25話 好きという事



  グリーンヒル大森林でメルと魔力組み手を始めた俺達。

 俺は相棒のバルムンクを。メルは自分を。それぞれ魔力で形づくり組み手が始まった。


 俺の新しい魔法【移動ムーブ】で奇襲に成功したかに見えたが、メルの超反応の前に敗北を喫した。


 その後メルに戦う理由を問われた俺は感情を爆発させてしまうのであった。



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「メルごめん……。今どうも感情が高ぶってしまって……」


「大丈夫だよー。私も師匠と修行してたときは怒鳴りまくってたし、カナデがそうなっちゃってるのは理解してるから」


「ありがとう……」


 人殺し。そう言われたように感じてしまい、ソレを否定する為にまた怒鳴ってしまった。

 戦いに勝つ。それは相手の思想を無視しこちらの正義を押し付ける事。

 今までの戦闘でできる限りのことはしてきた。それを否定された様で悔しかった。

 だが、俺の力ではまだまだなのは自覚している。だからこその修行なのだ。

 どうやら精神的な点も鍛え直さないとダメだな……。


「今日はかなり魔力使ったようだし、お家に帰ろっか? これ飲んで休んだら帰ろ」


 メルがこの前の強炭酸ジュースを差し出してそう言ってくる。


「あぁ。そうしよう。ジュースありがとね」


 メルの提案を素直に受け取り休憩を始めるのであった。



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「カナデは音楽ってどんなの聴いてるのー? 」


「そうだね。ジャンル問わず聴いてるかな。メルは良く音楽は聴くの? 」


 この世界に来てからはまともに音楽は聴いていなかった。前世? ではフェスやライブなどに沢山行っていたくらい音楽は好きだったのに、こっちではそういう娯楽に触れる機会が無いほどに忙しかったし、疲れを取るために就寝する時間も早かったのが原因だ。


「私はねー! アイドルを聴いてるの! この子なんだけどね」


 メルは、手元の情報端末でそのアイドルの写真を見せてくれた。


「えっ……?!」


 そこには、カナデが見知った姿が映し出されていたのであった。


「ん? カナデは、ミミちゃん知ってるの? 」


「知ってるもなにも……」


 あ、これは話したら不味い。


「可愛い子だなって思っただけだよ。この子は何ていう子なんだい? 」

 

 直感的にこの子と顔見知りだったことは伝えては不味いと感じ取り、可愛い子だとだけ告げ話を逸らす。


「むー。彼女の前で他の子を可愛いなんて……。後でパフェ奢ってね! 」


「ごめんごめん。パフェね。美味しいところ探しておくよ」


 なんとかパフェで機嫌直してくれてよかった……。


「そそ、それでなんだけど、来週末カナデ非番の日あるじゃん? その日にミミちゃんのライブに行かない? 初めてチケット取れたんだよ!! プレミアチケットだよ! 」


 こっちの世界で初めてのライブ……!! 


「そんな貴重はチケットなのに俺となんかでいいのかい? 」


「もちろん! だって彼氏だもん! 」


「あ、ありがとう……。楽しみにしてるよ」


 あー、まだ彼氏認定なんだったな。そろそろ俺も踏ん切り付けないとか……。


 るんるんしているメルを見ていると付き合ってもいいと思うのだが、どうしても年齢差が邪魔をしてくる。それに俺はこの世界の住人ではなかった人間だ。もし万が一元の世界に戻ることになったとき残されたメルはどうなる……。


 帰り支度をしながらも様々な事を考え悩む俺だった。


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 メルとの修行から二日後。俺は自室のクローゼット前に立っていた。


「ライブに着ていく服が無い」


 私服の少なさに愕然とした。

 前のカナデは結構遊び人だと思っていた事もあったが、俺自身出歩く時はいつも着ている制服姿であることが多かった事を忘れていた。


「メルとのデートなのに、メルと一緒に服を買いに行くのも変だしな……」


 クローゼットを睨みつけていると、ポケットに入っていた情報端末から電話の着信音がなる。


「もしもし? ミラ? 何か用事でも? 」


「ちょっと、用事が無かったら電話もしちゃ駄目なの? まぁ、用事と言うか今から買い物に付き合って欲しいんだけど暇してる? 」


 これはラッキーだ。カルカル辺りを誘おうと思っていたが、メルならファッションセンスも良いし丁度良い。


「丁度良かった。これから買い物にでも行こうと思ってたんだ。15分後に正門で待ち合わせよう」


「ラッキー! じゃあ準備して向かうわね」


 ガチャッ。


 通話が終わり端末の電源を切る。よし、とりあえず制服のままで行くか。

 俺は、黒をベースに青のラインの入った外出用のライトに仕上げられた軍部隊の上着を羽織り部屋を出た。



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「カナデちゃんおまたー」


 寮の出入口で待つこと三十分。右手をひらひらとさせながら、ミラが階段を降りてきた。

 その服装は、黒のタイトジーンズに、白のTシャツ。その胸元はがっつりの谷間が見え目のやり場に困る。そして、そこにライダーズジャケットを羽織り頭にはサングラスを付けていた。


