Ⅱ
まだ、太陽がしっかりと昇りきっていない午前六時過ぎ。辺りの空気は冷たく、吐く息がうっすらと白く見えた。
「何で、私がこんな時間に呼び出されてるわけ?」
ブツブツと文句を言いながら、私はかなり不機嫌な表情を隠しもせずに見せていた。
私……
しかも、今日は休みのつもりだったから、心行くまで寝倒そうと考えていたのに。そんな事まで顔に出ていたのか、呼び出した側の人間ー
「室長様を呼び出してってお考えでしょうけどね?室長も何も、対策室は上條さん、あなただけじゃないですか。メンバー。」
と、さも来るのが当然だというように言った。
そうなのだ。対策室とはいうものの、室長件メンバー件雑用係。つまり、結局のところ、あってもなくても困らない部署なのだ。
しかしながら、これはこれで国の決めた事。指定された都市の警察機関には必ず、「人外被害対策室」を設置するよう義務付けられてから、どれくらい経っただろうか。
十数年前、ある地域で多数の死者が出る出来事があった。「出来事」と言ったのは、これが果たして事件なのか事故なのか、他殺なのか自殺なのか、結局のところ判らなかったからだ。対策室が出来たのは、それ以降の事だった。
そんな事を思い出していたら、横から朝比奈が、
「まだ、寝てるんですか?嫌みをを言われるのを覚悟で呼び出したんですから、さっさと見てください。こっちだって、一日ずっとあなたに何か言われるのが仕事な訳ではありませんから。」
と、言った。
今の発言は、おかしい。嫌みを言われているのは私の方のような気がする。
ブルーシートの上に、女性が横たわっている。これが、例えばベッドの上に横になっていたとするならば、ただ単に眠っているとしか思えないような姿。
そんなに顔色が悪いわけでも、口の色が目立って悪いわけでもない。ただ、胸部も腹部も、かすかな上下運動すらしていない。
呼吸をしていない。間違いなく遺体なのだが、ぱっと見目立った外傷もなく、見た目だけではどうやって亡くなったのか判らない。
「キレイすぎるね。どれくらい経ってるのかな……」
私は、そばにいた鑑識に聞いた。
「は?あー……ご苦労様です。キレイ……ね。表は、ですがね。」
鑑識は、何か口を濁すように言った。
表は?どういう事だろう……意味が判らない。すると、今度は鑑識から声をかけてきた。
「見ますか?見ますよね?見せますね。」
なんともクドイ口調で言い、もう一人人を呼んできたかと思うと「せーの!」と、女性をうつ伏せにした。
!?
何これ……どうやったら、こうなるの?この体勢で。
「大変だったんですよ。どういう仕組みかは知りませんがね?……剥がすのに。」鑑識は、言う。
彼女の……遺体の背中は焼けただれ、皮膚はなくなり、肉は真っ黒だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます