第十一話 シトラス先輩の恋愛事情が分からない、系な!?

 その翌日から、私は剣道で連勝を繰り返していた。

 もはやポンス先輩と付き合っているらしいシトラス先輩のこともすっかり記憶の隅に追い遣って、気がついたときにはいつも通りの日常生活に戻っていた。


 忘れ物をした私は、教室に取りに戻っていた。


「タブレットを忘れるなんて、猿も木から落ちる、系なー……」


 他に忘れ物がないか、机の中を見てみると、見慣れた手紙があることに気づいた。

 これは、クエン酸先輩が良くくれるアニメ風の封筒だ。


「どういうことですか、系な? クエン酸先輩がここに来たんですか、系な?」


 私は、教室の中を見渡した。ひとっ子ひとり居ない。

 私は、勢い良く便箋を開封してから、便箋を取り出した。


「今度は、一体何だ……系な?」


「『シトラスがポンスのことで悩んでいる。相談に乗るべし』」


 私は、文面から顔を上げて、寝起きのような目を教室の中に向けた。


「シトラス先輩はポンス先輩と付き合って解決したんじゃないんですか、系な……?」


 もちろん、教室の中を見渡しても、クエン酸先輩もシトラス先輩も居るはずもない。

 クエン酸先輩もシトラス先輩も何を考えているのか、サッパリ分からない。

 クエン酸先輩は、シトラス先輩をなんだと思っているのか。

 シトラス先輩に至っては、悩んでいるのか、解決したのか、相談に乗れとか、通りすがりの私にどうしてほしいのか。


「シトラス先輩の悩みは分かったけれど、私が果たしてこの相談に乗ってあげることができるのだろうか、系な?」


 教室の中に留まっていても、日が暮れるだけだ。

 私は仕方なく、下校することにした。

 通学路を歩きながら暫く考えてみたが、どうにも良い答えが浮かばない。


「否! 私はシトラス先輩の相談に乗ってあげることができない、系な」


 何故なら、シトラス先輩のこの悩みを聞き出せたとしても、経験の浅い私では恋愛で悩んでいるシトラス先輩の力になどなれそうにないからだ。


「どう考えても、ポンス先輩と付き合っているシトラス先輩の方が恋愛のことをよく知っている! その私がどうやってアドバイスできるというのだ、系な!」


 放課後、補習を受けた後、私はとぼとぼと悩みを抱えながら帰路に就いていた。


「アドバイス、アドバイス……うーん、系な……!」


 もしかしたら、ポンス先輩はシトラス先輩が悩むほど、考えてないかもしれない。

 あんまり、深く考えない方が良い。

 恐らく、ポンス先輩は、シトラス先輩のことが大好きで、他のことは何も考えてない。


「よし! ポンス先輩はシトラス先輩のことが大好きだから悩む必要はないですよ! これで行こう、系なーッ!」


 青春という感じで、私は西の空にそう叫んだ。すると、後ろで足音が止まった。


「あの、シットラン?」

「系な!?」


 噂をすれば影が差した。後ろを振り返った私は、のけぞった。そこには、シトラス先輩が、青ざめた様子で立っていた。


「シトラス先輩、なんで居るんですか、系な?」


 それを聞いたシトラス先輩の瞼が半分落ちた。


「俺が、自宅に帰ろうとしたら何か問題があるのかな?」

「何も問題はないですが、系な」

「シットランが、何か俺の事情を叫んでいたのはどうしてかな?」


 私の額から汗が、たらりとなった。

 これは、まずいのではないか。

 シトラス先輩は青筋立てて笑っている。

 これは、かなり誤解しているのではないか。


「もし、ポンスが俺のことが大好きだったら、と思うんだ?」

「えっ、どういうことですか、系な?」

「じゃあね、シットラン?」


 シトラス先輩は、無理やりにっこり笑って、帰って行った。

 私は、しばらく時を忘れて固まった。どういうことだろう。

 ポンス先輩がシトラス先輩のことを好きだったら、確実に気に悩む?

 ポンス先輩が好きだったら、何故悩むのだろうか。

 付き合っているのに好きと言われて、どうして悩む必要がある?

 相思相愛だから、悩む必要がなくなると思うが。

 愛されすぎて困っているのだろうか。


「ひとの恋愛なんてどうでも良い、系な……」


 私は、再び太陽に向かって叫んだ。


「熱々ラブラブって勝手に悩んでろー! 知るか、系なー!」


 青春の一ページだった。

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