準決勝2/2

審判が試合開始の合図を出す。

アルフレッドはこれまでの試合全てにおいて、10秒以内で決着をつけてきた。

しかしその記録もこの準決勝で途絶えた。


アルフレッドが相手の喉元に槍先を当てて降参を促すパターンでこれまで勝利してきたのだが、

カノンはそれを後ろに仰け反り躱す。

そのまま勢いをつけてバク転の要領で槍を弾こうとするが、アルフレッドの手を離れるギリギリのところで槍を持ち直した。


「あっぶね!」

「ちぃ!」


カノンの武器は木斧。

速さがない分木製とはいえ一撃の威力が剣や槍に比べると高い。

しかし、前年度優勝者の僕と準優勝者だったアルフレッドがスピード型の試合をするため、速さを犠牲にする斧は今大会ではあまり使われていない。


槍先が上を向いているチャンスを逃さず、カノンが斧を勢いよく水平に振り付ける。

アルフレッドはすぐさま槍を盾に見立てそれ一撃を防ごうとした。

しかし、何か感じたのだろう。

その一撃をガードをしようとせず体を回転させながら受け流した。


「アルフレッドさん、今なんで受け止めなかったのですかね?」

「多分受け止めたら槍が折れると思ったんじゃないかな」


アイリの疑問に推測だけど答える。

しかし、一度受け止める姿勢を取ってから急に受け流すなんて、それくらいの理由しか思いつかない。

「木製の武器で木製の武器を壊せるもの何ですか?」

「うーん、可能といえば可能だろうけど、狙っては結構難しいと思うよ」


そんな話をしているとアルフレッドとカノンは互いに距離を取っていた。

先に動き出したのはアルフレッドだ。

カノンの斧を持つ右手の甲をめがけて鋭い突きを放つ。

その突きは確かに命中した。

だが持っていたはずの斧がいつのまにか左手に持ち変えられていて、上から渾身の力で斧が振り落とされた。

カノンの懐に入ってしまった以上躱せる可能性は低い。

すぐさま槍の太刀打ちの部分で防ごうとする。


「はああああああ!」


カノンの放った一撃は太刀打ちとぶつかる。

ビキビキとアルフレッドの持つ槍が悲鳴を上げる。

なんとかギリギリのところで防ぎきったアルフレッドは一度カノンと距離をとった。

しかし、槍を一瞥して片手を挙げた。


「降参」


会場が一瞬静まり返る。

そして、次の瞬間大歓声が巻き起こる。

優勝候補を女の子が倒したのだから当然だ。


「ほら負けだ負けだ。一つだけ言うこと聞いてやるよ」

「じゃあ次に戦うことになるハルト・インクラートの右手に包帯巻いてるのが気になってたんだけどあれ怪我してるの?」

「ハルト?悪い、それは俺も知らねーや。けど巻き出したのもここ数日だった気がするな」

「ふうん。いいや、ありがと」


アルフレッドはこちらに視線を送り、肩をすくめるようなポーズを大袈裟にとり、手に持っていた槍を下から上に無造作に投げると地面についた瞬間、槍が粉々に砕け散った。


「あのお嬢ちゃん、おっそろしいパワーだな」

「まともに生身に受けたら木製とはいえ骨が砕けそうだねあれ」

「ハルト」

「えっなに心配してくれるのアイリさん?」

「頑張って」


淡々という彼女の声援。

しかし、これほど心強いものは他にはない。


「任せんさい!」


ドンと胸を叩く。

それじゃあ、パパッと優勝してこようか。

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