第八話 クエン酸先輩現る、系な!?

 翌日、私は今日もアカデミーで剣道をしていた。

 私は、現在百十人目の稽古相手に立ち向かっているところだった。

 私は、下崩しをかけた。下崩しとは、つばの上につばを乗せて、上から体重をかけて相手の竹刀を押し下げるのが下崩しだ。


「あっ!」


 相手の体勢が崩れたところで素早く踏み込んで、竹刀しないを振り下ろす。


「面ーッ! 系なーッ!」


 竹刀が震えるような小気味の良い音が響き渡った。

 体育館が水を打ったように一瞬静まり返った。


「面!」


 審判の声と共に、私の方に旗が上がる。


「くっ……! 負けました!」

「百十連勝だ、系な!」


 今日も私は、全勝だった。しかし、朝から十人も剣道の相手をすると、流石に疲れてくる。全力で戦うと、体力が持たない。なので、授業をそぞろに、私は机の平らな部分と仲良しだ。目を閉じると時間を忘れて行くようだ。


「シットラン! 今日は俺と剣道しよう!」

「シットラン、今日は俺と剣道だ!」


 ナツカンとヤマトタチバナが剣道を申し込んできたが、今日は戦う気になれなかった。


「私、今日は疲れた、系なー。また、今度にしてくれ、系なー」


 断ってしまったが、二人は嫌な顔一つしなかった。

 むしろ、私に対して友好的だった。

 雑談の話題がまた変わった。


「いや、シットランはあっという間に最強になったな!」


 ナツカンとヤマトタチバナの言葉に、私はにこやかに頷いた。

 種明かしをするように、教室の棚の上に置いてある竹刀しないを持って来た。


「この、竹刀しないのお陰だ、系な!」


 竹刀袋に入っている竹刀を持ってくると、二人はおおーっと言う顔になった。

 ちなみに、均一ショップで百円で買った竹刀袋だ。私は、そこから、竹刀を取り出した。

 竹刀を取り出すと、二人の目が輝き出す。


「なんだそれ! なんか普通の竹刀しないと違わないか!」

「シットラン、ちょっと貸してみ?」

「おっ系なー!」


 私が、獣耳の耳当てを外してナツカンに手渡した。


「ん? 名前があるぞ? コトナイアシッド!? コトナイアシッドさんってあの名工の!?」

「そんなに凄い名工なんですか、系な!」

「密林のサイトで見ても、相当高いぞ!」

「系な!?」


 私は、クエン酸先輩から貰った竹刀しないを見つめていた。

 まさか、そんな大切な竹刀を貸してくれているなんて。

 

 その日の授業は、机と仲良しだったせいか、気が付いた時には下校の時刻になっていた。


「芽が出そうなほどぐっすり眠ってしまいました、系な~」


 今日は剣道しすぎたせいで消耗していた。でも、帰りの時間には全回復していた。

 更衣室で着替えて体育館で待っていると、誰かが声をかけてきた。


「やあ。シットラン」

「クエン酸先輩!? 系な!?」


 聞き覚えのある声だったので、誰かと思えばクエン酸先輩だった。


「クエン酸先輩! こんにちは、系な!」

「この稽古相手が、シットランの相手だよ。準備は良いか」

「えっ!? 系な!?」


 私の前に一人の稽古相手が姿を現した。

 彼は面の中でニタッと笑って、竹刀しないを素早く構えた。


「よろしくな、シットラン!!」

「行くぞ! 系なー!」

「始め!」


 審判の声に、すぐに神経が研ぎ澄まされていく。


「シットランは今日は勝てるかな?」

「えっ? 系な?」


 私は、クエン酸先輩を一瞥した。


「面ーッ!」

「……!?」


 私はハッと我に返り、サッと斜め後ろに飛び退いて、難を逃れた。


「今は、剣道に集中しなければならない、系な! 行きます、系な!」


 そして、私VS稽古相手による、剣道が開始の合図を告げたのだった。



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