26話 ライブ
メルとの修行で改善点が浮き彫りになった。
精神面を鍛える事。これからの課題が見つかり気合いを入れる俺だった。
そして、メルからのライブのお誘い。音楽好きの俺には嬉しかったが、家に帰ると私服の少なさに驚きミラと買い物に行くことになった。
買い物の途中の休憩後、俺は見知った顔と出会った。
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「澪だよな? 俺だよ、
ドンッ!
「人違いです! 支えてくれたのはありがとうございました。では」
少女はそう早口でまくし立て俺の手を振りほどき、走り去って行った。
「澪……。なんでキミが……」
「あれ? さっきのってミミちゃんじゃない? カナデちゃん知り合いかなんかなの? 」
先に店を出ていたミラが、戻ってきて声をかけてきた。
「いや、知り合いに似ていたもので……」
「ふーん。そうなの。カナデちゃんは女の子大好きだから、そこら辺の子にも手を出してそうだもんなぁー」
ミラは悪戯っぽい笑顔を残し店外へと行ってしまった。
「ったく……。こっちの気もしらないで」
会計を済ませながら、さっきぶつかった女の子の事を考える。
あの顔は確かに澪だった。
彼女とは、
実力はチームで四番目。補助系の機体をよく使い、サポート役として活躍していた。そんな彼女は、みんなの仲介役だった。トップチームだったせいか、個人の性格が合わずよく喧嘩をしていた時ミミが間に入ってくれ上手くチームはまとまっていた。
そんな彼女はある日を境にチームから去ってしまったのだ。
「カナデちゃん? コレで買い物は終わりでいいわよね? デートしっかりエスコートするのよ? 」
ミラに声を掛けられ思考の海から戻ってくる。
「ん? あぁ……。ありがとう、助かったよ」
「ちょっとー。さっきから上の空だけど大丈夫? 」
「少し考え事をしてた……。心配ありがとう」
まだ澪と決まった訳ではないし、この世界に澪が居るわけがない。俺はそれ以上考えるのを止めて帰宅をするのであった。
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「やって参りました! セントラルアリーナ! 」
メルと一緒に首都の外れにある大規模競技施設『セントラルアリーナ』へと到着した。
そこには、アイドル『ミミ・パルミー』のファンと思われる法被やライブTシャツなど思い思いの服装をした人だらけだった。
「懐かしい……」
「カナデはライブには良く行くの? 」
「あぁ、学生の頃はよく行ってたよ。今は中々行けなくなったけどね」
嘘は言ってないけど、ちょっと後ろめたさが出てしまう。色々考えずにライブを楽しまないとだよな。
「そうなんだね……。じゃあ久しぶりのライブ楽しもうね♡」
隣ではしゃぐメルはとても楽しそうだ。何気にライブTシャツを着ていて、首にはマフラータオルを掛けている。
「そのTシャツ可愛いね。今回のじゃないようだけどいつのヤツなの? 」
「お! カナデも中々鋭いね! そうなのです。このTシャツはデビューイベントの時限定100枚しか無いとされる幻のグッズなのだ! 」
無い胸を思い切り反りながら、今着ているTシャツをアピールしてくる。
「そんなレアな物を着ちゃっていいのか? 」
「ご心配なく! その、イベントでは枚数制限無く買えたから、着る用・観賞用・保存用・予備、と四枚買ったんだよ!! 」
「そ、そうか。今の人気からは考えられないね」
「そうなんだよー。だから、私もライブ自体はそのイベントしか行けなくて、それ以降の本格的なのは今回が初めてだからホント楽しみなんだよー! 」
初期からのファンなのに中々ライブに行けないのは辛いな……。今回は目一杯楽しんで貰おう。
「そろそろ開場だね。席に行ってゆっくりしようか? 」
「うん! 」
メルの元気な返事とともにアリーナの待機列へと歩みを進めた。
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「ミーミ! ミーミ! 」
「ミーミ! ミーミ! 」
「ミーミ! ミーミ! 」
「ミミちゃーーーん! 」
夕暮れに染まり始めた会場のそこかしこから、ミミ・パルミーの名を呼ぶ声が響き渡る。久しぶりに感じるライブ前の高揚感。俺も久しぶりのライブに胸が高鳴っていた。
「凄い熱気だね! 」
「えー?! なにー?! 」
「みんなやる気が凄いよね!! 」
声援の凄さに隣にいるはずなのに声が中々届かない。
「うん! 五周年記念ライブだからね! カナデも叫んでいいんだからねー!! 」
デビューから五周年なのか。それでこの二万人程度のアリーナを満員にするなんて中々居ない逸材だ。
そんな事を考えていたら、暗くなってきていたアリーナのフィールド中央に据えられたステージに照明が灯る。
──────────
一瞬にして会場内が静まり返る。
苦しみさえ
悲しみさえ
もう何も感じない……
ドーーーーン!!
