第十六話 お祭りとシトラス先輩のプレゼント! けけけけけ、系なァ!?

 それから、リモネス大陸の全アカデミーは夏休みに入った。

 私に抜かりはない。最初の十日に課題を全て済ませた。

 あとの二ヵ月は剣道三昧だった。しかも、私の完勝だった。

 四百連勝が近づいてきた時、開け放った窓から、祭りばやしが聞こえてきた。

 私は、窓から身を乗り出した。


「もしかして、今日はお祭り、系な?」


 すぐさま、ナツカンとヤマトタチバナに連絡を取って、神社で待ち合わせることになった。

 しかし、お祭りには早く来すぎてしまったようだ。

 ナツカンとヤマトタチバナは、まだ姿を見せる気配はない。

 スマホを確認すると、三十分も早かった。

 しかし、こうして待つのは退屈だ。

 まだ、どこかの飲食店で待ち合わせるなら、何かを注文してから待てば時間など気にならないのに。


「お祭りの出店が気になる、系な」


 こういう出店で売っているものは、何故か分からないが、妙な魅力がある。

 駄菓子屋などにあるおまけのようなものが物凄く欲しく感じたり、安い景品が物凄く魅力的に映ったりする。

 家に持ち帰って置いていても、そこに思い出が詰まっている感がして素敵だ。


 私はふらふらと、出店を見て回っていた。

 屋台の美味しい物を全て買い占めると、お小遣いがなくなってしまった。

 あとは、これをナツカンとヤマトタチバナが来るまでどこかで座って食べよう。

 ぺろりと舌なめずりしてから、踵を返そうとしたときだった。


「う、あ! 系な!」

「あ、ゴメン?」


 誰かにぶつかって、焼きとうもろこしとイカ焼き・たこ焼き・お好み焼き・焼きそば・ベビーカステラ・リンゴ飴・フランクフルト・わたあめ・かき氷を落としそうになった。


「ああっ! 私の愛しい祭りメシが、系な!」


 私は、慌てて手を伸ばす。

 しかし、そこを素早く誰かが、焼きとうもろこしとイカ焼き・たこ焼き・お好み焼き・焼きそば・ベビーカステラ・リンゴ飴・フランクフルト・わたあめ・かき氷を受け止めてくれた。


「なんて、素敵なひと! ドキン! 系な!」


 私の空腹の胃袋に入れるメシを守ってくれるだなんて、なんて素敵なひとなのだろう。

 もしかして、私の運命のひとだろうか。

 私はそのひとが、格好良く後ろ向きでキャッチしたのをキラキラとした目で見ていた。

 そのひとが、天高くタワーのように積まれた祭りメシを持って、器用にバランスを取りながら、こちらを振り返った。


「大丈夫? アレ? シットランじゃないか?」

「アレ? 系な! シトラス先輩!? 系な!?」


 私はうず高く積まれた、焼きとうもろこしとイカ焼き・たこ焼き・お好み焼き・焼きそば・ベビーカステラ・リンゴ飴・フランクフルト・わたあめ・かき氷を受け取りながらバランスを取る。


「ありがとうございます、系な!」


 私は、シトラス先輩の格好良さに感服していた。

 しかし、ここで格好良さに気を取られては私の祭りメシが地に落ちて食べれなくなる。

 私は、平常心を保ちながらバランスを取った。

 今日のシトラス先輩は私服だった! 眼福です!

 そう言いたい気持ちを押さえて、平常心でバランスを保つ。


「じゃあね、シットラン?」

「あの! やっぱり、ポンス先輩と何かあったんですか、系な!」

「えっ?」

「相談に乗りましょうか、系な!」

「えっ? えっ? あ、まさか!?」


 シトラス先輩は、疑問符を浮かべていたが、急に合点がいったようだ。

 なぜか、シトラス先輩は自分のショルダーバッグの中をあさると、私に何かを押し付けてきた。


「うわっと、系な!」


 私はバランスを崩して、焼きとうもろこしとイカ焼き・たこ焼き・お好み焼き・焼きそば・ベビーカステラ・リンゴ飴・フランクフルト・わたあめ・かき氷を落としそうになったが、シトラス先輩のお陰で祭りメシのタワーは崩れなかった。


「それ、あげるから、俺のことは詮索しないでね?」

「えっ? 系な? えっ? 系な?」


 シトラス先輩は、そのまま去って行った。

 私は、近くの広場に場所を移して、焼きとうもろこしとイカ焼き・たこ焼き・お好み焼き・焼きそば・ベビーカステラ・リンゴ飴・フランクフルト・わたあめ・かき氷をベンチに置いた。

 ナツカンとヤマトタチバナにスマホで待ち合わせ場所を変更した旨を知らせる。

 そして、シトラス先輩からもらったものを確認する。


「あー、ハッハッハ! ハッハッハ! 何だァ、ペンダントですよ、って、系な~! って!?」


 私は手の中の物を二度見した。

 二度も三度も確認する。

 しかし、そのブツはペンダントだ。

 まぎれもないペンダントだった。


「なっ!? なんで、なんで、シトラス先輩がプレゼント、けけけけけ、系なァ!」


 私は、まばゆく光りそうなペンダントを見つめた。

 これは、お祭り系のペンダントではない。

 なんか、知らんが、高そうなペンダントだ。

 ハッとして後ろを振り向く。

 そこには、ナツカンとヤマトタチバナが、白い目と半開きの口で、何か言いたげに突っ立っていた。


「なんでしょうか、系な?」

「いや、鏡の差し入れは居るかなと思ってさ」

「その祭りメシを平らげたら、こやしが効いて、丸々とした柑橘系になるような気がするぜ」

「……!?」


 私は、そんなことではへこたれない。今日も明日も突き進む。日進月歩な私だった。


「今日は、完全な勝利だと思うのは気のせいでしょうか、系な!?」

「「気のせいだと思うよ~ハッハッハ!」」

「……!?」


 それでも、ナツカンとヤマトタチバナに、くじけない私だった。

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