「Dr-1」との出会い-5 家を建てる

 家を建てようとする時に困る事がひとつ。どうやって家を建てたらいいのだろう。

 当然、家なんか建築すればいいのだが、僕もカディナも魔法使いであって、建築のノウハウは無い。二人で力を合わせても、どのくらい時間がかかるか…


 いつの間にか近くにガイドがいた。彼女の方を向いて助けを求める。


「建築が出来ずにお困りですか?そんな時は魔法制作モードで魔法を作りましょう。魔法制作モードでは魔法の名前、効果、発生条件を……」


 ワープの時と同じ説明を始めた。プレイヤーが困っている事を読み取る事は出来るのだが、答えはテンプレートなのだろう。思わず笑みが溢れる。


 僕は、再び魔法制作モードを開き、新規作成のボタンを押した。

 魔法の名前を「ビルド」とし、効果を「建材の前で魔法を唱える事で、詠唱者の思い通りの家を建てられる」とした。上級魔法とし、詠唱できる人々を限らせた。世界有数の詠唱者(つまり僕とカディナだ)は、建材が未加工のままでも唱えられる、と設定した。


「ねえ、さっきから何をやっているの?」


 不意にカディナに呼び止められた。これはまずいことかもしれない。


 第一、僕の空想世界では、魔法は古代からあるものだ、というふうな設定になっている。実は僕が作っていると知られたら興ざめ、いや、不信感を持たれるかもしれない。なんとかこの事実を隠さなければ…


「あはは、ちょっと魔法を思い出しているんだ、確か自分の思い通りに建物を作れる魔法があったはずだからさ」

「そんなのあったっけ?!」


 カディナが急に食いついてきた。僕と急接近する。彼女の長い髪が、フワっと広がると同時に、いい匂いが周りに充満する。


「え、えっと、『ビルド』って魔法なんだ。建てたい物を思い浮かべた状態で、建材が近くにあれば、楽に建物を作る事が出来るっていう…」


 近くに女性が来る、と言った経験が今まで無かったのと、何とかごまかさなければという危惧から、少し声が上ずってしまう。


「へえ、そんな魔法があったんですか!早速やってみましょうよ!」


 そういうと、カディナは興奮気味に離れていった。


「ここがいいかなあ、でもここだとちょっと…」


 うんうん唸りながら、どこに何を建てようかと吟味しているようだ。

 今気づいたが、先ほど横にガイドがいて、話をしていたが、カディナは一言もそれについて言及しなかった。認識阻害の機能でもあるのだろうか。疑問に思いつつ、ガイドの方を振り向く。


「キャラクターは、ガイドが話した事を認識することはありません。安心して疑問点をおっしゃってください」


 僕の予想は当たっていたようだ。いつでもどこでも、キャラクターにバレること無く、この「Dr-1」についての疑問を聞けるということだろう。一安心だ。


「啓太くーん!これから家を建てますよ~!」


 大きな声でカディナが僕を呼ぶ。いよいよ「ビルド」の効果を目の前で見られるということだ。僕は急いでカディナの元へ向かった。

 カディナの横へ向かい、魔法の唱え方をもう一度詳しく説明する。


 カディナが魔法を唱えだした。カディナの周りが赤い光で満たされ、同時に周りの木々が揺れだし、スポンと抜ける。抜けた木はバラバラに分解され、太い木は大黒柱になり、細い木や、細い枝や、木片は再び圧縮され板になった。


 下からどんどん家が組み上がっていく。川に面した場所には水車が出来て、そこにも小屋が建った。家の前の土は勝手に耕されて畑になった。玄関と、その通り道のみ草が残され、その道に突き当る川には丸い橋が掛った。


 赤い光が消えかかる。カディナは息が切れていた。ハアハアと肩で呼吸する中、僕の方を見て、


「この魔法、凄いですね!」


 と言ってくれた。僕が褒められるような話では無いと思うが、とにかく彼女は僕の脳内で暮らしていた時から何でも褒めてくれるような人だったのだ。


「僕も使う機会無かったから初めて見たけど、凄い魔法だなあ」


魔法に感心しつつ、カディナの家を見る。


 木がすっぽ抜けて更地になった場所に家が建った。切妻式の大きな屋根、家は一階建てだが、そこそこ広い作りになっている。都会でこの大きさの建物を見たら金持ちだろうと思うほどある。離れは水車小屋になっていて、水車がゴトンゴトンと音を鳴らしている。


 昔、エネルギーを魔力に変換する機能という物を考えたことがあった。食料や、魔力薬からも勿論調達できるが、水車や風車と言った物からも、同じように魔力に変換する事が出来るのだ。また、鉱石に魔力を貯めておく事が出来て(鉱石の名前は決めていなかったが)、いざという時に取り出す事ができたりもする。

 薬のガブ飲みは体にとっての負担が大きそうだったので考えた設定だったのだが、それがまたカディナの家に反映されたと言うことで、少し感慨を覚えた。



 恐らく水車は魔力を回復するための装置なのだろう。空きスペースは畑になっていて、カディナの大好きな花や、野菜を育てるにはちょうどいい場所だろう。


「疲れたなあ」

「しばらく休んだら?」


 カディナの体には、相当な負担が掛かっているはずだった。一仕事を終えた後は、しばらく休むべきだろう。


「僕も街とか作らなきゃいけないし」


 別荘をいくら作った所で、街が無ければどうにもならないのだ。カディナの家にも窓っぽい枠こそあれど、肝心のガラスが無いので外気が流れてきてしまっている。


「じゃあ休んでますね」

「また今度ね、それじゃ」


僕は再びワープ魔法を使い、先ほどの場所に戻った。

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VR時代の新しい空想 廃界幻夢 @haikyo

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