22話 ライバル?
俺の新たな相棒【バルムンク】その性能はウォーリアーを遙かに凌駕するものだった。
癖の強さはあるもののメル、カルカルを戦闘不能にし、謎少女との戦闘に入る。
しかし、それを止めるがの如く、獣の咆哮が響き渡った。
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「誰ですか! 私のデータ収集を邪魔するのは! 」
「まさか、カインか! 」
俺達が声のした方を見つめていると、1つの黒い影が飛び降りたってきた。
「こんばんは。カナデ・アイハラ。貴方の新しい相棒とやら、試させて貰います! 」
言い終わる前に突如現れた黒と赤の獅子型ARMEDが、こちらに
「クソ! なんてスピードだ! 」
一瞬で目の前に現れ、下から首元へと噛み付きをしてきた。
手にはライフルがあり今から大剣に切り替えるには遅い。なら。
ガコン!
顎が首とに到達するまで2メートルに迫った瞬間、バルムンクの膝で獅子型の顎を下から打ち抜く。
獅子型はそのまま後方20メートルほど吹き飛ばされた。
「危なかった……。アレがカインの新型か……。普通の機体じゃ相手ならないんだろうな……」
想像以上のスピードに驚いたが、バルムンクの性能に助けられた。移動のみならず攻撃への速度も向上しているし、何よりも思ってから行動への伝達が格段に上がっている。並の操縦士相手ならまず反応速度では負けないだろう。
「ククククク。素晴らしい! ではこれはどうかなっ! 」
カインは叫ぶと、獅子型が前足を出しながら背中に装備されている二門の大口径ガトリングガンを此方に向け、一斉射撃を放ってきた。
「チッ! 」
俺は舌打ちをしつつ右方向へとブースターを加速させ回避していく。バルムンクの後を大口径の弾が地面を抉っていくのをモニターで確認して冷や汗が出る。
「あんな武器装備した機体にカインを乗せるなんて、艦長は頭大丈夫なのかよ! 」
艦長への罵声を放ちながら、逃げてばかりでは何も始まらないと思い、俺は機体を反転させ、獅子型へと体勢を変えてライフルを構え速射! 狙うは向かって左の前足膝関節!!
ボンッ!
弾丸が命中し右前足の膝関節が爆発した。
「よし! 着弾した! 一気に攻める! 」
放たれた弾丸は獅子型に当たった。そう思い間合いを詰める。
しかし。
「そんなヌルい攻撃。この倶利伽羅には効きませんよ!! 」
着弾したと思われた右前足から、炎が産まれ出していた。そして、その炎は両足とたてがみへと伝播し炎の鎧のように全身を包み込んでいった。
「マジか……。だが、怯んでなんかいられるか! 」
ブースターを更に加速させ、バルムンクを抜刀。そのまま高速の居合抜きを倶利伽羅へとたたき込んだ。
ガキキキキ。
「流石はカナデ・アイハラ。アナタならこう来ると思いましたよ! 」
あの速度を受け止めるか……。
倶利伽羅はバルムンクに噛み付き両断されるのを防いでいた。
「知るかよ! 」
俺は発想を変え、大剣を咥えた相手を捕らえられた事を利用しブースターの出力を上げる。
「このままぶつかりやがれ! 」
「まったく品の無い! 」
倶利伽羅から出る炎による温度上昇を危惧していたが、特殊装甲のおかげか全く温度に変化は無く相手を押し続ける。
ドカァァァン!!
倶利伽羅を試験場の壁と激突させ、距離を取る為後ろへ警戒しつつ下がる。
「ククククク。やりますねぇ。先の防衛戦では歯ごたえの無いモノばかりでした!! 」
カインはそう叫ぶ。だが、この性能差だ。やられた側からすれば溜まったもんじゃないだろう。
「はぁ?! お前は人の命をなんだと思っているんだ! マルタ! バルムンクの出力を上げてくれ! コイツにはその機体に乗る資格なんか無い!! 」
「ごめんカナデ。遠隔で出力調整はまだ出来ないんだよ……!」
「チッ…! 」
カインの人を舐め腐った態度に怒りのボルテージが上がったのが自分でも分かった。自分の体温が上がる。操縦桿を握る力も必然と強くなり、視界がクリアになっていく。
ザシュッ!
