23話 おともだち



 ヴァーミル王国防衛戦。そして新型機【バルムンク】の起動テスト。

 それらを終えヴァーミル王国から旅立つ日が来た俺達。


 メルとマリアンヌが仲良くなっていたことに驚いた俺だったが、色々疲れていた身体を休める為に自室で休息を取ることにした朝だったが、それを壊す一言で波乱の1日がスタートした。

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 「カーナーデくーーーーーん!! あっそびましょーーーーーー!! 」


 突如館内に響き渡った男の子の叫び声と共に起きた強い衝撃が俺を飛び起きさせた。


「今度はなんだよ……!! 」


 悪態を吐きながらも、俺を呼ぶ声を無視する事は出来ずに司令室へと走る。


 ウィーン


「今の衝撃はなんなんですか?! 」


 自動ドアを抜けて開口一番に叫ぶ。


「カナデー出撃だ」


「は? 」


 ライアンから告げられたのは出撃命令だった。その一言に俺はポカンとしてしまい、反応に困ってしまう。


「だから、出撃だ。相手してやれ」


 ライアンはそう言ってモニターの方へと親指を指した。


 ソコには古代のスパルタ兵士によく似た造形のARMEDが映し出されていた。


「一体誰なんです? 単騎で戦艦を相手にしようなんて正気じゃない」


「んや、戦艦相手じゃない。カナデ。お前に用があるんだよ」


 ? 俺に? 確かに俺を呼んではいたが、それとこれとでは違うのではないか……?


「あー、悪い。記憶喪失だったな。アイツは【傭兵集団 crisisクライシス】のマゼンダ・カームだ。いつもお前とARMEDでじゃれてたんだよ。まぁ、俺らからしたら殺し合いにしか見えなかったが」


 まじか……。まさかの事実に苦笑いが出てしまう。


「まぁ、そんな顔するな。新型機の性能も試せるしちょうどいいじゃないか」


「いや、昨日の試験で粗方は確認出来ましたし……」


ドーン!


 俺が渋っていると戦艦に衝撃が走った。


「ほら! 早くしないとこの船が壊されてしまう! 」


「……。分かりました」


 納得は出来ないが流石に船を沈められるのは不味い。

 俺は無理矢理納得しバルムンクの元へ走った。


「カナデくーーーん!! 早く来ないとこの船壊しちゃうよーーー!! 」


 なんて物騒な子供なんだ……。走りながらそんなことを考えながらも、集中を高めていった。



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「魔力計異常無し! 出力安定。バルムンク出撃出来ます! 」


「ありがとうございます! カナデ・アイハラ。バルムンク。行きます!! 」


 オペレーターから出撃可のコールがあり、操縦桿とフットペダルを踏み込み一気に外へと飛び出す。


 艦内から飛び出すと目の前は碧い草原が一面いっぱいに広がっていた。


「良い景色だけど、まずはお子様の相手をしないとだな! 」


 更にフットペダルを踏み込み一気に上昇。アーク・ジェネラルを上空から俯瞰で見る。


「あ! カナデくんやっときたーん! あそぼーーー!! 」


「みつかった?! 」


 アーク・ジェネラルの後方甲板でキョロキョロしていたマゼンダ機が、こちらに気づき振り向いた。


「降りてこーい! 」


 びゅんっ!!


 マゼンダ機が手に持っていた曲刀を短槍に持ち替えていて、ソレを振りかぶって上空にいた俺に投げてきた!


「クソッ! 」


 咄嗟に左へと操縦桿を倒しサイドスライドで避ける。ウォーリアーの反応速度では避けきれなかったかもしれない……。


「おー! 流石新品だね! 良い動きしてる! 」


「あぁ、じゃあこっちからも行かせてもらう! 」


 右手に持ったライフルを構え魔力を練る。


「【加速弾スピードバレット! 】」


 魔力を込めた神速の銃弾を三発速射。一瞬目の前がクラッとしたが気を引き締める。


「お! 新型機でもソレ出来るんだね」


 マゼンダは驚きの声を上げたが、加速された弾丸を右手の剣でいとも簡単に弾き飛ばした。


「人外かよ! だが! 」


 三連射はフェイク。射撃の後即座に距離を詰めていた俺はショルダータックルをマゼンダ機へとたたき込む。


「ふーん。面白くないね」


 無防備になっていた所へのタックルだったのに、マゼンダは片手でソレを受け止めた。


「面白くないんだよー」


 ギギギギ


 肩の装甲が五本の指によりひしゃげてくる。


「どんなパワーしてるんだよ!! 」


「ーーー!! 新型装甲が!!! 」


 マルタの悲痛な声が通信から聞こえてくるのを無視して、至近距離でライフルを腹部へぶち込む。


「なんか違うなー」


 発砲と同時にかそれよりも早くマゼンダ機が視界から居なくなってしまった。


 ガツン! 


