待たされる女

 イオナさんは帰宅して料理を作り終えると、温め直せばすぐに食べられる状態にして、ヨークさんを迎えに出かける事にした。


 日暮れ時に乗合馬車が到着する予定の広場へと着く。

 隣国との乗合馬車は一日一本一往復だけ。

 広場には様々な人々が馬車の到着を待っていた。


 やがて複数台の馬車が遠くから近づいてくるのが見える。

 乗合馬車の群れが広場に到着すると、大きな幌の中から色々な格好をした人達が降りてきた。

 もちろん中には戦士風の姿をした傭兵らしき人達もいる。

 イオナさんは嬉しそうに両手を胸の前で合わせながら、降りてくる人達の中にヨークさんがいないかどうか探した。


 だが、ヨークさんは見当たらなかった。


 やがて幌の中から誰も降りて来なくなる。

 イオナさんは馬車に近づくと幌の中を確認する。

 中に誰も残っていない事を知ると、次の馬車へと向かった。

 最後の馬車を確認してもヨークさんは、幌の中で眠っていたり、誰かと談笑して降りるのが遅れていたりはしなかった。


 初日の乗合馬車でヨークさんは帰って来なかったのだ。


「こんなの……初めて……」


 イオナさんは、そう呟くと受け入れられない現実から背を向けて逃げ出すように、ゆっくりとした足取りで帰宅の途についた。


 帰り道の彼女は、無言だった。

 僕も話しかける勇気を持つ事が出来なかった。


 やがて自宅に戻り、中に入ってダイニングテーブルのそばにある椅子に腰掛ける。

 それからも彼女は、ぼーっと黙ったままで座っていた。


 僕は、ある事を思い出して彼女に話しかける。


『あ、あのイオナさん……ごめんなさい』

「……えっ!?」

『もしかしてヨークさん、僕のせいで帰って来られなかったんじゃ……?』

「マモルくんのせいって、どういう事?」


 イオナさんは震える声で僕に尋ねてくる。


『あの……ほら……僕を診てもらう為に妹さんの都合を尋ねてくるって、言ってましたから……もしかして妹さんの所に寄っているのかな、と思って……』


 僕は、なんとなく恐る恐る彼女に伝える。

 しかし、イオナさんはパンッ! と、両手を叩いて嬉しそうに返事をしてくれた。


「そう! そうよねっ!? そういえば、そんな事を言っていたわ!」


 テーブルの上に水滴が落ちる。


 ……イオナさん、泣いていた?


「や、やだっもう! 焦っちゃったじゃないのっ! せっかく張り切って料理を作ったのに無駄になっちゃった」

『す、すみません』

「あ、違うの! マモルくんのせいにしたかったわけじゃないの……でも、これ……どうしよう?」


 彼女は一人では食べ切れない量の食事を見ながら、茫然と呟いた。


「イッコマさんでも呼ぼうかな?」


 幸いイッコマさんは食事がまだだったらしく、その日は二人で楽しく豪勢な夕食を満喫していた。


 イオナさんは、ヨークさんがキチンと戻ってから、お祝いの準備をする事に決める。


 しかし翌日も、その次の日もヨークさんは帰って来なかった。

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