第五話 クエン酸先輩の企みと最高傑作の竹刀《しない》、系な!
「アカデミーの
「あ、ありがとうございます、系な……!」
「俺もね、色々あるけど、頑張ってるんだ……?」
シトラス先輩は何処か辛そうだ。初対面だが、それだけは分かる。
辛そうなのが直接伝わってくるので、初対面なのに心配になった。
「何かあったんですか、系な?」
「良いんだ? ゴメンね?」
哀愁漂うシトラス先輩の顔に影が差しているのが、妙に気になる。
相談乗ってください系の話題だったのに、どうして悩みを言わないのだろう。
私は、お預けを食らったように「えっ!」となった。
「シットランも頑張ってね?」
何故、相談事を言わないのだろう。妙にすっきりとしない。奥歯に物が挟まったかのようだ。シトラス先輩の目の前に透明な壁が確かにある。
悩みを話せない何かがあるのだろうか。
「シトラス先輩は何か悩みがあるんですか、系な?」
私は透明な壁を壊す要領で思い切って訊いてみた。
「シットラン、それは言えないな? 多分――あ、涙が!?」
「っ!?」
「俺、涙もろくなっちゃったのかな? ゴメンゴメン、じゃあね……?」
シトラス先輩は、元気に振る舞って去って行った。
さっきのはギャグだろうか。空元気なのだろうか。
でも、悩みをどうして話さないのだろうか。
「えー……」
私は、シトラス先輩の後ろ姿が消えたドアを見つめたまま考えていた。
「大丈夫なのか気になる、系な。でも、ナンパなのかもしれないし、系な」
シトラス先輩が出て行った体育館は静まり返っている。
「うん! 見ず知らずの人だし詮索しないようにしよう、系な!」
私が決心した直後、傍で足音が止まった。
振り向くと真後ろに、誰かが突っ立っていた。
「ぎゃああああああああ、系な!?」
いきなりのことに、私はゾワッとしながら後ずさりした。
すると、見たことのない男の先輩が立っていた。学年が上がって行くと、制服のデザインが微妙に違っていく。ポンス先輩とシトラス先輩と同じ制服だから、二年の先輩だと分かったのだ。その先輩は私の大声に吃驚して、耳栓するように耳に指を突っ込んでいる。
「シットランの大声に耳がキーンとしたよ!」
「系な……?」
なんで、シットランなんて私の名前を知っているんだろう。
胡散臭いので、関わらないでおこう。
私は、愛想笑いを浮かべて教室に戻ろうとした。
「竹刀なら、僕が貸してあげよう!」
「えっ!?」
「シュッ!」
謎の先輩は、私に何かを投げて寄越した。
「系な!?」
私は、反射的にそれを受け取る。
先ほどの
「これは、
「あげるよ! 最強で最高傑作の
「えっ? これを?」
私とその先輩は、無表情で対峙したまま、暫くの間、微動だにしなかった。
その先輩は、ゴホンと咳払いをひとつした。
「それをシットランに貸してあげよう!」
「えっ? これが最強で最高傑作の
「僕のお兄さんが、そういう
「あなたのお兄さんが、系な?」
「その
「この、
投げ返そうと思っていたその
「そう! 僕のお兄さんの最高傑作の
「負けたのに、系な?」
「でも、僕はシットランが一番強いことが分かる!」
「系な!?」
「うん! でも、まあ、最高傑作だから、連敗したらお兄さんが寝込むかもしれないけど」
「連勝は無理でしょう、系な! お兄さんが寝込んだら私の責任だし、系な!」
私は、速攻で断った。
お兄さんが創作意欲をなくして寝込んだら私の責任じゃないか。せっかくの最高傑作の
「僕は、クエン・コトナイアシッドだよ。クエン酸先輩と呼んでください! 僕はシトラスの友人なんだよ!」
なんだ、友人なのかと安堵した。
友人ならシトラスのことは良く知っていることだろう。
「僕のお兄さんの
「ええっ、そんな! 直ぐに負けると思いますが、系な……」
お兄さんは、負けると落ち込むだろう。しかし、勝つと大喜びしてくれるだろう。
背に腹は代えられない。
私はその約束を了承することにして力強く頷いた。
「でも、負けるかもしれないけど、やってみます、系な!」
「ありがとう、シットラン!」
とにかく、棚から牡丹餅で、私は最高傑作の
そして、翌日から剣道の勝負が始まったのだった。
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