28話 追跡


 バルムンクと共にセントラルアリーナに戻ってきた俺の前に立ちはだかった、透明の薔薇クリアローズを一瞬で無力化し、アリーナ内へ入った俺の前に映ったのは誰も居ない廃墟だった。


 その中で一人閉じ込められていた少年【イェン・キッド】から、観客を人質に【ミミ・パルミー】と【メル】が捕まった事を知り、捕らえられている戦艦を見つける為にアリーナを飛び立つのであった。



______________



「こちら、カナデ・アイハラ。セントラルアリーナは無人でした。一人子供が生存しており、閉じ込められていた所を救助。軍の方で対応をして貰えるよう指示しました。

 その少年からの情報によると、ライブの観客を人質にミミ・パルミー及びメルティ・ノーザンライトの身柄を拘束された模様。ライブの観客も一緒に戦艦に収容された様です。

 現在敵戦艦を索敵中です。何か情報はありましたか? 」


 現状を報告しつつこれから向かうべき為の情報を得ようと質問する。


「報告ありがとうございます。密偵から【七つの大罪】についての情報が少しですが手に入りました。

 彼らは帝国に所属しており【神鬼オーガ】と呼ばれる神姫の対存在が集まった集団の様です。

 過去の歴史から、神姫が現れると神鬼オーガが出現してきたようで、今回は七百年前の『人魔大戦』以来ぶりに神姫七人が揃うので、対存在である神鬼オーガも七体出現しているそうです。

 そして、その七体がそれぞれ大罪を架しているようでそれぞれが特殊な能力を持っているそうです」


 七百年前以来の集結か……。熱い展開ではあるが敵である以上倒さなければならないのだろう。

 対存在という点が気になるが……。


「ここ最近各国で暴れ回っている様で警戒態勢を敷いていたのですが、まさか神姫を直接狙ってくるとは……。

 しかも【ミミ・パルミー】を。

 彼女は『ルニアルマ宗教国』の要人であり崇拝の対象。そんな人間を拉致するなんでなんて大胆な事をしたのでしょう」


 神姫以上の何かをミミ・パルミーは持っているのか? 神姫は一人で圧倒的軍事力を持っている。その力を崇めるのならそれは暴力的すぎる。


 だが、今はそんな事よりも戦艦の居場所だ。


「敵の所属は分かりました。では帝国方面へ索敵を変更します。追って情報が入ったら連絡お願いします」


「了解しました。こちらも引き続き索敵を続行します。増援をそちらに向かわせたので、合流お願いします。ではご武運を」


 増援か。今から合流するとしても機体性能的に、合流するまでに戦艦を発見する方が早そうだな……。


 俺は今、高度一万メートルの上空を飛んでいる。いわるゆ雲の上ってやつだ。

 随時メルの魔力を探知しようと集中しているのだが、神姫を捕縛しているからなのか、魔力が遮断されているようで中々見つけることが出来ない。


 機体のレーダーの方にも反応が無いためただの遊覧飛行になってしまっている……。


「夜間飛行とは言えこうも見つからないもののか……」


 つい愚痴が出てしまう。


 ピピッ


 突然、閉鎖通信クローズチャンネルを知らせるアラームが鳴った。


「こちら【crisisクライシス】のシアン・ムラヤマ、と申します。今回共和国軍から支援の依頼がありましたので参上いたしました」


 凜とした芯のある女性の声が通信から聞こえてきた。

 だが、crisisか……。この前のマゼンダ・カームがいる傭兵集団……!

 

「支援してくれるのはありがたいんですが、俺の機体バルムンクにちゃんと着いてこられるんですか? 」


 敵艦を見つけられない苛立ちから、キツい言い方になった。


「それなら問題ありません。あと一分ほどで合流致しますので」


 嫌味を言ったはずなのに、澄ました声で返されてしまった。

 次世代機でも高速型のチューンのバルムンクに追いつくなんて……まさかな……。


 俺がぶつくさと考えていると、レーダー右後方から味方機を表す青丸が高速で接近してくるのを確認した。


「なんてスピードだよ。コイツバルムンクより速いじゃないか……」


「お待たせ致しました。シアン・ムラヤマ参上しました。それと敵戦艦の位置を捕捉して参りました。早急に向かわれた方がよいかと」


 シュン、と音がしたかと思うと、バルムンクの右側に、赤と金で装飾された鷲の様な飛行機が併走していた。

 その機体は大型の翼を持ち、二つのジェットエンジンのようなブースターを乗せていて、スナイパーライフルの様な銃身の長い銃と、太めの口径も撃てるようなバズーカ砲を一回り小さくしたような銃を背負っていた。


