第7話 マーケット

 マーケットに行くときにガルト様に渡されたお金を見て、私は考えた。

 ガルト様は、どうやってお金を稼いでいるのだろうか、と。

 率直に疑問をぶつけると、ガルト様が私に教えてくれる、ということになった。

「マーケットで払う為のお金を手に入れたいのなら、また人間界に行くしかないな」

 得意げな表情で言うガルト様に、思わず私も笑みがこぼれた。

 でも、人間界に行って、どうやってお金を稼ぐのだろう……!


 場所は変わって、魔界のマーケット。

 夜の魔界のマーケットはヴァンパイアや、悪魔たちで賑わっていた。

 ガルト様は、私を気にする様子もなく、ずんずんと悪魔たちを割って進んで行く。他のヴァンパイアにぶつかっても、謝る気は微塵も無い。


 そんな様子で5分くらい歩いたところだろうか。ここだ、と言いながらガルト様が指を指す方向を見ると、そこには壁に掛けられた掲示板のようなものがあった。何枚もの紙やら看板やらが掛かっていた。

 掲示板の隣には女の悪魔がいて、案内役というような様子だった。

 壁に掛けられたものを見ると、そこには血1瓶や、ネックレス、などと書いてあった。

「これって……」

 私がつぶやくとガルト様はああ、と言った。

「ここに書いてあるものを人間から奪ってくるといい報酬がもらえるのだ。ここに書いて無くてもお金と交換はしてくれるが、ここに書いてあるものは人間グッズコレクターが高く買ってくれるのだ」

 なるほど、と思った。そうやってお金を稼いでいたのか。確かに1人で外に出る、と言っていたことは何度かあった。もしかしたら、その時にガルト様はここに来ていたのかもしれない。

「人間の血を集めるときは一番簡単だ。血を吸って、この瓶の中に入れるのだ」

 そう言って、ガルト様は掲示板の近くにある机の上から、瓶を取った。

 瓶はそれ程大きいものではなくて、大量に血を入れる必要もなさそうだった。多分口いっぱいに血を含めば1度でこの瓶はいっぱいになるだろう。ヴァンパイアには向いたお仕事だ。少し問題なのは、口に含んだ人間の血を、ちゃんと飲み込まないで我慢できるか、というところだが……まぁ少しだから我慢しよう。その後に存分に飲めばいいのだから。


 紙をよくよく見ると依頼者の名前が書いてあった。この依頼者も人間グッズコレクターというものなのだろうか。ガルト様に尋ねると、ガルト様は首を横に振った。

「彼はヴァンパイアだが、あまりに酷すぎるヴァンパイアの病気で、人間界へ行くほどの体力が無い。だからこうして掲示板で人間の血を集めているのだ」

「そうなのですね」

 ヴァンパイアにも病気あったのですね、と聞くと、どうやら最近のことらしかった。死ぬことはないらしいが、体力を酷く奪う病気のようだった。

 たしかに、人間界で人間の血を吸うのは厳しいかもしれない。素早く動いたり、飛んだりしないといけないのだから。

「ま、悪い血でも飲んだのだろう。放っておけばそのうち治る」

 ガルト様もそれ程気にしている様子ではなかった。


「そんなことより、早く人間界に行くぞ。ここからも行けるのだ」

 そう言ってガルト様は扉の前まで私を連れて行った。ガルト様がその扉を開けるとそこには深い闇がつながっていた。

「飛び降りるぞ。いつもと同じだ」

「はい!」

 どうしてだろう、いつもと同じことをするはずなのに、緊張する……! 手足が震える。息が荒い。

「ほら、行くぞ!」

 先に飛び降りたガルト様を見て、慌てた私は足を滑らせてしまった。

「あっ!」

 羽が上手く動かない。私の体はそのまままっすぐ下へ落ちていく。

 怖い。恐怖に目を固く閉じると強い風が背中に打ち付けるのを感じた。


 ドサッ――

 全身を地面に打った、そう思った。


 だけど、体は痛くなかった。


「ロゼ、大丈夫か」

 目を開けると、ガルト様が私のことを抱え込んだまま、空を飛んでいるのが分かった。

「ガルト様――」

「大事な仲間は助けるに決まっているだろ」

 そうぶっきらぼうに告げるガルト様。そっぽを向いたその頬が赤いのは気のせいだろうか。


「ありがとう……ございます。ガルト様」


 その優しさに包まれるこの瞬間が大好き。私、ガルト様に仕えていて本当に良かった。


 さすがは私の、ガルト様。

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魔界人妖記 てんちゃけん @tenchaken

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