イオナを守りし者

 気絶してしまったイオナさんの穿いているスカートは、イッコマさんの手によって完全に脱がされてしまった。


 僕の本体がイッコマさんと御対面する。


「……そういや、こいつがあったか……」


 彼は僕を見ながら鬱陶しそうに呟いた。


 どうしよう?

 イオナさんが気絶したのなら、僕が彼女を操ってイッコマさんを撃退する事ができる。

 しかし、そうすると僕の存在が彼にバレてしまうかも知れない。

 イオナさんは極力、僕の存在をイッコマさんには知られたくなかったはずだ。

 貞操帯……僕で守られている限り、彼女の操は大丈夫だろう。

 今少し様子を見た方が、良いのだろうか?


 僕が、そんな事で悩んでいる間にもイッコマさんはイオナさんの靴下を脱がした。


「こんなに立派に……色っぽく育ってくれちゃって……」


 足首から太腿へ纏わりつくように摩りながらイッコマさんの手が、彼女の肌を蹂躙する。


「息子同然のヨークなら嫁にやるのも仕方がないと思っていたが……あいつが死んだ今、他の男にこの熟れた身体をくれてやるのは、もったいねーやな……」


 イッコマさんの意外とゴツい手が、再びイオナさんの胸を下着ごと揉みしだく。


「昼頃に郵便屋が来て……あのやろう、すっとぼけた顔で事務的に書面を俺に渡しやがった……」


 イッコマさんは独り言を呟く。


「所詮、他人事だよな……だがな、渡された俺は……どんな顔をして、おまえさんに書面を渡せば良かったんだ? 飲まずに、やっていられるかよ……」


 イッコマさんは憎々しげにイオナさんのおっぱいを強めに揉み続けた。


「ん……んんっ……うぅん……」


 イオナさんが苦しそう呻く。

 しかし、意識は戻りそうもない。


「飲んでいる内に段々とヨークに腹が立ってきた。何が傭兵として頑張って稼いでいるだ。こんな可愛い女を放ったらかしにして……俺なら……俺ならなあ……」


 イッコマさんは僕を……僕越しにイオナさんの股間を、愛おしそうに撫で回した。


「待っていろ、イオナちゃん……その窮屈そうな奴を今、外してやるからな?」


 イッコマさんは立ち上がると燭台を持って隣の部屋に続く扉を開いた。

 向こうの部屋にある燭台に、持っている燭台の火をうつして灯りをともす。

 そこはクローゼットのある部屋。

 僕の鍵が入っている金庫が、部屋の隅に置かれてある。


 まさか……?


 イッコマさんは迷う事なく真っ直ぐ金庫へと向かう。


「勝手知ったる他人の家ってな」


 金庫のダイヤルを回して、あっさりとロックを外した。


「やっぱり番号を誕生日に合わせていたか……いかん、いかんなぁ、イオナちゃん。おじさんに開けて欲しいって、言っているようなものじゃないか……」


 イッコマさんは楽しそうに呟いた。


「まあ、誕生日と言ってもイオナちゃんが拾われた日だけどな……ヨークの両親達と誕生日を決めた後で初めてお祝いをしてあげたら、幼かったイオナちゃんは泣きながら喜んでいたっけ……」


 ……。

 ……イッコマさん、あなたは、そんな大切な想い出をイオナさんと共有していながら、どうして……。

 どうして、こんな酷い事が出来るんですか?


 僕の心に怒りが込み上げてくる。


 イッコマさんは金庫の中を漁って、貞操帯の鍵を探す。


「なんだ、この書面は? この家のローンの契約書? ……なんだ、このべらぼうな利息は……ヨークの奴が保証人も立てずに、どうやって借りたのか謎だったが、こんな高利貸しから借りていたのか……そりゃ、イオナちゃんも絶望するわ」


 イッコマさんは、やれやれといった感じで溜め息をついた。


「これは後で俺が保証人になって安い利息の所へと借り換えておくか……イオナちゃんには内緒にして……」


 イッコマさんは金庫の中から、もう一枚の紙を見つける。


「これは……誓約書? 名前がモアの亭主のになっているじゃないか……なになに? 二度とイオナさんを襲いません、だぁ? あっぶねーな、油断も隙もあったもんじゃねぇ……でも、一体どうやってイオナちゃんは、こんな物を書かせたんだ?」


 イッコマさんは何かに思い当たる。


「そういや最近、妙な噂が飛び交っていたが……『眠りのイオナ』だのなんだの……」


 しかし、直ぐに悩むのをやめて作業を再開する。


「ま、今はいいか……そんな事より鍵、鍵、貞操帯の鍵は? ……っと、あった!」


 イッコマさんは嬉しそうに僕の……貞操帯の鍵を摘んで自分の顔に寄せる。


「さて、待たせたなイオナちゃん……今すぐ気持ち良くさせて……」


 そう言いながら振り返ったイッコマさんの目の前に、僕が操るイオナさんが仁王立ちしていた。

 イッコマさんはニヤけた顔から焦った表情に変わる。


「イ、イオナちゃん!? 目が覚めたの……がはあぁっ!」


 彼の言葉は、そこで途切れた。

 僕が彼の側頭部を横から思いっ切り蹴ったからだ。

 壁まで吹き飛んだイッコマさんは、慌てて上体を起こす。


「な、なにをするんだっ!?」


 彼のあげた非難の叫び声を無視して、顔面を壁と挟むように踏んづけた。


「ぶぎゅるるるるるるっ!!」


 奇妙な声をあげてイッコマさんの顔が潰れる。

 足の裏を離すと大量の鼻血が流れていた。


「ま、待て! イオナちゃん! わしが悪かった! 助けてくれ!」


 許しを請うイッコマさんを無視して僕は、彼の両足を片方ずつ右足で払って脚を開かせる。

 そして、イオナさんの右足のかかとを持ち上げてイッコマさんの股間に狙いを定めた。


「お、おい……まさか!?」


 そして、そのまま足を勢いよく降ろす。


「や、やめろっ! 潰さないでくれえぇーっ!」


 イッコマさんの悲鳴と何かが割れる大きな音が、部屋の中に響いた。


「あ……あ……?」


 イッコマさんは震えながら自分の股間を見下ろす。

 彼の大事な場所の少し向こう側にある床板が、えぐられたように割れていた。


『イッコマさん……』


 床から足を抜きながら、僕は彼に語りかける。

 イッコマさんは驚いてキョロキョロと周りを見た。


「な、なんだ!? 男の声!? 頭の中に直接、響くぞ!?」


 僕は哀しかった。


『どうして、あんな酷い事ができるんですか?』


 イオナさんの頬を涙が伝わっていく感触がする。

 僕の嘆きが、イオナさんの瞳から溢れ出ていた。


「イオナちゃん……?」


 イッコマさんは不思議そうにイオナさんの顔を見上げる。


『イオナさんは……あなたの事を、父親のように慕っていたのにっ!』


 イッコマさんが訝しげな表情で呟く。


「おめえ……誰だ?」


『僕は、あなたが彼女に売った貞操帯に生まれ変わったマモルという名前の元人間です』


「……あの、貞操帯だと?」


『僕は……僕は彼女の守護者だっ!』

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