「その機体、凄いな……。そいつもATドライブを複数積んでるのか? 」


 圧倒的速度と制動性能。そして二基のジェットエンジンのようなブースターからもその結論が導き出される。


「はい。詳しくはお教え出来ませんが、この【イーグル】には三基のATドライブが搭載されております。そちらの【バルムンク】とは少々似ているかと思われますが、こちらの方が尖った性能を持っているかと思います。

 チッ! カナデ様! 反転しつつ急降下を! 」


 説明の途中に急に舌打ちをしたかと思ったら、急降下の指示をしてきた。


「何?! 」


 俺もその指示通り左右の操縦桿を後ろに倒しつつ、ブースターを逆噴射させる為手元のスイッチを押し込みながらペダルを踏み込んだ。


 ゴオオオオ!


 すると、俺達の元いた場所を氷塊と銃弾の雨が通り過ぎて行ったのであった。


「なんだ今のは!! 魔法も混じっていたよな?! 」


 突然の攻撃に驚きの声を上げる。


「どうやら目標の方から仕掛けて来たようですね。先ほどの斜角から、ココから十一時の方向。高度は7000メートル辺り。この二機なら三分ほどの距離でしょうか。こちらのデータ通りの位置です」


「マジか……。そこまで割れていたから反応も早かったのか? 」


「いや、先ほどのは……。まぁ何でもいいじゃないですか。それより、いつものカナデ様と違いえらく真面目なのですね? マゼンダ様もあまり機嫌がよくなかったですし……」


 何か隠された感じがしたが、ここでも前のカナデの話が出てきた。どんだけ女好きだったんだよ……。

 

「まぁ、そう言うときもあるだろう? ソレよりもメル達の救出の方が先だ。着いてきてくれ」


「分かりました。依頼通りメルティ・ノーザンライト及びミミ・パルミーの救出作戦を開始します。まずは、敵戦艦左後方への爆撃。そこからの侵入を提案します」


 シアンは淀みなく作戦を提案してきた。まるで今の敵艦の状況が分かっているかの様に。


「OK。それで行こう。シアンは生身での戦闘は行けるのか? 」


「問題ありません。いつもマゼンダ様と稽古しておりますので」


 アイツと稽古……。子供だって話しだったが、一体どんな訓練をしているのだろうか……。


「カナデ様の方は? 」


 思考していたらシアンの方からも質問が飛ぶ。


「悪い。俺は、剣術の方は鍛えて来たが、射撃の方はまだ自信もって行けるとは言え無い」


「ふむ。情報通り劣化しているのですね……」


「おい、聞こえているぞ」


 劣化とは酷い言われようだ。早くカナデ・アイハラを超えなければ……。


「スイマセン。分かってて言ってますので。では、基本はARMEDに搭乗したままでの探索がよろしいかと。艦内のデータからして、ある程度まではARMEDに搭乗したまま攻め入る事は可能な様です。そちらにもデータを飛ばしておいたので、軽く目を通しておいてください」


 食えない人だ。


「ありがとう。よし、このまま向かうか!」


 俺は送られてきたデータを開きつつ、敵艦のいる方へと移動をしようとした。


「お待ちを。まだ作戦が確定していません。敵艦の速度なら追いつけないと言うことはあり得ないので焦らず行きましょう」


「わ、分かった。すまない、早く救出する事を考えてしまって……」


 逸る気持ちを見透かされたようで恥ずかしくなる。

 神姫だからそう簡単には死なないだろうが、心配なものは心配なのだから仕方ない。



「では、作戦名は【お姫様救出大作戦プリンセス・レスキュー】でよろしいでしょうか?」



「……え?」


 まさか作戦名を決める為だけに呼び止めたのか? 


「作戦名はとても大事です。目標とやることを即座に判別出来る優秀な行動なのです! 」


 その声の主は今どや顔全開なのだろう……。

 呆れかえった俺はおでこに手を当て溜息を吐いた。


「カナデ様、溜息なぞ吐いてどう為されましたか?」


 どうやらシアンは天然な様だ。真面目にボケてくるタイプの。


「いや、てっきりもっと詳しく作戦を詰めるのかと思ったんだけど……」


「カナデ様は優秀でいらっしゃるので、突撃以降の判断はその場その場で出来るかと思いまして……。細かい指示まで考えておいた方がよろしかったでしょうか?」


 そう言い放った声は今までのふざけた空気とは一変し冷徹で、俺が今までのカナデでは無い事を確認するかの様だった。


 

「いや。問題無い。お姫様は俺達で助け出すぞ!」


「分かりました」


 二機はそれぞれ敵艦へと向け、加速していくのであった。


 こうして【お姫様救出大作戦プリンセス・レスキュー】が始まった。

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