第四話 シトラス先輩との出会い、系な!

 黄色い声が鳴り止まない。この雰囲気に私はたらりと汗が出そうだ。

 ポンス先輩は声を張り上げる。


「シットラン! かかって来い覇!」


 ポンス先輩の声に、私はハッとした。

 すぐに考えをまとめる。


「えーと、私はどうすれば良いんだ、系な……! 竹刀しないが折れ曲がっているんですが……」

「かかって来い覇!」

「よ、よし! やってやる、系なーッ!」


 肩すかしになったやる気を再び奮い起こす。私は、上段の構えで打ち込んで行く。ポンス先輩は竹刀しないを受け止めている。


「よし、このまま~!」


 竹刀しないを打ち込んで進んでいくと、ポンス先輩は押され気味になって数歩後ろに下がった。しかし、ポンス先輩の表情は変わらない。ポンス先輩の竹刀の動きは全く読み取れないが、このまま攻めて行けば私の完全なる勝利だ。

 私は一気に足を踏み込んだ。


「面、系な~ッ!」


 ポンス先輩が、ニヤリと笑った。

 私は、瞠目した。

 ヒラリと、ポンス先輩が後ろに飛んだからだ。


「系な!?」


 私の体勢が前のめりになって、つんのめりそうになる。

 体勢を崩して空足を踏んだとき、ポンス先輩の張り上げる声が体育館に響き渡った。


「甘い! ポンス先輩、行きます! 覇ッ!」

「な、ななな!? 系な!?」


 私が顔を上げたときには、決着が付いていた。


「面ーッ! 覇ッ!」

「っ!」


 竹刀しないが空気を切るように打ち落とされ、目の覚めるような音をたてた。

 あっという間に、ポンス先輩に面を打たれていた。

 ポンス先輩は相当強い。

 私は、ポンス先輩の方を振り向いた。


「よし、ポンスの勝ちだな!」


 私は呆気に取られていた。初めて負けた。いや、負けたというより圧倒されたというほうが正しい。それほどまでに、ポンス先輩と私の力の差は歴然としていた。


 グレープフルーツ先生が手を叩く。


「よし! シットランとポンスの剣道で要領は分かっただろう! では、それぞれ相手を見つけて練習をしてくれ!」


 ポンス先輩に、クラスメイト達が一気に群がった。


「ポンス先輩! 俺に教えてください!」

「俺に教えてください!」

「俺にも!」


 ポンス先輩は、クラスメイト達の取り合いになっている。

 それなのに、ただ無表情で突っ立って、もみくちゃにしようとしてくるクラスメイト達を颯爽といなしている。


 そして、授業が終わる頃には、ポンス先輩はクラスメイト達を相手に剣道をして完勝した。

 でも、私は――。


「クラスメイトたちにも勝てない!? 系な!?」

「シットラン、教室に戻ろうぜー」

「昼飯食べようぜー」


 ナツカンとヤマトタチバナが私に声をかけてきた。

 剣道が終わったので、程よく疲れてかったるそうだ。

 でも、私はもう少し体育館に居たかった。


「私、もう少しだけここに居る! 系な!」

「わかった。あんまり気にするなー」

「そうそう。多分、竹刀しないを新しくしたら大丈夫だからなー」

「系な!」


 ヤマトタチバナとナツカンは心配そうにしていたが、体育館を出て行った。


「やっぱりこれはお値段なりだったからなんでしょうか、系な……!」


 確かに、竹刀しないが折れてしまえば、それは私の実力ではない気がする。そう言えば、防具に全貯金の殆どをつぎ込んでも、竹刀しないが折れてしまえば元も子もない。竹刀しないに全貯金の殆どをつぎ込むべきだったのだ。竹刀しないなど、当たっても切れるわけがないのだから。防具はそれなりで良かったのだ。防具と竹刀しないを5:5にするべきだったのだ。


「ああ……! 系な……!」


 涙は不思議と出ない。しかし、天井を見つめたい気分だ。私が天井を向いていると、一つの足音がして私の傍らで止まった。


「君、大丈夫かな?」

「系な?……!?」


 声の方を振り返ると、またしても私は瞠目した。見たこともない上質な上級生の男子が私に声をかけてきていた。


竹刀しないはアカデミーにもあるから大丈夫だよ?」

「あなたは……、系な?」

「俺は、二年Ⅲ組の|シトラス・マーマレードだよ? 君は?」

「シットランなんですが、系な……!」


 私はシトラス先輩の上質さに、暫し時間が経つのを忘れるのだった。

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