第二十八話 シトラス先輩の壁ドンに激怒!? け、系な~ッ!?
昼休みになり、私は購買部に自分の糧を買いに走った。購買部はバーゲンセールに群がるひとのように盛況で、私の入り込める隙間もない。順番待ちして自分の番になると、既に狙っていたパンは売り切れていた。餌を手に入れた犬のように、生徒達は嬉しそうに教室に戻っていく。立ち去っていくまばらな足音を私は薄目で眺める。購買部の方に視線を戻しても、並べているパンの箱は既に空だ。
「やっぱり来るのが遅かった、系なー。食堂で何か食べる、系なー」
「シットラン、あげるよ?」
「系な?」
きびすを返そうとした私の前に、パンが差し出された。そのパンは、キラキラと光彩を放っているようだ。
「これは、私が狙っていたパン、系なー!」
私は、そっと両手を伸ばして受け取った。一体誰が、私にこんなに美味しそうなこのパンをくれたのだろう。顔を上げると、シトラス先輩が微笑んでいた。
「えっ! シトラス先輩!」
「あはは」
このパンに匹敵する質の良さに、私は引きつった笑みを浮かべていた。
「シットラン。一緒に食べよう」
「は、はい? レモン先輩はどうなったんですか、系な?」
「レモンは、他に好きなひとが居るんだよ。なんてね」
「やっぱり、食堂で何か食べます、系な。このパンは要らない、系な」
「あはは」
シトラス先輩が、笑いながら近づいてきた。
私は後退するしかなく、壁に背中が当たった。
「あはは」
シトラス先輩が、壁に両手でドンしてきたので、私はサッと身をかがめた。
シトラス先輩の脇の下からくぐって、廊下を颯爽と走り抜けたのだった。
私は、たらりたらりと顎に滴りそうな汗をぬぐう。
「あっぶね! あれは相当の狩人だ、系な! 獲物を狩る目をしていました、系な!」
私は、購買部の方を振り返る。
要するに、シトラス先輩がああいう風に近づいてきたのは、悩みを訊いて欲しいからではなく、獲物を狩るための――。
「やっぱり、食堂で何か食べる、系なー」
気を取り直して、私は食堂に向かったのだった。
◆ ◆ ◆
その直後のことだ。
「あはは」
シトラス先輩が私が立ち去った後を眺めて、楽しそうに笑っていた。
「本当に面白い子だな、シットランは」
「――!?」
シトラス先輩のことを誰かが怒鳴った。
その誰かが、シトラス先輩の方に駆けて来た。
シトラス先輩は、ゆっくりとその方向を振り返る。
「何考えてるんだ、お前?」
シトラス先輩の襟首を掴み上げて、大声で怒鳴る。
「シットランに近づくな!? 二度と、シットランに近づくな!!」
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