第28話 終焉の地にて

 空船の上にいるチユキの目の前でモードガルが黒い炎に巻かれて小さくなっていく。

 冥王の最後であった。

 これでほぼ決着はついたと言って良いだろう。

 冥王の眷属達が慌てふためいているのがわかる。


「そんな!? 御父様が!!?」

「嘘よ!!! 信じられない!!!」


 空中でシロネと戦っていたジャヒダラナとシュウシュトゥが叫ぶと翼を広げ逃げ出す。


「待ちなさい!!!」


 シロネは追いかけようとするが、それは突然現れた火の壁によって阻まれる。


「くく、申し訳ございませんが、さすがにそれは阻止させてもらいましょう」


 シロネの前に先端に燭台が付いた杖を持った者が現れる。


「獄炎公ビフロン!! どういうつもりだ!!?」


 ジャヒダラナが叫ぶ。


「何ちょっとした。情けですよ。この間に逃げるのですね」

「くっ、礼は言わないぞ!!!」


 ジャヒダラナ達は逃げて行く。

 シロネはビフロンに対し剣を構える。

 他の邪神達も集まっている。

 さすがに全員と戦うのはシロネだけではきついだろう。

 チユキも動くために杖を取る。

 しかし、ビフロンとその周りにいる邪神達はゆっくりとだがシロネから距離を取る。

 

「戦うつもりはありませんよ。さすがに光の勇者にアルフォスや天使達を相手には勝てませんからね。私も逃げさせてもらいますよ」


 ビフロンはそう言うと突然その姿が揺らぎ始める。

 そして、そのまま陽炎のように消える。

 他の邪神達も消えている。

 どうやら逃げたようだ。

 冥王の眷属と邪神達が去った事で残っているのはレイジにチユキ達、レーナやアルフォスのエリオスの軍勢。

 そして、暗黒騎士の彼らだ。

 

