24話 組み手

 

 ヴァーミル王国から帰還中に遭遇したマゼンダ・カームとの一戦。

 圧倒的実力差を見せつけられた俺。本能的恐怖と自分の不甲斐なさに落ち込んでいた俺に、メルがビンタを一発浴びせてきた。

 それにより俺は負けていられないと、やる気にさせてくれたものだった。


 俺はこの世界で生き抜かなければならない。愛してくれている艦のみんなの為に。この身体の持ち主の為に。そして自分自身の為に。


 さて、今日もメルとの修行の時間だ。



__________________


「さぁ、こっち戻ってきて二週間経ったけど、カナデはどこまで魔力操作上手になったのかなー」


 ここは、エリアリウス共和国の首都ウィンハルムから100キロほど離れた田舎町の更に奥にあるグリーンヒル大森林だ。今日はメルとの魔力組み手をするため遙々バルムンクに乗って遠征してきた。


 そして俺の前ではメルがニヤニヤしながらストレッチを始めていた。


「やれる限りの事はやってきてるよ。組み手が出来るくらいはね」


 俺も背中を伸ばしながらメルに応える。

 首都に帰ってきてからは、バルムンクとの親和性を高める為に哨戒任務や性能試験等魔力操作の出来る環境を自ら作ってこられたと思う。

 寮に帰宅してからも、室内で魔力操作・顕現の特訓は欠かさず毎日してきた。

 そのおかげで。


「よし、いくぞ! 」


 ブワッ!


「おー!!! すごいすごい!! それはバルムンクだよね!! 」


「あぁ、相棒を形にする方が俺には合っていたみたいだよ」


 メルとの間に竜巻を起こしながら1メートル程のサイズの白い魔力で出来たバルムンクがそびえ立っていた。


「いいと思う! バルムンクなら操作もしてるし上手く動かすにはいい選択したね。じゃあ、私も!! 」


 メルの魔力が高まっていき、炎の渦が出現。そしてその中からメルそっくりの人型が現れた。


「メルは自分自身か? 」


「うん! やっぱ自分のことは自分が一番知っているしね! 」 


 にっこりとそう言うとメルはるんるんし始めた。


「じゃあ、始めますか! 」


「うん! 」


 どちらが先手とかは決めていない。合図も決めていなかったから、それは一瞬の出来事に見えただろう。


 ガキン!


 俺達の分身が剣と剣をぶつけ合う音が響いた。


「私の速攻をよく受けたねー! 」


「メルなら真っ正面からくると思っていたからな!! 」


 お互い相手の手を読み合った結果だったが、これで終わりなんかじゃない。

 俺はバルムンクを一旦後ろに下げる。すると、それに対応するようにメルは間合いを詰めてくる。


「逃げてちゃ勝てないよ! 」


 先ほどまでレーヴァテインを握っていたメルの両手には、アグニ二丁ショットガンが握られていた。


「それはどうかな? 」


 言うや否や、アグニが火を噴く。


「【反射リフレクト! 】」


 バルムンクが一瞬輝いたかと思うと、メルが放った銃弾が跳ね返って自らをを襲う刃となる。


「きゃあっ!! 」


 メルは魔力が削られた様で叫び声を上げる。


「クソー! カナデのソレズルいよ!! 」


 俺の魔力の性質は【力】だった。

 文献を調べていくと、俺のゼルエルは力の天使だった事がわかってそこからは魔力の使い方の練習をしてきた。

 ウォーリアーのマジックバレットの表示からなんとなく予想はしていたし、実践では本能的に反射リフレクトを使えたので合点が行った所だ。

 基本的に、力のベクトルを操るイメージと言ったらいいかな。

 反射、増幅、加減、停止。やれる事は多い。だが、今の俺にはまだ反射と増幅が限界だしシンプルなものしか出来ていない。

 この魔力組み手で繊細な魔力コントロールが養われれば、更なる魔法力の向上になるだろう。


「メルの武器は火力が高すぎて、こっちも消費魔力が大きいんだよ」


 そう、俺の魔法は作用する現象に対して魔力を消費する様で、威力が高いほど対象が大きく複雑であるほど魔力を上手く扱わないといけなくなる。

 魔力が弱すぎれば弾かれ、魔力が高すぎれば魔力体力気力共に削られてしまう。いかに適切な対応をするかがこの魔力との付き合い方だ。


 そして、魔力組み手の決着は相手の魔力を削り、分身を消失させる事だ。


「でも、やっぱりズルい! 」


 吹き飛ばされたメルが受け身を取りながら着地し、直ぐに反転。レーヴァテインを構え吶喊とっかんしてくる。その勢いのまま右から袈裟懸けに振り下ろしてくるのを、バルムンクで受け止める。


 ズズズズ


 神姫にパワー負けしてしまうのは仕方が無い。

 とは言ってられない! 

