第十八話 謎のレモン先輩現る! ペンダントの怪! 系な……。

 相手が私の方に竹刀しないを振るって来る。

 直ぐに、つばぜり合いになるが、私は斜め後ろに飛びのいた。

 そのまま、大股で足を踏み込んで竹刀しないを伸ばす。


「小手ーッ! 系なーッ!」

「小手!」


 審判の旗が私の方に上がる。

 その後も、私は良い調子で勝ち続けて、とうとう五百連勝に達した。

 周りの見物人から、歓声が上がる。

 私は、面を顔から外した。


「くっ……負けました!」

「ついに、五百連勝ですよ、系な!」


 近くの自動販売機でジュースを買って飲んでいると、向こうから誰かが私の方に歩いてきた。

 最高に上質なひとで、私はジュースを飲みながら瞠目していた。

 このアカデミーにこんな上質な女子が居るだなんて――そこまで考えて、私はもうひとり同じ上質なひとがいることを思い出していた。

 このひとは、あのひととは同じ品種ではないけれど、並んでも見劣りしない。

 そんなことを想いながら、そのひとが通り過ぎるのを横目で見ていた。

 フワッと、柑橘系の匂いが香ったと思った。

 良い匂いに驚いていると、足音が私の傍で止まった。


「ちょっと待て!」

「は、はい?」


 そのひとは、振り返った私に注視している。

 品定めするように足の先から頭の先まで私を観察した後、視線が私の剣道着の上に留まる。

 私は、口からペットボトルを外して剣道着の方に視線を下げた。

 すると、剣道着の上に、シトラス先輩から貰ったペンダントがぶら下がっていた。

 仕舞うのを忘れていた!

 見知らぬ学生だから、先生に告げ口されては事だ。

 私は慌てて、剣道着の下にペンダントを仕舞った。


「……」


 見知らぬ学生は、私を冷めたような目で見ている。

 私は、その学生の制服が自分の制服とは少し違う事に気づいた。

 これは、一年生の制服でなければ、二年生の制服でもない。

 このひとは、三年生の先輩だ。


「はは……じゃあ、失礼します、系な」


 から笑いした私は、その場から去ろうとした。

 冷や汗が、体の汗腺に戻って行くようだ。

 安堵しながら、更衣室に向かおうとした。

 しかし、手が伸びてきて、私の手を引っ張った。


「待て!」

「な、なんですかァ! びっくりする、系なァ!」


 振り返ると、先ほどの三年生の先輩だった。

 その先輩の目が、微かにつり上がって、整った顔に凄みが増している。


「……!?」


 電気のような気迫を微かに感じて、私はビクッとなった。

 私の腕を掴んだ手に力が込められている。


「お前は、剣道で何百連勝しているっていうあのシットランか?」

「人違いです、系な!」

「私は、三年のレモン・トップツエエだ」


 私は、このレモン先輩が相当ヤバい気を放っていることに気づいた。


「そのペンダントをどこで手に入れた?」

「えっ? 貰いました、系な?」


 どうやら、レモン先輩はこのペンダントを誰かから貰ったのかが知りたいらしい。

 しかし、レモン先輩の気迫が増した。

 静電気のような気迫が、電気のような気迫になった。


「誰から?」

「えーッ!? だ、誰から、系な?」


 私は、瞬時に思考を張り巡らした。

 正直にシトラス先輩からだと話しても良いが、レモン先輩はかなり質が良い柑橘系だが、相当怖いひとではないか?

 正直に、シトラス先輩だと話さないほうが良いのでは?

 正直に話してしまえば、シトラス先輩にもしものことが――!?

 私は、ヤバい想像をしてしまいそうになり、瞬時に考えを消した。


「とある先輩からかもしれません、系な!」

「とある先輩? やっぱりアイツかァ!」


 レモン先輩の気迫が増して刺さりそうになったが、逃げられない。

 こちらに敵意は向いていないので、私は無事だ。危ないところだった。


「アイツ!! 許さん!! 許さーん!!」


 何故か、私の腕からレモン先輩の手が離れていた。

 物凄い怒気を放ちながら、レモン先輩は去って行った。


「し……シトラス先輩、大丈夫かな、系な?」


 恐らく、シトラス先輩はレモン先輩のことで悩んでいるのではないか。

 シトラス先輩は、大丈夫だろうか。

 後で、こっそりこれを返そう。

 厄介なものを押し付けられた失望感もあるが、二度とシトラス先輩の悩みを詮索しないようにしよう。

 そう、私は決心したのだった。

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