 突如後方から衝撃が走り顔面から甲板に突っ込んだ。


「んぐっ」


 盛大に顔面をコックピットにぶつけて変な声が出る

 なんだコイツは。化け物かよ……。

 圧倒的実力の差に絶望していると個人通信クローズチャットが接続される。



「カナデくん。あんた誰? 」


「っ! 」


「カナデくんなら、その機体使えばぼくのこと何回も殺せてるもん。それなのに掠りもしないんだもんねー」


 こいつカナデ・アイハラが別人になっているって戦闘だけで気付いたのか。というかそれほどまでに実力差があったと言うのか……。


「はは。なんのことかな。記憶が無くなっているだけで、俺は俺だよ!! 」


 転んでいた状態から一気に起き上がり、回転しながらその勢いのままバルムンクをマゼンダ機の腹部へたたき込む。


 しかし。


「だーかーらー。こういう事はカナデくんはしないんだよー。いつも真正面から戦うの! こすいんだよ! 君は!! 」


 マゼンダ機は神姫の装甲にもダメージを入れられるはずの刃を容易く掴み、俺の攻撃の勢いを殺さずに真下へと叩き落とした。


「はい、終わり。またね偽物くん」


 一言マゼンダはそう言い放ち、甲板から飛び去って行ってしまった。


「待て!!! まだ俺は死んでなんかいないぞ!! クソッ!! クソーーーーーーーッ!! 」


 晴天の中、アーク・ジェネラルの上で俺の虚しい叫び声が響き渡っただけであった……。



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 カツンカツン。


 廊下を歩く音がする。慰めならよしてくれ。


 バチーーンッ! 


 突然、ベンチに座る俺の頬に衝撃が走る。俺はその相手を確認するため睨みつけながら正面に振り向いた。


「いつまで腑抜けてるんだよ! いつも五分五分で戦ってたからって逆上のぼせてるんじゃなーーい! 」


 ぺちん


 二発目のビンタは可愛く俺の頬にくっついた。


「カナデ。大丈夫。記憶喪失なんだもの、実力の半分も出せてない事なんて気にすることないよ。しかも新型機を使ったのだって二回目なんだもの、上手くいかない事もあるよ」


「君に何が分かる。子供のくせに」


 あー。やばい。またメルに八つ当たりしてるよ。


「わかんないよ。でも私だって敵に負けたら悔しいし、コナクソーーー! って思うモン。だから、カナデが悔しいのはすごい分かる。だからさ」


 ちゅっ


「これから二人で頑張ろうよ」


 その一言で俺の涙腺はやられてしまった。



___________________



 早朝の敗北から6時間後。俺はメルと空を飛んでいる。と言っても俺はバルムンクに乗ってるんだけどね。


「まさか、カナデがあんなに泣くなんて思わなかったなー。ふふ。可愛いところもあるんだね」


「俺だってそういう時もあるさ。恥ずかしい所を見せちゃったよ」


 メルに茶化され悔しかったが、今も特訓中だ。

 バルムンクには魔力を流すことで様々な機能を使うことが出来る。今はその中の1つ。高速機動形態の試験を兼ねて空を飛んでいる。

 今までのARMEDでは神姫同等の速度で高度航行は不可能だった。それを可能にしたのが、ATドライブ式の加速ブースター(一基を半分にした小型ATドライブ)二基とバルムンク本体に搭載された二基のATドライブの合計三基から得られるパワーがあるからだ。

 とは言っても全力のメルの速度にはまだまだ追いつけないみたいで、マルミルはより良い性能の機構を考えているようだった。

 

 あ、ATドライブって言うのは、Angelic Tear Drive の略称で天使の涙という鉱石を使っている所から来ているらしい。

 その鉱石は神姫の魔力と同質のエネルギーを蓄えていたらしく、魔力を宿した鉱石からエネルギーを抽出出来る様になって広く使われるようになったみたい。


 電気を宿した石、のようなイメージで良いらしいが細かい理屈はまた今度聞くことになっているので楽しみだ。


 と、話が逸れたけど、この高速機動形態は外装に隙間を作りその間から魔力と空気を取り込み加速の力へと変換するギミックらしい。

 ATドライブと俺の魔力の親和性が高まる程その変換効率は上がり自由な加減速を実現してくれる。と言うのがマルミルの説明だった。


 それにしても、

 

「なぁ、メル。流石にこの速度で魔力をキープし続けてると気を失いそうだよ……」


 耐Gスーツを着ていても流石に、マッハ2近くの速度を出しながら魔力を定量で流し続けていると目の前がチカチカしてくる。


「まだまだだよ! まだ一分しか経ってないし、こんなんじゃ戦闘でバルムンクの全力だせないよ! 」


 バルムンクの頭部の辺りを涼しげに飛びながらメルが𠮟咤してくる。

 少し前まで一般人だったんだから仕方ないだろ……。身体は前のカナデ・アイハラの物で鍛えられているからソコまでダメージはないけれど……。


「あぁ、今朝のマゼンダ相手に手も足も出なかったのは事実。コイツの為にももっと鍛えないとな! 」


 今朝の嫌なイメージを払拭するために、フットペダルを更に踏み込んで加速していった。

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