 魔力組み手では神姫もARMEDも生身でも関係無い! 己の実力で勝負するだけ……!  俺は鍔迫り合いを一瞬力を緩めメルの体勢を崩させる!


「おっと」


 一瞬前のめりになったメルの左横へ流れ込み、半回転しながら背中へと回し斬りを放つ。


「んーっ! 」


 ズガンッ! 


「マジかよ……」


 体勢を崩したメルは、倒れそうになった身体を加速させそのまま地面に手を着き伸身のまま前転をしながら踵で蹴り上げてきた。

 不意の一撃でバルムンクは武器を上空へ飛ばされ、丸腰になった所へ連打が来た。


「さすがに、闘い慣れしてるな! 」 


 小細工ばかりでこの前は負けてしまった。フェイントや撹乱は俺の闘い方の主流。だが、俺だってそれだけじゃない!


 武器を精製しなおし、メルの攻撃を受けつつこまめにカウンターを入れていく。


「んもー、やりづらいなぁ! 」


 メルは俺のカウンターにイライラしてきたのか叫び始める。


「そんなにイライラするなよ! 」


「イライラなんかしてないっ! 」


 そう言うとメルは、両手に魔力を集め始め一気に放出してきた。


「【反射リフレクト! 】」


「だから!! そんなの意味ないって! 」


 放出される炎が途切れる事なくこちらに浴びせ続けられるのを反射し相殺していく。


「本家本元の神姫の底なしの魔力見せてあげるよ!! 」


「ハァハァ。まだまだだぁ!! 」


 俺達の周囲の気温が上がっていく。集中している俺の方も汗が止まらない。


 これで戦況を変える!


「【移動ムーブ! 】」


 メルの炎と反射された炎がぶつかり合う点が光り、メルの上空の左右後方が歪みそこから炎が吹き出す。


「えっ?! 」


 突然の事に驚くメル。だが、そこからの反応が早かった。

 まず、両手からの炎を消し魔力を溜め直す。そこから流れるような動作で地面へと両手を当て炎の盾を全周に展開した。

 それにより、俺が利用した攻撃は炎の盾により防がれてしまう。

 そして、炎の盾が消え去る前にソレを突き破りメルがバルムンクへと吶喊。

 あまりの展開の早さに俺の判断は間に合わず、バルムンクは胴体を横一閃に両断されてしまいその身体は光の粒子へと変わってしまった。


「はぁ……。メルの本気が引き出せたかな? 」


 集中が切れ肩で息をしながらメルに強がってみせる。


「アレは止めるのに必死になったよ……。さすがに自分の魔力を喰らうのはね。痛いじゃん? 」


「いやいや、俺今回が初めての魔力組み手だったのに、全力でダメージ入れてきただろ。おかげさまで疲れがヤバいよ」


 俺はそう言ってその場に大の字になって寝転んだ。

 そよ風が芝生の蒼い匂いを運び、俺を包み込んだ。


「あーあ。なんで勝てないんだろうなぁ……」


 思わず本音が出てしまった。


 神姫相手に勝とうとするのが間違っているのか。殺されないだけマシなのだろうか……。


「カナデは何で戦ってるのさ」


 グチった俺にメルが上から覗き込んで、そう尋ねて来た。


「相手を殺したいから戦ってるの? 」


 ガバッ!


「違うっ! 俺は人は殺してなんかいない!! 」


「ごめん。でも、カナデは勝ちたいって言っている。戦いで勝つって事はどういうこと? 相手を戦闘不能にする事? それだって、機体が爆発してしまえば操縦者の安否なんかは分からなくなるよ。それを承知でカナデはARMEDに乗っているんじゃなかったの? 」


「あぁ。分かっているさ。不可抗力で人が死んでいるかもしれない。でも! それでも人は死ぬべきではない! だから、俺はARMEDは壊して動けなくすればいいと思っているんだ!! 」


 感情が高ぶっているのが自分でも分かる。だが、それを抑えようとしていない自分がいることも分かってしまう。


「俺は! 自分の事を気に掛けてくれる人をみんな護る! そのために戦っているんだ! 」


 俺の叫び声が快晴の森林に虚しく響き渡るのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る