貞操帯の幸福

 貞操帯。

 それは子供を作る行為を強制的に遮断するアイテム。


 イオナさんは僕をイッコマさんから買うと、彼の道具屋から出て自宅へと戻ってきた。


 僕は洗面所の鏡の前に置かれた自分の姿を眺める。

 前の方には縦に長く幅が狭いスリットが開いていた。

 これで……その……出せるようにしつつ、侵入を防ぐわけだ。

 後ろには丸い穴が開いている。

 前と同様に用が足せる構造になっている。

 でも、こちらは侵入を拒めそうもない。

 妊娠さえしなければ……という理由からなのだろうか?

 同じような太さのモノが出てくるのだから、しょうがないのかな?


 両方とも穴の周囲の金属の厚みが薄くなっていて、用を足した後で拭くのに問題が無いよう工夫されている。

 内側は周囲にゴムパッキンの様なものが付けられていて排泄物が中に侵入しないように造られていた。


 なんで僕は女性用の貞操帯に生まれ変わったのだろう?


 確かに誰かを守りたいという思いは昔からあったし、両親を亡くしてからは尚更強くなったように思う。


 面接した会社だって警備関係の会社だった。

 昔は警官になる事も考えたけど、近くの交番のお巡りさんが何となく偉そうだったので、嫌なイメージしかなくて避けたっけ……。

 いやいや今は、そんな事どうでもいい。


 僕が生前に女の子を助けて、その子が無事だったので心の底からホッとした想い出が残っている。


 女性を守る道具に生まれ変わったのは、きっと、その影響かも知れないな。


「さて、じゃあ着け心地を確かめながら、お出掛けしましょうかね」


 昼食を食べたイオナさんが洗面所に入って来た。

 今、この家は旦那さんが留守のようだ。

 彼女は午後から戸締りをして何処かへ出かけるつもりらしい。

 僕はイオナさんの方へ視線を向けた。


 ……ぶっ!


 ブラを着けただけのノーパン姿の彼女を見て、僕は吹いた。

 イオナさんは訝しげに周囲を見る。


「なんか……誰かがオナラをしたみたいな音が聞こえた……」


 彼女は、また少しの間だけ首をかしげる。


「私がしたんじゃないけど……ま、いいか」


 僕を手に取ると穿こうとした。

 直に。


 待って!? 待って! 待ってえぇ〜!!


 だが今度の叫び声はイオナさんに届かず、僕はノーパンの彼女に穿かれてしまった。

 その瞬間に再び僕の心は充足感に満たされていく。


 ああ、こんな事をされているのに、こんなにも喜んでしまって、いいのだろうか?


 喜びつつも彼女に対する強い罪悪感にも襲われている。


「……んしょっ、と……」


 イオナさんは前と後ろを用を足せるように調節した。


「はあぁーっ……」


 そして息を大きく吐いて、お腹をへこませると貞操帯が緩まないように前後を隙間なくピッタリと合わせる。


 パチンッ!


 そのままの状態で腰に付いている大きくて平べったい留め金を止めた。


「ほい!」


 そして、その留め金にある鍵穴に持っている鍵を挿して閉めた。

 イオナさんは僕の……貞操帯の腰の辺りを押して脱げない事を確認する。

 貞操帯は彼女の骨盤の上で止まって、それより下にずれなかった。


「よし!」


 彼女は片手を後頭部にあてて肘を上に向けると、鏡に向かって軽くウィンクする。


「それにしても特注であつらえたように、しっくり来るわー。まるで私専用みたい」


 彼女は手のひらで自分のお尻を叩くように僕をペチペチと触った。


「じゃあ、そろそろ行こうかな?」


 僕が聞いているのを知らない彼女は、独り言を呟くと服を着るためにクローゼットへと向かった。

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