「これで、終わったわね。まあ、特に何もしてないけど……。見ているだけで疲れたわ帰りましょう」


 レーナはチユキ達を見て言う。

 もっとも、実際に見ているのはコウキだけだ。

 かなり、コウキに入れ込んでいるようだ。

 もちろんその気持ちはチユキにもわかる。

 実際に綺麗な子であるコウキは。


「レーナ様。今なら暗黒騎士を討ち取れるのではないでしょうか? アルフォス様に光の勇者、それに我々がいれば可能です」


 突然レーナの側に天使がやって来てそう提案する。

 たしか、聖騎士団の一員だったはずだ。

 その言葉にチユキ達は眉を顰める。

 今ここにエリオスの軍勢が集まっていて、アルフォスにレイジやチユキ達もいる。

 全員でかかれば勝てそうな気もする。

 しかし、チユキ達は戦う気がないのでそれはないだろう。

 そもそも、全員でも勝てるとは限らない。


「はあ、愚かね貴方ね。勝てると思っているの? 彼に? それに良く見なさい」


 レーナは心底呆れて言う。

 視線の先に黒い空船がシロネの幼馴染である暗黒騎士へと近づいている。

 空船の周りにはワイバーンに乗った漆黒の騎士達がいる。


「あれはナルゴルの軍勢……」


 それを見た聖騎士達が呟く。


「そういう事よ。こちらか手を出すのは厳禁。もし、戦いが始まれば双方とも、かなりの被害になるわ」


 レーナは厳しく命令する。

 暗黒騎士は空船に乗り込むとそのまま去って行く。

 レーナの命令により、エリオスの軍勢はそれを黙って見守る。

 追いかけるのは難しいだろう。

 シロネが追いかけようとして、魔法の壁に阻まれているのが見える。

 あの白銀の髪の子の力だろう。

 また、会えると後で言ってあげようとチユキは思う。


「さて、アルフォスとレイジが戻ったら私達も戻りましょうか」


 レーナは周囲にそう言う。

 これで戦いは終わりであった。



 ワルキアから遠くはなれたアポフィスの離宮。

 その女王の間で蛇の女王ディアドナは報告を受ける。

 報告をしているのはビフロンだ。

 ビフロンは別に諜報のためにザシュススの元に行ったわけではない。

 仕える程に足る相手ならば従っても良いと思っていたようだ。

 しかし、ザシュススはそれを示せなかった。


「さすがのザシュスス殿も件の暗黒騎士が来ているとは思わなかったようですな。それが敗因です」


 ビフロンは首を振って言う。


「そうか、ザシュススの奴は負けたか。残念な事だ。折角封印を解いてやったのに……。報告してくれて礼を言うぞ、獄炎公よ」


 深い悲しみを浮かべてディアドナは首を振る。


「いえ、構いませんよ。面白いものが見る事ができましたから、それでは私はこれで……」


 ビフロンはそう言って背を向け部屋を出る。

 相変わらず食えない者だ。

 一応ディアドナの盟友ではなるが、腹の内はわからない。

 力はあるが、頼りにならない存在だ。

 だが、それが普通であった。

 ディアドナを盟主とする神々はただ利益があるから従っているだけにすぎない。

 ザルキシスもそうであった。


 「これで良い。ザルキシスは死に新たな冥王となったザシュススも消えた。邪魔者は消えてくれた。良くやったぞ、ザシュスス」


 ビフロンが去ったのを見てディアドナは笑う。

 そこには悲しみの表情はない。

 全てはディアドナの目論見通りであった。

 後々邪魔になるザルキシスの勢力を減らすためにザシュススを復活させて送り込んだのだ。

 滅ぼせるとは思っていなかった。

 ザルキシスの勢力を分断できれば良かったのである。

 だが、思った以上にザシュススは上手くやったようだ。自らが滅ぶ事も含めてだ。

 予定ではエリオスの奴らの次に滅ぼす予定であったが、順序が逆になった。

 それは仕方のない事である。


「さて、次はモデスだな……。そろそろ、行くとするか」


 ディアドナはそう言って移動する事にする。

 ザルキシスを失ったディアドナはモデスと和解し、同盟を結ぶ予定である。

 もちろん、それは偽りの盟約だ。

 ディアドナの計画は次の段階へと進もうとしていた。


 



 戦いが終わり、夜が更けた頃の事である。

 クロキとレーナ達が去った場所から少し離れた場所。

 地面を這いずる者がいる。

 這いずる者はザシュススである。

 四枚の翼は羽がなく、折られていて飛ぶ事はできない。

 足も失っているので、ウジ虫のように地を這うしかない。


「クソが……、この冥王が……。このままではすまさん」


 ザシュススは怒りの声を出す。

 体が燃やし尽くされる寸前に地中に逃れたのだ。

 そして、誰もがいなくなり、這い出してきたのである。

 誰もがザシュススが滅んだと思っているだろう。

 だが、ザシュススはこれで終わるつもりはない。

 必ず復活して復讐してやると思う。


「ふん、哀れなものだな。ザシュスス」


 ザシュススの目の前に突然何者かが現れる。

 白いローブに身を包んだ者。

 ザシュススはその気配に覚えがあった。


「ち、父上だと!!? 馬鹿なモードガルと融合したはずでは!!?」


 ザシュススは顔を上げて言う。 

 顔を隠しているが、その気配は間違いなく父であるザルキシスであった。

 

「あれは偽物だ。気付かなかっただろう。くくくく。全てはディアドナの目を欺くためよ」


 ザルキシスは笑う。


「父上……。俺をどうするつもりだ……」


 ザシュススは睨み上げて言う。


「どうもせんよ。息子よ。跡地を見に来てたまたまお前を見つけた。情けだ、少し生かしてやろう。失ったモードガルの代わりをせよ」


 ザルキシスは首を振る。

 モードガルを失った事は大きな損失であった。

 しかし、まだまだやれる事はある。


「さて、ディアドナに借りを返してやらねばなるまい。西大陸。奴の敵を目覚めさせる。そのための布石は打ってあるのよ」


 ザルキシスは笑う。

 西の大陸で新たな騒乱が起ころうとしていた。


 


 


 ★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 更新です。

 エピローグ1です。

 次回でこの章も終わりです。

 そして、ザルキシス。

 予定通り生きています。

 最後にハーパスと一戦やろうかなと思いましたが、ザシュススで終わりの方が良いかと思いやめました。

 


 次の章は西大陸が舞台。

 紅蓮の炎竜王とその眷属の竜人やリザードマンにジプシールと関わりのある獣神等が出てきます。

 



 

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