窮地

「その右手貰うよ!」


カノンが斧を振りかぶりながら迫ってくる。

手に持つ木剣では斧の刃に触れただけでいなす間も無く切られてしまうのが目に見えている。

紙一重で真横に飛び出す。

振り返ると自分が先程までいた場所が無残な姿になっている。


「おいおい、冗談じゃないって!」


あの斧と打ち合えるだけに剣があればどうにかできる自信がある。

だが、こんな状況でしかも周りは植物に囲まれて脱出不可能。


「なにが目的なんだっつーの!」

「だから言ってるじゃん。その右手、正確には誓約の紋章が欲しいわけよ。大人しく渡してくれない?」


紋章が欲しいというのはどういうことだろうか。

これは自分が課したアイリへの誓いの証だ。

くれてやるわけにはいかない。


「断る」

「じゃあ切り落とす!」


再び襲いかかってくるカノン。

最早木剣では太刀打ち出来るはずもないのは明らかだ。

であれば持っていても無駄だ。

そう思ったら行動に移すのは早かった。

木剣をカノンの顔目掛けて投げつける。

しかし、それも難なく斧で砕かれてしまった。

だが、木剣を避けるためにワンモーションを費やしてくれたおかげでこちらもカノンの懐に潜りこめた。

武器がなければ体術だ。

利き手の右の拳に力を込める。

すると急にカノンが青ざめた顔をして後方向に遠ざかった。


下がった理由はわからないが、

形勢が不利な状態なのは変わらない。

どうにかしてこの植物の檻から脱出しなければ。


「いやー、びっくりした。あそこで使われたら流石にやばかったわ」

「使う?」

「え、もしかしてそれの使い方知らないの?」


彼女のいうそれとはこの誓約の紋章の事だろうか。

確かにこの誓約というのは賭ける物によって、様々な恩恵を誓約をした者、すなわち誓約者にもたらすと言われている。

だが実際はそんな恩恵はないという事がかなり昔に証明されている。

しかし、誓約を破った際にはその代償を払わなければならないため、国と国の交渉の場であったり、何かしらの契約を交わす際の信頼を得る行為としてくらいにしか使われない。


「はあ、ビビって損した。じゃあ心置きなくぶった斬るよ!」


万事休すかと思った矢先。

カノンが前に飛び出した瞬間。

カノンの後ろ側にある植物の壁が爆発した。


「な!?」


舞い上がる煙の中から出てきたのは銀髪の髪の少女。

白いワンピースは汚れもなく、輝いてすら見える。


「どうやらまだ生きてるようですね?」


ギリギリの状況で助けに来てくれたのは僕の彼女だった。

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