右手

「前々回の優勝者の次は前回の優勝者とかハードすぎでしょ」

「その割には嬉しそうだね」


決勝戦の開始前。

会場の盛り上がりはピークに達していた。

カノンという少女がどれくらいの実力なのかは先程の準決勝でわかった。

首元に剣先を突きつけて相手の降参を誘う勝ち方はこの少女にはできない。

僕よりスピードのあるアルフレッドが出来なければ僕には無理だろう。


「そりゃあこんなワクワクすること最近無かったからさ。溜まってるんだよねー」


笑いながらそういうカノン。

しかし、急に真面目な顔をして僕の右手を指差した。


「ところで、その右手どうしたの?怪我してるようだったらやりにくいんだけど」


右手には誓約の紋章が刻まれている。

最初はあまり気にならなかったが、

時間が経つにつれてヒリヒリとしてきたのでので包帯を巻いていた。


「ファッションみたいなもんだから気にしないでよ」

「ふうん、まあいいや」


審判が開始の合図を告げる。

同時に飛び出す。

木剣と木斧がぶつかり合う。

まともに木斧とぶつかり合うと先程のアルフレッドの槍のように砕け散る可能性がある。

カノンの攻撃は全ていなすか避けるのがベストだ。


「はああ!」


カノンが斧を大振りした。

明らかな隙だ。

念には念を入れて、一度かわせる速度でカノンの肩辺りに向けて突きを放つ。

先ほどのアルフレッドとの戦いを見ていた限り、これは避けれる。

本命はこの後の攻撃だ。


「くっ」


だが、カノンはこの突きを避けなかった。

そして体を回転させて斧を下から上振り上げた。

狙いは武器を持つ右手だ。

タイミング的にかわすことができない。

しかしその攻撃は右手の甲をかすめただけだった。

だが包帯が破れ、手の甲に刻まれた誓約の紋章があらわになる。

追撃をくらう前に距離を取る。


「おいおい、今わざと外したんじゃないか」


すると急にカノンの雰囲気が変わった。

これはそうだ。

獲物を見つけた猛獣のような殺気だ。


「ユキア!」


すると地面から植物のツルのような物が出てきて自分とカノンの周囲を囲む。

観客席と完全に隔離され、カノンと二人だけの空間になる。

カノンは地面に腕を突っ込んだ。

よく見ると魔法陣のようなもののなかに手を入れている。

手を引き抜くと変わった形の斧が現れた。

斧の刃側面部分に宝石のようなものが埋め込められている。


「おいおい、嘘でしょ?」


植物のツルで囲まれているため、観客席の様子がわからないが、悲鳴やら叫び声が聞こえる。

状況の展開についていけない。


「これ君の仕業?」


けどこれがカノンの仕業だとして今自分が持つ武器木剣のみ。

あのごつい斧をもつ相手にどう戦えばいいのだろうか。


「本気でやばいかも」


冷や汗が止まらない。

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