第二十九話 シトラス先輩は××××に激怒する!? エッ……!
この日は相当、時間の流れがゆっくりと進んでいくようだった。
シトラス先輩を心配する気持ちは何かの間違いだったのだろうか。
今日の私は、ずっと考えていた。
「どう考えても、レモン先輩はシトラス先輩のことが好きだ、系な。あれは、シトラス先輩がレモン先輩の隙を窺って獲物を狙っている、系な」
私の独り言を聞いて、ナツカンとヤマトタチバナが隣の席で頷いている。
「うんうん! 痴話喧嘩は良いぞ! 犬も食わないっていうからな!」
「犬も食わないって言うのは、蜜の味系な人が食べれないからだろうな!」
「確かに! 私もシトラス先輩のことはスパッと忘れます、系な!」
「「おおー!」」
私は、ナツカンとヤマトタチバナに宣言した。
ナツカンとヤマトタチバナは、拍手喝采を送ってくれた。
この日は、グレープフルーツ先生のお茶目な授業が面白くて、残りの授業も楽しく受けることができたのだった。
放課後になり、私はいつものように体育館に向かう。
今日は何故か長い一日だったが、あと一勝なので私の足取りも軽い。
いつものように体育館の更衣室で着替えて、いつものようにあの竹刀を持って、いつものように勝てば良い。
「あと一勝で、千勝、系なー! 千勝したらクエン酸先輩のお兄さんも大喜び、系なー!」
「シットラン!」
体育館に向かう途中、声を掛けられた。この勝ち気な声はレモン先輩だ。
ペンダントが返って来たので、私にかける声も嬉しそうだ。
多分、縒りが戻ったという報告がしたいのかもしれない。
私は半ば辟易した気持ちで振り返った。
やはり、そこにはレモン先輩が居た。
「系な!?」
しかし、私はレモン先輩の格好に驚きを隠せない。
レモン先輩は剣道着と剣道袴姿でこちらに歩いてきていた。
レモン先輩の素足の静かな音が、私の目の前で止まった。
「どうして、レモン先輩が剣道の格好をしているんですか、系な?」
「私が、最後の剣道の相手だからだ、シットラン!」
「エッ……!」
私は思わず絶句した。
レモン先輩が最後の剣道の相手なんて、クエン酸先輩から何も訊いていない。
「あはは」
レモン先輩の後ろで、よく知った笑い声がした。
レモン先輩の方に歩いてきたのは、シトラス先輩だった。
「頑張ってね、シットラン。勿論、俺はレモンを応援するけどね」
「系な……」
「――……」
「――……!」
レモン先輩とシトラス先輩の仲良く話している声を聞いていると、空間が切り離されたような、自動車の中で外の声を聴いているような、奇妙な感じがした。
「ちょっと、剣道着に着替えてきます、系な!」
そうして、私は更衣室の方に走った。心がグツグツと煮えたぎっているかのようだ。
シトラス先輩が何を考えているのかは、今更考えるまでもないことだ。
「あれ? シットラン?」
向こうから、またシトラス先輩が歩いてくるのが見えた。
話忘れた事でもあるのだろうか。
レモン先輩は、一緒には来ていないようだが。
私は眉をつり上げて、怒鳴り散らした。
「要するに、獲物を捕まえようとしたけれど失敗した、系な。だから、レモン先輩とよりを戻したということ、系な? 私の心配する感情は、どこに持っていけばいい、系なーッ!」
私は、言いたい放題叫んだあと、剣道をすっぽかして、さっさと下校した。
これぐらいやっても、罰は当たらないだろう。
私は、近所にある自動販売機でジュースを買い込んで六本飲んだ。
くだらないことで心を悩ませる前にさっさと眠った後、翌朝にはすっかり心も軽くなって、アカデミーに着くころには全快していたのだった。
◆ ◇ ◆
シットランが、シトラスにブチ切れて怒鳴り散らした後のことだ。
シトラスは、瞠目したまま去って行く私の方を眺めていた。
「えっ? どういうことだ?」
シトラスは暫く考えていたが、向こうから足音が近づいてきたことに気づいて、顔を上げた。
「やあ、シトラス」
そう呼んだのは、シトラスが一番よく知っている相手だった。
そのシトラスの良く知っている相手の横には、レモン先輩が居る。
「シトラス。シットランは来なかったか」
シトラスが一番よく知っている相手とレモンが、シットランを探していることを知って、シトラスの瞳が揺れている。
「シトラル……? レモンさん?」
シトラスは、自分の一番よく知っている相手の名を呼んだ。
シトラルは、シトラスにそっくりだった。
「お前ら、いい加減、シットランを巻き込むな!? いい加減にしろ!!」
シトラスの怒鳴り声が、校舎裏に響き渡ったのだった。
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