あなたのことを愛してました

西井ゆん

第1話

 死亡日時‥三月十日。午後一時十二分。晴れ。

 享年18歳。


 人生で初めての好きな人は、死と言う形で僕と別れた。

 葬式は彼女の親類だけで行われたけれど、そこの参列に僕は許された。

 直接的な血縁関係がない人間は僕だけだった。僕一人だった。


 着たこともないようなぐらいのきちっとした着方でいつもの学生服を着用し、ご焼香を待つ。


 一人、二人と、滞りなく順番はすぎていって、いつの間にか僕の順番は次だった。目の前の男の人の次だった。

 その人は目頭を熱くし、周りをはばからず、泣きじゃらしていた。

 みっともないと言ってしまえばそれだけの顔だったけれど、それでも。

 今の彼が浮かべている表情が正しいということは、この場の空気がひしひしと僕に伝えていた。


 ……ああ、わかった。

 思い出した。

 

 僕は前に向けた視線のまま、目の前の男に視線を向けたまま思う。


 こいつ、あいつのことが好きだった人だ。


 隣のクラスの。サッカー部の。 従兄弟の……いや、再従兄弟だったかな。


 とにかく、なんか。

 あいつに毎日告白していたやつだ。

 

 飽きもせず。延々と。

 言葉をかけていたやつだ。


 それは果たして。

 好きな女が死んだ悲しみからなのか。

 一生自分の思いが伝わることのない現実への怒りなのか。

 若くして死んでしまうと言う理不尽さへの落胆なのか。


 なんとなくだけれど、僕は彼が周りの人以上に涙を流している理由を理解した。


 彼が普通の人の十分以上の時間をかけてお焼香をし、多くの言葉を述べて行ったのに対して、僕のかけた時間はその四分の一ほどだった。

 特別、かける言もなく、きっと周りからみれば不自然なぐらいの時間だったろう。

 そんな少しのざわめきに気を止めることなく、僕はご両親に頭を下げ、自分の席に向かう。歩き出す。


 そのまま僕は、先ほど着席していた席で足を止めることなく通り過ぎ、そして、そのまま会場を後にした。

 もちろん、失礼がないように彼女の父母の了解済みだった。

 僕は簡単に息を吐き、最近では珍しい、晴れきった夜空を見渡す。



 星は思ったよりも出ていなかった。



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