第七話 クエン酸先輩の手紙に首を傾げる、系な?

 下校途中のことだった。帰り道の先に、誰かが突っ立っている。それは、私に気づいて顔を上げた。


「やあ、シットラン! 百連勝おめでとう!」

「クエン酸先輩、ありがとう、系な!」


 誰かと思えば、あのクエン酸先輩だった。


「シットランは千年に一度しか採れないほどの上質な逸品だよ! 僕のお兄さんも大喜びだよ!」

「私、頑張りました、系な!」

「実は、シットランに挑んできた中に、僕の用意した稽古相手を交ぜておいたんだよ!」

「えっ! えっ? なんでそんなことをするんですか、系な!?」


 クエン酸先輩は、ニヤリと笑って自分のリュックから何かを取り出して、私に差し出した。

 それは、何の変哲もないアニメのキャラクターの封筒だった。


「これに、シトラスの秘密を書いておいた! 後でゆっくりと読んでくれたまえ!」

「く、クエン酸先輩、何を考えているんですか、系なッ!?」

「シトラスは、一人で抱えていてムカつくから教えてあげるんだよ、君ィ! じゃあな!」


 何が楽しいのか分からないがクエン酸先輩は、弾むような足取りで帰って行った。

 私は、手元のアニメの絵柄の封筒を見つめた。

 私は、クエン酸先輩と別れた後、自宅に急ぐ。


「ただいま~、系な!」


 私は、二階の自分の部屋に駆け上がる。

 そして、自分の部屋に入って、鍵をかける。そして、リュックから封筒を取り出した。


「私は、ひとの秘密なんて知りたくもない、系な。知らないひとなら尚更だ、系な」


 ひとの秘密なんて、知ったところでどうなるというのだ。

 しかも、サスペンスドラマで殺されるのは、大概秘密を知って脅した役だ。

 私は、そんな役は真平御免だ。

 シトラス先輩とは、ついこの間出会ったばかりだ。

 それなのに、無関係の通りすがりに近い私が、その秘密を知っても良いのだろうか。


「でも、ヤバかったら見なかったことにしても良いし、系な」


 その封筒は、しっかりと糊付けしてある。それを開封する。


「シトラス先輩は、何で悩んでいるんだろう、系な?」


 そして、私は、ついに封筒を開けた。

 その中には、三つ折りにした便箋が一枚入っている。

 私は見たくないと思いながら、それを開いた。


「えっと……?『シトラスには、重要な知り合いの三人が居る。その三人のせいでシトラスは悩んで、くるしい思いをしている』……系な?」


 やはり、シトラス先輩は悩んでいたか。

 けれども……。

 私は、首を傾げた。知り合いというのは、友人だろうか。家族だろうか。いや、恋人かもしれない。いや、その部類に入らない人もいる。つまりは顔見知りだ。近所の人でもあり、地域の人でもあり、クラスメイトかもしれないし、アカデミーの先生かもしれないだろう。


「知り合いとは範囲が広い、系な……!」


 私は天井を向いて、嘆息した。

 シトラス先輩とは、この間出会ったばかりだ。

 しかも、数分話しただけだ。

 それなのに、シトラス先輩の知り合いが誰なのか、私が知るはずがないではないか。

 しかし、その重要な人のせいでくるしい思いをしていると書かれてある。


「重要な人とは、どういう人物を示すんだ、系な? 謎かけみたいで分からない、系な……! 畑が違うので分からない、系な!」


 私は、天井を見上げて「うーん、系な?」と考える。

 そこで、私はハッとした。


「でも、クエン酸先輩の言葉が真実とは限らない、系な……」


 もしかして、クエン酸先輩は私に適当なことを言っているのではないか。

 それに、クエン酸先輩がその秘密を知っているのなら、シトラス先輩と友達ならば、何故相談に乗らないのか。


「やっぱり、これはデマ、系な? 余計分からなくなりました、系な」


 私は、嘆息してから、クエン酸先輩から貰った手紙を引き出しに仕舞った。


「やっぱり、見なかったことにしよう! 系なーっと!」

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