第二話 実技の授業と怪しげな竹刀《しない》とポンス先輩、系な!

 一年Ⅰ組のクラスのみんなは、既に更衣室で着替えて体育館にいる。私も、更衣室でまっさらの剣道着と剣道袴に着替えて、その上に防具を身につけている。奮発して、値の張る防具を買って、シットランと刺繍まで入れて貰った。


 友人その一のナツカンが横から覗き込んだ。


「すっげー高そうな防具だな、それ!」

「相当奮発しました、系な! 防御は完璧だ、系な!」

「あれ、でも、シットランの竹刀しないどこで買ったんだ?」

「私は、入学式の時に購入しました、系な!」


 友人その二のヤマトタチバナが、ナツカンの横で目をぱちくりさせた。


「えっ? 俺も入学式の時に買ったけど、なんかその竹刀しないやけに細くないか?」

「俺も、ヤマトタチバナも竹刀しないはこんな感じだけどな」

「えっ? 系な?」


 そういえば、ナツカンもヤマトタチバナも竹刀しないは五百円玉ぐらいの太さだ。

 しかし、私の竹刀しないは一円玉ぐらいの太さだ。私は、剣道初心者だが、運動神経は物凄く良いので、何とかなると思っている。


「ハハハハハ、系な! 均一ショップで十円で買いました、系な! 値の張る防具を揃えたら、お金が足りませんでした、系なーッ!」


 ナツカンとヤマトタチバナは私の手元を見てから、顔を上げた。


「シットラン、それ多分、折れるよ?」

「明らかに折れそうな感がするよ?」

「そ、そうかな? 系な?」


 二人は力強く「「うん!」」と頷いている。二人の力強い返事に、私は引き気味なる。私の竹刀しないは大丈夫なのだろうか。

 そうこうしている内に、チャイムが鳴ってグレープフルーツ先生が体育館に入って来た。


「さあ、みんな~! 剣道の実技始めるぞ~!」


 グレープフルーツ先生は、良い声を飛ばしながら手を叩いて私たちを集合させた。

 念願の、二時限目の授業が今始まった。私と、この竹刀しないがあれば、超越無敵に違いない。ナツカンとヤマトタチバナが言っていたことは、取り越し苦労に決まっている。


「全員、竹刀しないは持って来たな?」


『はーい』と、みんなは楽しそうに答えた。


 グレープフルーツ先生は、満足そうに頷いている。

 せっかくアカデミーの剣道科に入学したのだから、初めての授業に忘れてはと、私は忘れ物がないか念入りにチェックしたのを思い出していた。


「なあ、シットラン。グレープフルーツ先生の横にいる上級生って誰?」

「えっ? 系な? 知りません、系な?」


 いつの間にかグレープフルーツ先生の隣には、見知らぬ上級生の女子が立っていた。


「今日は、このアカデミーのエース、二年Ⅱ組のポンス・ブライトに来てもらった。手始めに、ポンスと剣道をしたいものは居るか?」


 この上級生がポンス先輩らしい。

 私はハッと我に返った。

 もしかして、手始めに剣道でアカデミーのエースのポンス先輩に勝ったら、私はすごいと言われ続けるんじゃないのか。私は、ニヤッと笑って手を挙げた。


「はい! 系な!」

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