第9話  第2章 ミク―――1980


 夢を見ていた。

 小学校にあがったばかりのとき、隣の席の男の子に「おまえんちお化け屋敷ー」と言われたことがある。たぶん見るからに古く、大仰で時代がかったうちの外観をからかったのだろう。とりあえず悪口を言われてることだけはわかったのでその子の左耳を思い切りつねりあげてやったら、二人そろって一時間も廊下に立たされた。

 そのことを話したらお父さんはしみじみと笑った。そして言った。

「ひなたがもう少しおねえさんになったらいいものをあげよう。だから、そういうおてんばはもうおよし」

 あのとき、お父さんは運転していた。とすればわたしは車の中にいたことになる。なんてことない思い出なのに、涙が出てくるのはなぜだろう。ずっと忘れていた記憶なのに、その断片をかすかに思い起こしただけで、まるでナイフで切りつけられたみたいにあとからあとから切ない痛みが湧き出してくるのは。

 心に巣くう、つらく悲しい記憶のわけを探り当てようとわたしは泣きながら首を振った。泣きながら眠り、眠りながら泣く。すっかり子どもに戻ったわたしは眉間に皺を寄せ、懸命にその理由を探し続けていたときだった。

 ふと額に触れる小さな指の感触を感じ―――、


 わたしは我に返った。



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