすら頬を染めて深く息を吐く。

 でもきっと、そんな無粋な機械がないからこそ、こんなにも可愛くて素敵な表情が出来るんだろうなと、俺は思うわけで。

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