第2話 算数の宿題

せいじ君は両親を一気に失ったんだから、かなり辛いはずだ。6年生のお姉さんとして、私がしっかり優しくしてあげないと。

誰かに言われなくてもそう思った私は、とにかくお姉さんらしいことをすることにした。

「せいじ君。お勉強分からないとこあったら、教えてあげる!」

算数ドリルを机に広げ、ため息をついていたせいじ君の背中に話しかけた。突然でびっくりしたのか、肩がちょっとビクってなってからこっちを振り向いた。

「大丈夫だよ」

「ウソだあ。だってせいじ君、さっき大きなため息ついてたの聞いちゃったよ?」

「ああ、あれ」

言いにくいことがあるみたいに、少し考える時間があったあとに、せいじ君はぽつりと言った。

「問題数が多くて、」

「そうだよね!ドリルの問題っていっぱいあるから大変だよね。」

「こんな似たようなのを解くなんて時間の無駄だと思ってたから、ため息が出たんだと思う。」

「え?」

びっくりする私をよそに、せいじ君は筆算を3桁目から解きはじめた。落書きみたいな速さでどんどん書かれて行く数字も、外国の絵本に出てきそうなきれいな字だ。

……私も早く自分の宿題しよ。

せいじ君の隣の机に私も計算ドリルを広げた。今日の宿題は私の苦手な分数の計算だ。



ちょっと時間がかかったし、間違っているところもあったけど、丸つけまでしっかり終わった。隣のせいじ君は、まだドリルに鉛筆を走らせている。

「せいじ君。どこか難しいところあったの?教えよっか!」

「大丈夫。このページもうちょっとで終わるから。」

「じゃあ終わったら丸つけしてあげる!」

「うん。」

返事をしながら最後の問題を解き終えたせいじ君は、算数ドリルを私の机においた。

あんなに早く解いていたから、けっこう間違っているかもしれない。そう思ったけれど、間違いなんか一個も出てこなかった。2ページ目に行っても、3ページ目に行っても、私の手は丸ばっかり書いていた。

「あれ?」

筆算のページが終わって、かけ算のページになった。さっきまでのページと同じように、せいじ君の字がならんでいる。だけど。

「せいじ君。宿題の量、多くない?」

筆算のところだけでも、1日でやる宿題にしては多かったと思う。そのうえかけ算もあるんだと、せいじ君はできるかもしれないけど、ほかの2年生には多すぎる気がする。

「宿題は1ページ目のとこ。ひまだったから、進めるところまでやった。」

「え、そうだったの!?」

だから多かったんだ。せいじ君の担任の先生もきっと驚くだろうな。

「せいじ君ってすごいね。」

丸つけの終わったページは全部満点で、まだ丸つけをしていないかけ算のページも、見た感じでは合っていそうだ。

「そうだ、花丸つけてあげる!」

とっておきの、輪が五重くらいになっている花丸を書いて、せいじ君にドリルを返してあげた。

花丸を見つめるせいじ君の目はいつも通りだったけれど、ほっぺが走った後みたいにちょっと赤くなっていて、うれしそうだった。

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