第10話 そして、その日はやってくる
翌日から、さらなる特訓が始まった。朝、特訓が開始してから、夕方、閉館するまでの休憩なしのぶっ通し。それを連続で五日間繰り返す。なかなかのブラック企業だとも取られかねないのかもしれない。
だが、本来、長期間ゆっくりと経験を積んで、なることのできるFCRBのプレイヤーに、一週間やそこらでなろうとしているのだから、超短期超集中で行わなければ決して届かないのだ。
誰にだって、文句は言えないだろう。
そして、肝心の内容は予習と復習それあるのみ。究極的に言えば、FCRBでの強さはキャラクターの強さに依存してしまう。
もちろん、それなりの工夫があるけれど、キャラクターを熟知して、真になりきれたものが勝つのが基本だ。だから瀬奈は、ルーシアになりきった。
――いや、ルーシア・アイル・エレイネになった。
その言動、その一挙手一投足を、作中のキャラクターになるように、染まるように、瀬奈は何度も繰り返した。
そして――。
時間はあっという間に過ぎ去った。
自宅アパートメントを早朝出た瀬奈は、間に合うように余裕をもって、部屋を出た。一週間毎日のように通った道を瀬奈はいつものように歩く。
凛とした顔立ちは、物語の登場人物のようにキリリとしていて、人目を引くほどに美しかった。
最寄り駅に歩く歩道を使って向かい、定刻通りに来たモノレールに乗り込む。午前中でも昼間に近いから、人の数は
(……もう、テストかー。トントン拍子で進んでいってるなー)
瀬奈は腕を伸ばす。着こなしたお洒落で動きやすいアクティブな服が、
(……でも、やらなきゃ)
意志は確固たるものになっていた。会社の命令、先生の
モノレールはエリアセントラルの駅に到着した。
座席から立ち上がって、扉を抜ける。駅から歩み、巨大なスタジアムが姿を見せる。スタジアムの入り口にはラフスタイルの青年の姿が、見えた。
「……香月さん、おはようございます」
「先生、おはようございます」
年下の青年に、どこか距離感のある言い方で挨拶する。
「いよいよ、ですね。……心の準備は大丈夫ですか?」
「……緊張はしていますが、やれるだけはやってきます」
青年の問いに、迷い交じりに答えた。
「大丈夫です。きっと、うまくいきます」
定型文みたいな言葉で、空は応援を寄せた。
「……そうですか。先輩に言ってもらえたなら、そうなのかもしれないですね」
これもまた、定型文みたいな返し。それでも、心に響くものはあった。
「では……頑張って来てください」
軽く空は瀬奈の肩を叩き、瀬奈の背中をポンと押した。瀬奈は力に乗せられ、少し前に駆けた。
「……おっとっと。激励、ありがとうございます。じゃあ、行ってきます」
瀬奈は小さく一礼をして、スタジアムの中へ消えた。
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