第26話 黒い炎の力
原初この世界には混沌の海ナルムしかなかった。
そんなこの世界に創造神エリオスが現れた。
エリオスは始まりの炎によって混沌の海を焼き、空間を作り、焼かれた混沌の海は固まり大地となり、全ての生命の源となった。
それが今の世界なのである。
混沌の海は世界の元であり、混沌の海は世界を造り変える力を持つ。
しかし、危険な力なのだ。
そのために深淵に封じられている。
だが、混沌の霊杯はその混沌の海を呼び出す能力を持つ。
呼び出された混沌の力を使えば強大な力を使用者に与える。
だけど、強大な力と引き換えに自身を別の何か変えてしまう。
それは肉体だけでなく、やがて精神も変わっていく。
力を得ても結局自分自身を失ってしまう。
そのため、混沌の力を使う者は普通はいない。
そんな中でザシュススはその混沌の力を自身に使わずにモードガルに使い、その力をモードガルから得る。
こうして、間接的に混沌の力を得る事で混沌に犯されずにいる。
モードガルはアンデッドの集合体であり、常に死者を補充する事でその存在を保っている。
これによりザシュススは無限の力を得た、……はずだった。
◆
「これで良いかな……」
暗黒騎士の姿になったクロキはモードガルの中心部の祭壇に魔剣を突き立て、黒い炎を出す。
混沌の力を消すには必ずしも黒い炎や魔剣を使う必要はない。
だが、生半可な魔法では簡単には消す事が出来ない。
そのため、モードガルの規模や力を考えると魔剣の力が必要であった。
黒い炎がモードガルを覆う。
クロキはモードガルが縮小していくのを感じていた。
「貴様-----!!!! どこから現れたああああああああ!!!!!」
ザシュススが怒声を発しならがクロキの元へと飛んでくる。
クロキは魔剣でザシュススの刃を受け流し避ける。
高速で移動してきたザシュススは体勢を崩しながら着地する。
「おっと……、危ないなあ。どこからと言われても普通に正面から入って来たよ」
クロキは本当の事を言う。
クロキが辿り着いた時、ザシュススはレイジやアルフォスと戦闘中であった。
そちらに気を取られていたため、容易にモードガルの中心部である王宮の祭壇へと辿り着けたのである。
(ザシュススの手下が他にいたのに誰にも気付かれなかったな……)
クロキは別に気配を消していたわけではない。
それなのに気付かれなかった。
それだけレイジとアルフォスの存在感が大きかったのだろうとクロキは予想する。
断じて自身の存在感が薄いわけではないと心の中で言い訳する。
「正面からだと、そんなはずはない。その漆黒の鎧。お前は一体何者だ?」
ザシュススはクロキを睨んで言う。
「冥王様!! その者は噂のナルゴルの暗黒騎士でございます!!」
「そうでございますでえ! 冥王様!!」
双頭のハゲワシ人であるアシャクが傍に来てザシュススに言う。
「暗黒騎士……。そうか、貴様があの噂の……。ふん、魔王もこのザシュススを危険視していると言う事か!! 相手にとって不足はない!! 貴様を倒してその首を魔王に送ってやる!!」
ザシュススは悔しそうに言うと四枚の翼を広げる。
「相手をするのは良いけど……、自分だけを気にして良いのかな」
クロキはやる気なさそうに言うと剣を下げる。
「何!? どういう意味だ!!?」
ザシュススは怒声を発する。
「こういう事に決まっているだろ」
「全く僕達を無視しないで欲しいね」
ザシュススの背後から声がする。
ザシュススが振り向くとそこにはレイジとアルフォスが武器を構えている。
「き、貴様らは!?」
ザシュススはレイジとアルフォスから距離を取る。
モードガルの力が弱まった事でレイジとアルフォスの拘束が解かれたのだ。
「俺を忘れてもらったら困るな」
「そうだね、今までの借りを返さないといけないからね」
レイジとアルフォスは不敵に笑う。
「クソがああああああああああ!!!! 上等だ!!!! 御前達を纏めて相手してやる!!!! 冥王の力をなめるんじゃねえぜ!!!!!!!!!!!」
ザシュススはそう言うと姿を変えて行く。
顔が獣のようになり、翼がより大きくなり、体も膨れ上がる。
今までとは違い本気でくるようだ。
クロキは剣を構えるのだった。
◆
ザシュススはその四枚の翼で炎の竜巻を次々に生み出す。
その力は凄まじく、遠く離れたレーナの空船にまで熱気が伝わってくる。
ザシュススの力は凄まじくクロキ、レイジ、アルフォス達を相手に負けずに戦っている。
「嘘……。レイ君達が押されているの?」
甲板から見ているサホコが信じられないという顔をする。
「違うよ、サホコさん。確かに相手は強いけど、押されているわけじゃないよ」
シロネは首を振る。
シロネの言う通りだとレーナは思う。
ザシュススは強い。
本気を出したらレイジやアルフォスと同格の強さだろう。
現にクロキ達と互角以上に戦っているように見える。
だが、そう見えるだけだ。
前の時のような余裕は感じられない。
必死さが伺える。
「シロネの言う通りでしょうね。そのうち、逆転するでしょうね」
レーナはそう言って冷静に戦局を見守る。
予想通り、ザシュススの最初の頃のような勢いはなくなっている。
レイジは光の上位精霊ベンヌを出し、ザシュススの瘴気を消している。
アルフォスは
ちなみにクロキは特にする事なく見ているだけだ。
クロキとしてはレイジとアルフォスがいるから影に徹するつもりだ。
クロキはどうもこういう時に引っ込んでしまうようであった。
(まあ、アルフォスとレイジがいればもう大丈夫そうだけど……。こういう所がクロキらしいわね)
レーナはクロキを見て微笑む。
レーナはアルフォスとレイジがザシュススに苦戦している時からクロキを見つけていた。
だから、慌てなかったのだ。
一番見落としてはいけないクロキの存在を見落としたそれがザシュススの敗因だ。
「おお、確かにそうっすね。逆転したっすよ」
「うん、これなら勝ちそうだね」
ナオとリノが歓声を上げる。
「そうね、このままならレイジ君達が勝つわ。だけど、それを周りが黙って見ているかしら?」
チユキが戦いの周りにいる冥王の眷属を見て言う。
「そうだね、その時は私が行くよ」
シロネは腰の剣に手を当てて言う。
「あの、自分も行きましょうか……」
レーナの隣で見ていたコウキが言う。
見ているだけでは嫌なようだ。
「コウキ。貴方が行く必要はないわ。貴方が行かなくても戦局は変わらないわ。ここで見ていなさい」
レーナはクロキ達を見て言う。
冥王の眷属以外の邪神は動くつもりがないようだ。
外から遠巻きに見ている。
もっとも、例え動いたとしても、クロキがいる限り勝敗は決まっている。
あの程度の邪神達が集まってもクロキには敵わない。
だから、レーナもまた動くつもりはない。
(だけど、このままザシュススが終わるかしら? 仮にも冥王を名乗る者が? まあ、それでも勝敗は変わらないでしょうけどね)
レーナは戦いを見てそう思うのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
今週体調を崩してしまいました。
ようやく涼しくなったと思ったら、暑かったりで嫌ですね。
皆様も体調に気をつけてください。
そろそろ、この章も終わりですね。
今回は短くまとめます。
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