第十三話 シトラス先輩とポンス先輩の真相! 系な!?

 それから、私の連勝記録は二百連勝に至った。

 二百連勝もすると、クエン酸先輩が用意してくる稽古相手のレベルも桁違いになってきた。

 実際の所、剣道をすると、ほんの少し疲労感を覚える。

 しかし、十連勝ほど繰り返すと、かなりぐったりする。

 しかし、授業を受けていると、いつの間にか眠っている。

 起きると下校時間になっていて、いつの間にか全回復しているという、お手軽な私だった。


 帰り際に、いつものように自動販売機でジュースを買う。

 ジュースを買うようになったのも、ポンス先輩にジュースを貰ってからだ。

 ポンス先輩がくれたジュースが美味しかったので、校内で売っていないかと確かめたところ、自動販売機で売っていたというわけだ。

 このジュースを飲むと、喉の渇きが癒やされるだけではなく、疲労感が取れていくような、ホッと一息付ける心地がした。


「あれ? シットラン?」

「……?」


 自動販売機の前でジュースを一気飲みしていると、横から声がかかった。

 私はジュースを飲みながら、声の方に横目を向ける。


「シットランは、今から帰るの?」

「……!?」


 私は思わず吹き出しそうになったが、平常心を保ったままジュースを飲み終えることができた。

 声を掛けてきたのは、シトラス先輩だった。

 シトラス先輩は、にこにこしながらこちらに歩いてきた。

 何故か、シトラス先輩の上質感が増している。


「今日も暑いね? 俺もジュース買おう……?」


 シトラス先輩も自動販売機でジュースを買い求めていた。

 いつの間にか、季節は夏になっていた。

 やはり、水分補給は私たちにとって必須だ。常にみずみずしくなければいけない。


 シトラス先輩が自分の腰に手をやってジュースを一気飲みしていた。

 そんなとき、私はハッと我に返った。

 すっかり忘れていた。すっかり忘れていたが、今思い出した。

 この間、シトラス先輩のことで頭にきていたことを。

 そのことを思い出した私は、シトラス先輩を怒鳴ろうとした。


「あの! 系な!」

「んー、このジュースはシットランよ~? なんてね?」

「……!?」


 私は、唖然となった。

 これは、シトラス先輩のギャグなのだろうか。

 気持ちを削がれた私だったが、再びシトラス先輩に怒りを向けた。


「あの! シトラス先輩、系な!」

「何かな、シットラン?」

「シトラス先輩は、私のことをおちょくっているんですか! 系な!」


 シトラス先輩はゴミ箱に空き缶を捨てて、私の方を振り返った。

 目をぱちくりさせている。


「おちょくっているって何かな? ああ、さっきの言葉遊び?」

「私は、シトラス先輩の事を心配しているのに! 系な!」


 シトラス先輩は、困ったように笑っていた。


「ああ、それでポンスが俺とどうとか言っていたのかな?」

「はい! 系な! もしかして、ポンス先輩のせいなんですか、系な?」

「えっ?」

「シトラス先輩を苦しめているのは、ポンス先輩なんですか、系な?」

「なんで、ポンスが出てくるのかな?」

「あるひとから、シトラス先輩の知り合いの重要なひと三人に苦しめられているって訊いたんで、もしかしたら、その一人がポンス先輩なんじゃないかって思いました、系な!」

「……」

「どうでも良いんですが、良かったら相談に乗りますよ、系な!」


 シトラス先輩は、ハッと笑ってから、疲れたような目をこちらに向けた。


「おせっかいは止めてくれないかな?」

「じゃあ、止めます、系な」

「それに、ポンスはアカデミーのエースだけど、クラスも違うし、俺とは全く『面識がない』んだ?」

「えっ! 系な!? 面識がないって、会ったことがないってことですか、系な!?」

「そう! だから、余計な詮索はしないでくれないかな……? じゃあ、またね、シットラン?」


 シトラス先輩はそのまま帰って行った。

 私は、呆気に取られていた。

 ポンス先輩とシトラス先輩は付き合っていない?

 いや、それどころか、面識がない?

 でも、クエン酸先輩は――!

 ということは、クエン酸先輩が嘘を吐いたのか!?


「やられたー! クエン酸先輩にしてやられたー! 系なーッ!」


 クエン酸先輩にしてやられた今日この頃。


「クエン酸先輩は、煮ても焼いてもクエン酸だー! 系なー!」


 私は、またしても太陽に向かって青春するのだった。

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