2話 神姫


 炎の中から現れたのは、アーマーを装備したメルだった。


 その姿は、赤と橙の焔を連想させるカラーリング。

 直線的なフォルムはとても攻撃的であった。 背中には機械の翼が一対あり、それぞれ小型ブースターが3基ずつ付いている。

 背中の間には、メルの背丈を越える程の大剣が携えられていた。鞘に入っている状態でも熱を感じさせるような陽炎が出ている。



「どうだーー!! コレが私の装備。『ウリエル』だよ!! 格好いいでしょ!! ってそんな変な顔しなくてもいいじゃーん! 鳩が豆食ってポー! したみたいな顔してるよーてか、私的にいいデザインだなって思ってるのにー! 」


 今日何度目になるか分からないドヤ顔を決めるメル。

 驚きのあまり開いた口が塞がらなくなる俺を、メルは笑いながらからかう。

 確かによく見ると、天使と鷹のハイブリットの様な感じでカッコいい。


「す、すごいな……。それが神姫の能力ちからなんだな……実際の戦闘とかは経験多いのか? 」


「緊急警報!! 緊急警報!! 所属不明のARMEDアームド編隊が接近中!! 所属不明のARMED編隊が接近中!! 待機中の戦闘員は出撃準備をお願いします!! 」


 アラームと共に敵襲を報せる放送が流れる。


 敵襲?! そして、この前の神姫とはまた別なワードが出て来た。

 しかし、俺はそのワードを知っている。


「ARMED?! まさか本当に……?! 」


 そう、俺が夢で操縦していたロボット。それがARMEDだったのである。


 そしてそのロボットは、球体筐体型操作疑似体験ゲーム【ナイツ・オブ・プルガシオン】に登場するものだった。


「おいおい、ゲームそのままのロボットが存在してるのかよ!  でも世界観は全然違う……一体どういうことなんだ……」


 色々と衝撃的な事実からうなだれていた俺にメルが声を掛けてくる。


「カナデはまだ体調良くなってないから、無理せず待機してて!! 私がズバッと追い返して来るよ!! 」


 そう言って、ウリエルを装備したまま部屋を飛び出していってしまった。

 突然の展開についていけない。

 神姫。ゲームと同じ名称のロボット。異世界。

 俺よりも小さな女の子が闘いの場に出ているのに、追いかける事ができてない現実。


 体調は万全になっている。ベットに横になっているが、もう元気になっているのに……

 今の状況にに怖じ気づいているのだろう。ゲームでしか体験してない。下手したら死ぬ。そんな現実が俺自身を縛り付けているのだ。

 

