イオナのピンチ
森の中に入ると、イオナさんはキノコ狩りを始めた。
僕は、しばらくの間は周りの景色を眺めていたけれど、森の中なので代わり映えしないのと、彼女があまり移動しないので、その内に飽きてしまった。
今は彼女がキノコをとる様子を眺めている。
手の感覚はないが、自分がとっているみたいで面白い。
「これは食べられる……これは食べられない……これは……」
とあるキノコをとった時に彼女の手が止まった。
松茸やエリンギに似ている、傘は小さくて柄が太いキノコだ。
イオナさんはキノコの柄を左手で持って、右手で優しく傘を撫で回す。
「うふふっ……夕飯は精のつくものを沢山食べて貰って、今夜は頑張って貰わないと……なにせ一ヶ月も、ご無沙汰になってしまうんだし……」
とても色っぽい声で、そう呟いた。
……何を言っているんだろう?
やがて、イオナさんは立ち上がると大きく背伸びをする。
「うーん……これくらいで充分よね? お肉も入るんだし……」
ガサッ!
その時、彼女の背後から草木が擦れ合うような音がした。
僕は視線を後ろに向ける。
遅れて彼女も振り返った。
僕たちの視界には、緑色の肌をした上半身が裸で腰巻き一枚穿いているだけの大男が立っていた。
彼の顔は、まるで豚のように鼻が尖っている。
右手には木で作られた棍棒が握られていた。
「……オーク!?」
イオナさんはそう叫ぶと、一目散に逃げ出した。
彼女にオークと呼ばれたその怪物も、こちらに向かって走り出した。
「なんで!? どうして!? オークが、こんな所に!?」
走りながら叫ぶ彼女の声には明らかに焦りが含まれていた。
僕は彼女の口ぶりから、オークというのは危険な存在で本来ならここにはいないはずの生き物なのだと理解した。
オークは体格の割に、とても走るのが速かった。
でもイオナさんも遅くはない。
しかし恐怖の為か、時々振り返って確認する度に彼女とオークの差は縮まっていった。
だけれども何とか追いつかれる前に僕らは、林道へと辿り着くことが出来た。
イオナさんは左右を急いで確認するが、助けてくれそうな人影は全く見当たらなかった。
彼女が右を向いて駆け出そうとした時である。
僕は彼女とは別にオークの行動を見ていた。
すると奴は右手を振りかぶって棍棒を投げてきたのだ。
危ない!
僕は必死で叫んだがイオナさんには届かず、棍棒は彼女の後頭部に命中してしまう。
イオナさんは崩れ落ちるように林道の上で気絶してしまった。
オークは周囲を警戒しながら彼女に近づいてくる。
そして悠々と担ぎ上げると林道から森の中へと入って行った。
オークは、それほど林道から離れていないけど隠れるには充分な場所へ戻ってくると、草の上にイオナさんを無造作に横たえた。
イオナさん!? イオナさんっ! 起きて下さいよっ!!
僕は必死で叫んだが、やはり彼女には届かなかった。
為す術が無い僕は、オークが彼女のスカートを捲り上げるのを止められなかった。
ニヤニヤしていたオークが、僕を……金属製の貞操帯を見た途端に固まる。
奴は僕に……彼女の貞操帯に手を掛けて腰から脱がそうとしたが、まったく下がらなかった。
オークは手の指の爪を立てて前面のスリットを、かりかりと引っ掻く。
そんな行為で頑丈な僕が、壊れるはずも無かった。
僕は少しだけホッとした。
どうやら、このオークはイオナさんにエッチな事をしたいらしいが、僕が邪魔で出来ないようだ。
貞操帯の面目躍如だった。
イライラしてきたオークは、留め金を見つけるとニンマリと笑い、指を引っ掛けて思いっきり引っ張った。
反対に向こうの生爪が剥がれた。
痛む指を抑えながら泣き叫ぶオーク。
はっはっは! ざまぁみろ!
僕は嬉しくなって喜んだ。
オークは今度は棍棒を持ち出した。
股間への直撃を避けるように留め金に向かって力強く振り下ろす。
粉々に破壊された……棍棒の方が。
わっはっは! 無駄無駄無駄ァッ!
僕は内心、調子に乗っていた。
腕を組んで考え込んでいたオークは、彼女の身体をひっくり返して、うつ伏せにする。
僕の後ろに開いている穴が、見つかってしまった。
オークは彼女の腰を持ち、お尻を高く抱え上げる。
そして穴の大きさを確かめるように指を這わせてきた。
次に奴自身の股間を見つめる。
そして不気味に微笑んだ。
……まさか、前がダメだからって後ろを使う気なのか?
オークはイオナさんのお尻に顔を近づけると……舐めた。
「んっ……んふっ……うっ……ううん……」
片方の頬を地面につけながら、イオナさんは顔をしかめて苦しそうに呻いた。
しかし気を失ったままで起き上がる気配は無い。
僕は焦った。
そんなっ!?
駄目っ!
駄目だ、こんなのっ!
赤ちゃんが出来なければ、いいってもんじゃないっ!
こんなっ! こんな事をされたと知ったら……イオナさんは悲しむどころじゃない!
これ以上、コイツを許したら駄目だ!
でも、どうすればっ!?
……誰でもいい。
神様でも悪魔でもいいからっ!
僕に彼女を救う、力と勇気をっ!!
心の底から、そう願った。
すると、手と足の指の感触が久し振りに僕へと戻ってきた。
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