「ミラのは服装はシンプルなのに映えるな」


「そう? まぁ、美人は何着ても似合うのよ♡」


 一回転をし、ウィンクからの投げキッスのコンボを決める姿は、他の男が見たらイチコロだろう。

 だが普段や戦闘中の姿を知っていると複雑な心境になってしまうが、それでも魅力的なのは認めざる負えない。


「じゃ、行きましょうか。とりあえず私の寄りたい店からで大丈夫よね? 」


「あぁ、あまりこの辺の店は分からないからね。後で俺の服も選んでくれると助かる」


「へー。カナデちゃんが服買うなんて珍しいわね……。いいわ! 格好よくコーデしてあげる! じゃあ、レッツゴー! 」


 右手を挙げ左脚をピョコッと上げた姿は、見た目とのギャップがあり周囲からの目線を集めるものだった。



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「ふー! やっぱり男手があると買い物は楽でいいわねー」


 買い物を始めて四時間程度が経った頃。喫茶店で休憩をする事となった。


「そんなに買うなら郵送して貰えばいいのに」


 俺は椅子の横にある数十個にもなる袋を見ながら溜息を吐く。


「カナデちゃんは分かってないわねー。買った物が手元にあるのがいいのよ! 手ぶらじゃ達成感が無い無い」


「そんなものなのか? 」


 荷物をもってるのは俺で、ミラは手ぶらだけどな。とは言えず、内心でつぶやく。


「そりゃそうよ! 配送なんて邪道よ! 」


 そう言いながらアイスコーヒーをストローで飲むミラ。前世では俺も店舗に出向いて買う派ではあったが、大量買いはしてこなかったからその感覚はよく分からなかった。


「ところで、カナデちゃん。メルと付き合ってるんだって? 」


 ぶーーっ!


 俺は吞んでいたダージリンティーを噴いてしまった。


「ちょっとー! 少しかかったじゃないの! もー。すいませーん! おしぼりと、シフォンケーキおねがーい! 」


 ミラが店員にそう告げる。しかも、シフォンケーキ追加されてるぞ!


「ごめん。だが、シフォンケーキ追加は聞いてない」


「はぁ……。そんなケチな事言わないの。大きな染みにはならなかったから良かったものの……このTシャツ高いんだからね……。少しは男気を見せなさい」


 呆れ顔のミラがそういいながら定員からおしぼりを貰いながらウィンクをし、染み取りを始めた。


「わかったよ……。俺にはアップルパイをお願いします」


 ミラにウィンクをされた店員はぼーっとミラを見ていたが、俺に声をかけられてハッとした後厨房へと向かっていった。


「はぁ、ミラは見た目は凄い良いからなぁ……。さっきの少年もメロメロだったぞ? 」


「まぁね。特に何かしてる訳でもないんだけどね。その点だけは両親に感謝してるわ」


 そういうミラの目は冷たいものだった。きっと両親との間に何か軋轢があるのだろうか。ナイーブな事だ。聞かない方が無難だろう。


「んで? メルとはどうなのよー」


「どうも何も、メルの勘違いなんだよ。俺はOKだした訳ではないんだよ」


「え!? カナデちゃんサイテー」


 舌を出しながらうげーって言うような顔をしている。


「分かってるよ……。本当は俺の修行に付き合ってくれ。って意味で言ったんだけど、メルは恋愛の意味で受け取ってしまったみたいでさ……」


「うわー。それで? カナデちゃんはちゃんと付き合う気はるの? あ、ありがとね」


 店員がさっき注文したケーキを運んできた。


「俺もいい年だから、メルの年齢と離れすぎているじゃん。そこが問題だよ」


 いいながら、アップルパイに手を付ける。中々美味しい。


「んー。女の子からしたら、年上の男性は魅力的に映りますからねー。別に法律的に問題ないし付き合う位いいんじゃない? 」


 ん? この世界では未成年と交際していいのか?


「ちょっと。未成年と付き合うのって駄目なんじゃないのか? 」


「それは大昔の話じゃない。私も10代の頃に30代の人と付き合ってたわよ」


「なるほど……。じゃあホント後は俺次第なんだな……」


「そうよー。だからしっかり決めなさいな」


 最後のアップルパイを食べ終え、ため息を吐く。


「ふー。ライブ後だな」


「ふふん。楽しんできなさいよー。じゃ、会計よろしくー」


「了解。先行っててくれ」


 そう言って席を立ち会計に向かおうとした。


 ドンッ!!


「きゃっ! 」


「おっと」


 突然後ろから女の子がぶつかってきたのを、倒れる寸前に抱き留めた。


「大丈夫で、す、か……? キミは、澪? 」


 俺の腕の中にいる少女。その顔をみて愕然とするのであった。






 

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