「カナデさん!! 出撃可能ですか!? 」


 部屋に通信が流れる。

 緊張でじっとりと手に汗が広がっていく。

 口の中が乾いていくのを感じる。


「は、はい。行けます……」


 考えている事と違うことが口から出ていた。


「わかりました。体調は良さそうですね。そしたら、2番ハンガーへ向かってください。機体の調整は完了してます!! 」


「分かりました。どこまでやれるか分かりませんが頑張ります」


 そう答えてベッドから飛び出す。

 ARMEDの操縦は完璧だ。先の戦闘でも違和感なく操縦は出来ていた。問題はそこに生身の人間が搭乗していることなのだ。


「人を殺さず戦えるのか…… 設定ではコックピットは胸部にあり、エンジンはその後ろ。肩甲骨の間あたりにあったはずだ」


 走りながら、ARMEDをいかに戦闘不能にするかを考える。


「頭部を破壊するしかないか……」


 記憶の中を探して見つけた方法。それはゲーム内でも、一握りの人間しか出来ない方法だった。


____________________



「システムオールグリーン!! カナデ機発進出来ます!! 」



「了解です!! カナデ・アイハラ。ウォーリアー行きます!! 」



 射出カタパルトが動き出し、一気に身体にGがかかる。通路を抜け暗かった視界が一瞬真っ白になる。


 カタパルトから撃ち出された機体が、慣性に倣い少しずつ落ちていくのを感じた。


「これがリアルか……!! 」


 操縦桿を握る手に力を込め、手前に引き機体を上昇させる。


 クリアになった視界に広がるのは、真っ青な海と夏を思わせる入道雲が広がる青空だった。


「カナデさん。一週間ぶりに出撃ですが、問題ありませんか? 」


「大丈夫です。やる気しかありません。敵のマーカーは赤でいいんですよね? 」


 コックピットに乗ってからは、緊張はなくなっていた。今は高揚感でいっぱいだ。


「そうです。白は神姫になります。メルと相手勢力側の神姫の識別は、マーカー下の数字を見てください」


 視界の前面に映し出されているモニターの右下にレーダーマップがあり、そこに赤のマーカーが5つと青のマーカー3つ。そして白のマーカーが2つが映し出されていた。


「分かりました。神姫以外を狙えばいいんだな」


 識別方法に少しの不満を感じながらも、抗戦空域まで機体を走らす。


 搭乗機は【人型汎用機・ウォーリアー】


 NOPナイツ・オブ・プルガシオンでも基本的な機体の1つである。

 そのほかに獣型や天使型、奇形型や特殊なモチーフをもった機体など様々なロボットを扱えるのも人気の1つだった。


 俺はこの機体を使い、チームでは世界を獲った。しかし、個人戦は……。


「加勢に来ました!! 」


 嫌な記憶を隅に退け、味方に通信を繋げる。


「カナデか!! 出撃出来たんだな!! 敵機は天使型だ! 盾持ち3機・射撃1機・近接1機だ!

 神姫は大斧持ちの耐久高そうな子だ! 」


「分かりました。援護開始します」


 今回の小隊長は、金髪角刈りでマッチョ。肌は小麦色に焼けた大男。ライアン・マトンだった。

 声がデカく五月蠅いのだが、頼れる兄貴、って感じの男だ。乗る機体は俺と同じく【ウォーリアー】

 標準装備に、盾とハンマーを装備した防御型のチューンだ。


 そして、俺が使うウォーリアーはスナイパー仕様になっている。


 遠距離ライフル・ミサイルパック・振動刀・ハンドバルカン。基本装備のアサルトライフルが、遠距離ライフルに変更してあり、遠距離狙撃用に高感度バイザーが装備されている。


「敵機確認! 行きます!! 」


 レーダーから、敵機が俺の狙撃範囲内に入ったことを確認。機体を一気に高高度まで上昇させそのまま狙撃体勢座位をとる。


 ブースターの出力を落とし、重力落下に身を任せながら照準を合わせる。


「まずは1機」


 そう呟き、射撃トリガーを引く。


「なっ!!! 」


ドーーーンッ!!!!


 通常の狙撃範囲外、更に高高度からの狙撃に反応することが出来ず、後方で援護射撃をしていた機体の頭部が吹き飛ぶ。


「ナイスぅ!!  流石カナデちゃん! 相変わらずいい腕してるぅ! 」


 テンション高めに俺を褒めるのは、ミラ・ローシャル。

 金髪ロン毛の巨乳ギャルだ。

 彼女が乗るのは、城壁の様なフォルムをしていて、機体の両腕にはガントレットのようなハンマー型グローブを装備してるARMED。【クラッシャー】だ。


「好機だ! 一気に叩き込むぞ。」


「ジジイ! 了解! 」


 ライアンが突撃の指示を出す。

 それに合わせて前衛にいたミラが、盾を持った天使型ARMED【バックラー】に吶喊とっかん

 防御態勢を取るバックラーへ拳を叩き込んだ。


「そんな盾なんかじゃ意味ないよぉ-! 」


「ふざけるなぁぁぁぁあ!! 」


 敵のバックラーがクラッシャーの一撃を耐え、盾を構え直し突っ込んでくる。


 それをミラは、体勢を低くして避けアッパーを撃ち出し、盾を吹き飛ばした後連撃を叩き込む。3撃を叩き込んだ所で機体が爆発する。


「まだまだぁああ!! 」


 雄叫びを上げ2機めのバックラーに狙いをつけるミラ。それに合わせて、俺も同じ機体に狙いを合わせる。


「同じ戦法なぞ食らうか!! 」


 盾を下げ右手に握るハンマーでミラを迎撃しようとするバックラー。


「これでも、うぁぁぁぁあ!!」


 しかし、ハンマーへと撃ち込んだ、俺の一撃がそれを強制終了。

 続き2発目を頭部に打ち込み沈黙させる。


「カナデちゃん!! 私の獲物を取らないでよぉー」


「す、すいません」


「素直に謝らないでよ! 調子狂うなぁ…… 」


 ミラのからかいに真面目に対応しながら、次の目標を視界に捉える。


 その時だった。



 突如上空から、銃弾の雨が降り注いだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る