しっとりとしながらも芯が通ったソプラノの歌声からの大砲が鳴り響き、紙吹雪と共に空からミミ・パルミーが現れた。
その姿は天使。そう形容するのが正しいだろう。
純白の衣装からは四枚の天使の羽が生え、伸びる髪は腰まで伸びる白く少しピンクがかっている。そしてその両目は、垂れ目がちで髪の色と同じ薄桃色をしていた。
やはり髪や目の色は違っているが、俺の知っている獅子原・澪。その人と同じだった……。
ミミ・パルミーの姿を確認していると、スネアドラムの音がカウントを取りはじめ、シンセやギターオーケストラピットが沸き立ち一気に音が混ざり合い、壮大な世界観が繰り広げられていく。
「みんなーーー! 今日は五周年記念ライブに来てくれてありがとーーー! 最後まで飛ばしていくから、ついてこーーーい!! 」
そこからはハイテンションな曲が続き観客を沸かせ続けた。
「いやー、こんな楽しいライブ初めてだよ……!! みんな来てくれてありがとう。ライブはまだまだ続くからみんな楽しんでねーーーー!! 」
ミミがそう言いながら舞台袖へと捌けていった。
「はぁ、はぁ。凄いセトリだね……。知らない曲だったけど、ここまで盛り上がるなんてミミ・パルミーは凄いアーティストだね」
「でしょ! でもでも、ミミちゃんはバラード曲も最高なんだよ! 」
「それは楽しみだ。衣装変えしてるのかな? 次はどんな曲がくるのかな」
メルと談笑していると、ステージの照明が
灯った。
わーーーーーー!!
観客のボルテージが一気に高まる。
掴め・叫べ・求め続けろーーーー!
バイオリンソロのイントロから、ワンフレーズを歌い終えると、舞台に沢山の兵士達が現れた。
そして、最後にイヤーマイクを付け、まるでメルやマリアンヌ達神姫の様な機械天使を思わせる衣装になり、右手には両刃の聖剣のような剣を持って舞台へと駆けてきた。
そのまま舞台は戦場となり、歌いながらの殺陣が繰り広げられていった。
「あの衣装って神姫をモチーフにしてるのかな? 」
殺陣が入った曲から3曲は1つのストーリーになっていて、まるで舞台を見ているようだった。
そのシーンが終わり隣のメルに声を掛ける。
「あー。ミミちゃんも神姫だよ」
「え?! 」
「だから、ミミちゃんも神姫なの。癒やしの神姫。私と違って人々を救う力を持っている凄い子なんだよ! 」
そう語るメルの表情はどこか切ないような羨むような複雑な物だった。
「ほら! そんなことよりライブはまだまだ続くんだから楽しまないとー! 」
メルは急に笑顔になり、俺の背中を叩いて舞台の方を向いてしまった。
まさかアイドルが……。
神姫とはそれほどまでに無差別に人を選ぶのか。
ドカーーーーン!!
俺が神姫の境遇を思案していると、俺達が座っている席とは反対側の観客席が盛大に爆発したのであった。
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