思考する前に行動していた。
言葉にすればそれだけの事だが、後から聞いた話だと実際に起きた事はそう簡単な事ではなかったらしい。
「まじかよ……。カナデ、あんたはどこまで強くなるんだ……」
『お前らいつまで遊んでいるんだ。明後日にはヴァーミル
突如響いた放送に我に帰る。
そして、眼前には右前足が断裂した倶利伽羅がおり、俺自身も物凄い冷や汗が全身から吹き出していた。
「ククククク。やはりカナデ・アイハラは素晴らしい! また手合わせいたしましょう! 」
カインの笑い声が嫌に癪に障り、イライラを残したまま格納庫へと歩みを進めるのであった。
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試験場での突然の乱入事件の後、新型機による身体への影響を調べるため検査が行われた。
乗っているだけでは分からない物があるのだろう。身体資本の仕事だから検査されるのは仕方ない事だ。
検査の後、母艦内の自室へと戻った俺は、ベッドへと転がり試験の事を思い返していた。
新型機【バルムンク】の乗り心地は抜群だった。加速度は勿論だけど、何よりも操作感が劇的に向上していたのには驚いた。
ブースター制御はまだまだ改善の余地があるし、上手く扱いきれるよう特訓しないといけないな。
新武器の振動大剣はフルパワーではなかったみたいでイマイチ感覚は分からなかったけど、気持ち長めの刀身は案外と使いやすかった。
あの冷や汗はなんだったのだろう。カインの一言にキレてしまった所までは覚えているのだけど……。
コンコン。
「はーい」
ガチャ
「機能試験お疲れ様ー。明日出発なのに大変だったね」
俺の部屋を訪れたのはメルだった。
部屋着なのか、もこもこの薄ピンクのパジャマ姿をしている。その手には缶ジュースを持っていて、それを差し出してきた。
「ありがとう。いきなりの乱入があったけど良い経験が出来たよ。明日からの移動には支障無いし、問題ないよ」
プシュ。
缶を開ける音がして、一息に飲み干す。
「ふーー! 炭酸強いなこれ」
「でしょー。今流行のメガコーラだよ! 美味しかった? 」
コーラはまだこの世界にもあるんだな……。
「あぁ美味しかったよ。ありがとね」
メルへとお礼を言いながら頭を撫でてあげる。
「ふふん。 てか、それにしてもカインは相変わらず訳分からないよねー。新型機同士で戦って、しかも負けてるし! まぁ、カナデも思い切り倶利伽羅の前足ぶった切っちゃったから減給あるかもねー」
るんるんなメルから、減給の一言が出て思わず吹き出す。
「え! カインが仕掛けて来たのに俺まで減給なのかよ……」
「まぁ、連帯責任ってヤツでしょ。でもマルミルが驚いていたよー。出力30パーセントの武器で次世代機の装甲を切り裂くのはおかしい!って」
「連帯責任かぁ……。やらかしたかぁ……」
メルが双子がどうとか言ってるけど、減給のショックがデカすぎて話が入ってこなかった。
その後たわいもない話をしてさよならをした。その帰り際に。
「まぁ、コレに懲りずに戦線では頑張ってちょーカナデくん」
と、メルに慰められる始末。ちょっとコレはへこむなぁ……。
切ない夜にフクロウの鳴き声が響き渡るのであった。
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「カナデ様。行ってしまわれるのですね……」
想定より長い滞在になったヴァーミル王国だったが、それも今日までとなった。
俺はヴァーミル王国第2王女のマリアンヌと別れの挨拶をしているところだ。
「はい。私達にも護る国があるので。」
「そうですわよね……。今回のご恩は一生忘れません。もし、カナデ様に何かがあった時は、ヴァーミル王国総出でお助けいたします。ありがとうございました」
そう言うと、マリアンヌは俺の頬にキスをして城へと帰っていくのであった。
「はぁ……。女の子って強いなぁ……」
そう独りごち、俺が帰るべき場所であるアーク・ジェネラルへと歩みを進めた。
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「おかえり。それじゃあ出発だ!! 」
部隊長のライアンがそう言うと各操縦士達がアーク・ジェネラルの発進シークエンスを開始し始めた。
「艦長出航可能になりました! 」
オペレーターの一人がそう告げると。
「長い滞在ご苦労だった! これより本艦は母国エリアリウスへと帰還する! アーク・ジェネラル発進! 」
「「アーク・ジェネラル発進!! 」」
艦長の掛け声に応えるようにオペレーターが復唱。そして、機体が動き出した。
「あっという間だったねー」
俺の隣にメルが現れ、上目づかいで声を掛けてくる。
「そうだね。中々濃い日々だったよ」
「今度は普通にマリアンヌとお茶しに来たいなー」
「あれ? いつの間に仲良くなったんだ? 」
二人は俺を取り合っていた仲だったはずだが……。
「んー? まぁマリアンヌもカナデの良さを分かってるいい人だからってのと、お互いに背中を預け合った仲になったからかなー」
メルはクスクスと笑いながら教えてくれた。
「そんなもんなのか……。まぁ、仲良い事に超したことはないからな」
俺は苦笑いしながら頭を掻いてそう納得する事にした。神姫同士中々苦労してきただろうしね。
「色々あって疲れたから、少し部屋で休んでくるよ。メルもしっかり休んでな」
「むー。子供扱いしないでよー」
メルの頭をくしゃくしゃと撫でてやると、むくれて可愛かったのでたっぷり可愛がってあげた。
「まあまあまあ。じゃあ、また夕方頃な」
「ふー。うん! またね」
お互い手を振り合ってその場で解散となった。
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「カーナーデくーーーーーん!! あっそびましょーーーーーー!! 」
突如アーク・ジェネラルに子供の声が響き渡り、その後すぐに船全体を揺るがす振動が俺を飛び起きさせた。
「今度はなんだよ……!! 」
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