第21話 いざ選挙へ


「死の組」と言われて思い浮かべるのは何だろうか。普通であれば、ワールドカップなどのグループリーグで強豪国が同じ顔合わせとなってしまうことを言う。

 この学校の死の組は例えば、韮澤と朱堂と武田寅之助とが、一様に顔を見合わせる事を言うのかもしれないが、別にそんなオールスターが揃ったわけではない。そんな事は無論無理に決まっている。という起こってはならない。そんなこと。

 死の組は文字通り亡霊のクラスだ。先週まではなかった。つまりADが死んだ次の日から学校は拡張されて、それぞれの階の廊下が一クラス分伸びた。そしてその伸びた分のクラスの生徒達はみんなお化けなんだ。

「正気の沙汰とは思えない。朱堂よりももっとやばい奴がこの世界の作者になったに違いない」

 俺と竹下通の共通見解はまさにそれであった。常軌を逸したこの設定は度肝を抜く。

「一年死の組の担任知ってる?」

 隣のナナちゃんは授業中にも必勝ハチマキを巻きながらそんな事を尋ねてきたので俺はすかさず「知らないよ、そんなこと」と言えば帰ってきた答えは、

「ADが担任の先生なんだよ」

 ということだった。

 もちろん次の休み時間に俺は教室に行ったわけだ。死の組の。教室の中は火の玉でキャッチボールしてたり、呪いノートに名前を殴り書きしていたり、キョンシー中心にババ抜きしていたりと、いたって自由にやっていたけど、たしかに疲れた背中で黒板を消すADの姿がそこにはあった。俺は声を掛ける事を想わずためらったわけだが、直にすぐ協力を仰ぐことになる。この際なんで死んだADが早々に担任なんてやってるんだというツッコみはナシにする。

 益子焼派は、幽霊たちの票をまとめようと本腰を入れたからだ。もちろん使い走りは俺なのである。



 エントリーナンバー⑥  キーマンがやってくる


 ナナの作戦会議終了後に、こそこそと益子焼陣営の作戦会議に参加しなければならない俺の苦労をどうかあなた方だけは察してほしい。それに俺は未だに天文部からちょいちょい嫌がらせを受けるし、旧青年隊からはいきなり神輿に担がれたりして、慌ただしい日々を送っている。最近では死の組との交渉事に追われ、家に帰る時には何匹もの霊が憑りついているなんてことも俺の中であるあるになった。

 作者が変わったが、物語の本筋を変える気はさらさらないらしい。消しゴムを使って俺みたいな雑魚キャラは物語からすぐさま抹消されるということも考えられたが見渡すところ、俺を含めて誰も消えていない。

 この物語はどこに向かっているのだろう。それはまさしく宇宙はどこかやってきてどこに行くのかと言う永遠の問いに等しい。つまり答えは未だ出そうにない。

「死の組、三学年で合わせて一二〇票。天文部の票を半分に割れたとして、二百票。過半数にはあと一〇〇票は必要だ」 

 竹下通はコンピュータ室にある古びたボードを使って説明をした。美頭部長と、マネージャーだという紫さんは、メガネをきらりと光らせて選挙戦終盤に差し掛かった現状に目を通している。

「ちなみに死の組の票は有効票としてカウントされるんだよね?」

 それが不安でならない。あいつらは生徒といっていいのかも定かではないのだ。

「幽霊も教育を受ける権利がある。あまり彼らを刺激する発言はよしたまえ」

 一美頭さんは周りを確認しながそう声をひそめた。たしかにあいつらは平気で壁をすり抜けてくる。

「コンピューター部も益子焼さんに投票する準備はできております」

 マネージャーの紫は平然という。ナナとの約束を平気で反故にする。恐ろしい奴らだ。

「まあ、益子焼さんは信頼も厚い人だから俺達が友人票もいくらかあるとしても、やはりあと一つぐらい大きな団体の支援が必要だ」

 その発言に一年達がカタカタとキーボードを叩く。本当にコンピューターの中にその答えはあるのかどうか知らんが、あいつらは何やら忙しそうに指を動かしている。

 そもそも天文部の票を二等分するという事自体がかなり絵空事のように思えて俺には仕方ないのだけど竹下通は絶対の自信があるらしい。その自信がどこから来るのかは当然分からない。

「生物部は支援に回ってくれるとして、やはり演劇部だ。相当の根回しをせねばならない」

「演劇部ですか……手ごわいですね」

「体育館でもやると言えばいいんだよ。演劇部は自転車置き場の草むらで練習をしているんだからな」

「体育館で練習しているバスケ部、バレー部、、バドミントン部はどうするんですか」

「そりゃ、草むらでやってもらうしかないな」

「なるほど」

「いや草むらってあんな狭い所で三つの部活が共存できるわけないですよ」

 こいつらの話を聞いているとひやひやする。勝つためには手段を選ばないというが、あまりに策が非道だ。

「でもすべてのみんなが満足する政策なんてな、むしろ怪しいんだよ」

 一美頭さんは一年から渡された資料を眺めながらそう言った。

 さて今日は選挙の前日であるということを述べる事を忘れた。ナナは放課後巨大メガホンで相変わらず「韮澤の生け血をすする」という公約を叫びながら支持者に最後の訴えをしていた。屋上でいつもはドンと構えている韮澤もこの期間は護衛をつけて早く家に蹴っているときく。そりゃ恐いだろう。天文部の支持を取り付けている片桐幕は最後、屋上から万札をばらまくという大博打にでたが、あれを配ったのは益子焼さんだという情報操作を紫がしたらしく前日になって一気に益子焼旋風が吹きだした。

 当の益子焼さんは相変わらずゴミ捨て場の前で夜空を眺める日々。この人がかつてたった一人だけで天文部の巨大権力に立ち向かったとは今の姿では到底考えられなかった。

 選挙当日、六限目にみんな体育館に集められて、候補者の最終演説を各自繰り広げてから、投票に移った。死の組が増えたことで椅子がたらないと先生達はぼやいていたが、AD先生が、我々は浮いているので大丈夫ですと、名言を吐き捨てて以来、混乱と言う混乱は起きていない。


 結果を言う。

 もちろん選挙結果だ。

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