貞操帯の憂鬱

 僕はイオナさんの胸に抱かれてヨークさんと一緒に、二階にある二人の寝室へと入った。


「明日から、この大きなダブルベットに一人だけで寝るのかあ……」


 彼女はベッドに腰掛けると寂しそうにシーツを撫でながら呟いた。


「おいおい、マモルくんを忘れてやるなよ? 特に穿くのをな!」

「やだ、親父ギャグ……分かっているわよ」


 ヨークさんの寒い冗談もコロコロと暖かく笑って迎えるイオナさん。


 そして二人は黙って見つめ合った。


「……必ず、生きて帰って来てね?」

「もちろんさ」

「魔王の軍勢が相手だなんて……」

「強敵だけどモンスターだからな。人間やエルフを相手にするよりは気が楽さ……」

「……」

「大丈夫だ……良い知らせもある。勇者が降臨したらしい」

「勇者様が?」

「ああ……だから彼を軸に、これから王国軍は反転攻勢に討って出る事が可能になるだろう。生き残る確率があがったわけさ」

「無茶はしないでね?」

「ああ、お前一人だけを残して死んだりはしないさ」

「約束よ?」

「約束だ」


 二人は小指同士を絡ませて指切りをした。


 僕らの世界と似たような風習が、この別世界にもあるんだなあ。


 僕は少しだけ嬉しくなった。


 離れた小指のある手でイオナさんは、優しく僕に触れてくる。


「……マモルくん、ちょっとゴメンね?」


 イオナさんは、そう言って立ち上がると寝室の中を少し歩いて出窓に近づく。

 そして、前のスリットを窓側に向けて、そっと僕を置いてくれた。


「あっちを向いていてね?」


 イオナさんは、悪戯っ子のような声で僕に話しかけた。


 そうは言われても、このままでも視線だけ後ろへ向けられるし、見えちゃうんですけどね。


 僕は真後ろの様子を自分の視界に入れた。


 ベッドの上に二人で腰かけながらキスをしているイオナさんとヨークさんが見えた。


 ああ、なるほど……。

 これから二人は夫婦の営みをするんだ……。


 僕は視線を窓の外へと戻す。

 暗闇に浮かぶ街の淡い光が美しかった。

 後ろの二人の会話も聞こえてくる。


「まったく、無茶しやがって……」

「あん……ゴメンなさい、あなた……」

「いーや、許さん! お仕置きだ!」

「きゃあ! こわーい! うふふ……」


 こうして仲睦まじい二人の会話を聞いていると、この夫婦の絆を守れた充実感に満たされてくる。


 これが貞操帯としての幸せなんだなあ……。


 やがて、二人の荒い吐息とベッドの軋む音が室内に響いてきた。


「……やだあ、そんなところ……舐めちゃ、だめぇ……」

「……なんか、今日のお前のココ……オークみたいな匂いがするな……」

「もう、なによバカ……そんなに臭くないもん……」


 僕は何かこう……性的な感情も余りわかなくなっていた。

 興味はあるけど見てしまうのは失礼な気がして、後ろを見るのを躊躇ってしまう。


 でも、まさか……聞かせたくて僕を連れてきた訳じゃないよね?


「よーし、入れるぞおぉ?」

「ああん……はやくぅ……」

「すーりすり」

「やだぁ……もぅ……じらさないで……」


 ああ……街の灯りだけじゃなくて、空気が澄んでいるせいか星々も綺麗だなあ……。


 あ、流れ星だ。


 結構、頻繁に流れてくるなあ。

 次に現れたら願い事でもしてみようかな?


「あ! あ! あぁっ! ごめんなさい、あなた! 私もう、我慢できない! ねえ!? イってもいい!? はしたなく、大きな声でイってもいーい!?」

「ああ! いいぞ!? 大きな声を出して、思いっ切りイけっ! その為にっ! ドスケベな、お前の為だけに、こんなバカでかい家を無理やり買ったんだからなっ!」

「ああん、うれしい〜っ! 素敵っ! 最高よ、あなた! あ、あ、あ、も、もう……ああっ!」


 ……。

 やっぱり、なんか切ないなあ……。


「あああああぁーっ! いっくぅうぅーんっ!!」

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