第25話 貴方の家、燃えているわよ

 マゾフェチェの街の近くにアンデッドの群れがあふれ出している。

 死都モードガルが近づいた事により、瘴気が周囲に溢れているからだ。

 ゾンビやスケルトンのようなほとんどは下位のアンデッドであるが、モードガルにいた上位のアンデッドも姿を見せるようになった。

 特に幽鬼王スペクターロード幽鬼の騎士スペクターナイト骸骨百足スケルトンセンティピードは凶悪であり、普通の人間では対応できない。

 そのため、シロネと天使を中心とした軍勢で対抗する事になる。


「はあっ!!」


 シロネの剣が幽鬼の騎士スペクターナイト達を斬り裂く。

 幽鬼の騎士スペクターナイト達はシロネに対抗できず一瞬で消滅する。

 

「はあ、特に警戒する相手じゃないけど前に会った奴より少し強い感じがするわね……」


 シロネは消えた幽鬼の騎士スペクターナイトを見て言う。

 かなり状況は悪い。

 チユキが結界を張り瘴気を防いでいるおかげでマゾフェチェの街は守られている。

 もし結界がなければマゾフェチェの街は既に滅んでいるだろう。

 それぐらい濃密な瘴気があふれているのだ。

 これだけ濃密な瘴気を浴びれば普通の人間は腐って死んでしまうだろう。

 シロネはその瘴気の発生源で死都の中心部を見る。

 その中心ではレイジとアルフォスが冥王ザシュススと戦っている。

 戦況はかなり良くない。

 シロネは中で何が起きているのか気付いている。

 死都から強く発する強い魔力。

 この魔力を軸にザシュススは自身に有利な場を作りだしている。

 その中で戦う限りザシュススは無敵の力を得る。

 勝つ方法はその場所からザシュススを移動させるか、その場そのものを破壊するしかない。

 だが、レイジの光の魔法もアルフォスの氷の世界もザシュススの有利を覆す事が出来ないでいる。 

 シロネは加勢に行くべきか迷う。

 しかし、死都の周りにいる死の眷属と邪神達を警戒しなければならず、うかつに近づけない。

 また、加勢をしても状況を変える事はできないだろう。

 自身では良い考えが浮かばないので、シロネは一旦戻る事にする。

 空船に戻るとレーナやチユキが魔法の鏡でレイジ達の戦いの様子を見ている。

 チユキ以外の仲間の姿は見えない。

 ナオとリノは地上で暴れている骸骨百足スケルトンセンティピードを掃討して、サホコは地上で治療行為をしている。

ちなみにコウキとサーナはサホコと一緒にいるはずだ。

 天使も出撃して幽鬼スペクター達を倒している。

 いかに上位のアンデッドとはいえ、天使には敵わない。

 死都モードガルにこそ近づけないが、防衛は出来ている。

 だからこそシロネは戻ったのだ。

 

「おかえりなさい、シロネさん。ご苦労様」


 チユキはシロネを見て言う。


「チユキさん。レイジ君達が苦戦しているわ。助けに行った方が良いんじゃないかな……」


 シロネは自信なさそうに言う。

 レーナもチユキも自分より頭が良い。

 この状況が悪い事にも気づいているはずだ。

 つまり、すでに何か手を打っている可能性がある。

 シロネは余計な事を言っているだけかもしれないのだ。


「そうね、苦戦しているわね。でも助けに行く必要はないわ。むしろ、苦戦している方が有利よ」


 レーナは戦いの様子を見て言う。

 助けに行くつもりはないようだ。


「レーナ。本当に大丈夫なの? 私もちょっとまずいんじゃないかと思うのだけど……」


 チユキも不安そうに言う。

 どうやらシロネと同じ考えのようだ。


「心配みたいね、貴方達。でも、大きな事を見落としているわよ。おそらくザシュススも気付いていない。まあ、見ていなさい」


 レーナは余裕そうに言う。

 その言葉にシロネとチユキは顔を見合わせる。


「あら、コウキ達も戻ってきたみたいね。一緒に成り行きを見守りましょうか」


 レーナが振り向くとそこにはサホコに連れられたコウキとサーナがいる。

 リノとナオも同じように戻って来ているようだ。

 シロネも魔法の鏡の映像を見る。

 そこではレイジとアルフォスがザシュススと戦いを続けているのだった。



「がはははははは!!! その程度かアルフォスに光の勇者!!!! 攻撃がぬるいぜ!!!!」


 ザシュススの一撃にレイジとアルフォスが共に吹き飛び、モードガルの床に叩きつけられる。

 最初に戦っている時よりも力を増している。

 それに対してレイジ達は動きが鈍くなっている。

 アルフォスが自身の結界を展開して有利な空間を作り出そうとしたが、上手くいかなった。

 この場は完全にザシュススの世界になっている。

 このままでは負けるだろう。

 

「まいったね。これは……。まだまだやれるかい? 光の勇者君」


 アルフォスが軽口を叩く。


「誰に言っているんだ。この程度でやられるわけがないだろ」


 レイジは不敵な笑みを浮かべる。

 レイジもアルフォスも余力を残している。

 まだまだ戦える。


「良いねえ。そうじゃなくちゃ!! この冥王の力を世界に見せつける良い機会だ。お前らをこのモードガルの一部にしてやる!! 見ろ!!!」


 ザシュススがそう言うとモードガルの中央部にある神殿が青く光り始める。

 レイジはその青い光の中に数多の生物の叫び声を聞く。

 そこには集められた数多の魂が集められているのだ。


「あれは!? まさかザルキシス!?」


 突然アルフォスが叫ぶ。

 青く光る魂の中で一際強力な叫び声を出す者がいる。

 それは魂のみになってなお強大な力を感じさせた。

 

「その通りだ!! アルフォス!! このモードガルには我が父ザルキシスの魂すらも封じているのよ!! 先代の冥王と同化したモードガルはさらに力を高め、このザシュススを無敵にする!! もはや、敵はないのよ!!」


 ザルキシスは冥王の地位をザシュススに譲ると進んでモードガルにその身を委ね一体化した。

 そして、ザシュススはそのモードガルに混沌の力を降り注いだのである。

 これによりモードガルの力は増し、ザシュススに無敵の力を与えたのだ。


「これはまずいね。どうやれば勝てるかな? 教えてくれるかい」


 アルフォスは笑うと聞く。

 

「勝つ? それは無理だぜ、アルフォス。 混沌の力も得ているモードガルは無敵だ。勝ちたかったら、モデスが持つナルゴルの宝剣を持ってくるんだな!! それならば混沌の力を消す事ができるからな!! さあ諦めろ!! モードガルよ!! 奴らを捕らえろ!!」


 ザシュススが叫ぶと黒い霧がモードガルからあふれ出す。

 

「これは!!?」


 レイジはこの霧を見て飛び上がる。

 霧は先ほど吹き飛ばしたものと同じものだ。

 捕らわれれば力を失うだろう。


「おっと!! 逃がさねえぜ!!」


 ザシュススが叫ぶと神殿から青い光が飛び、レイジとアルフォスに降り注ぐ。


「くっ!!? これは!!?」

「くそっ!!?」


 アルフォスとレイジは青い光を防ぐために動きを止める。

 その間に黒い霧が纏わりつく。


「勝負あったな!!! だが、安心しろ!! すぐには殺さねえ!! 見てろ!! 貴様らの大切な女を奪ってやる!!」


 ザシュススは笑うと四枚の翼を広げ飛んで行く。

 その方向にはレーナの乗る空船があった。



「そんなレイジ君が……」


 チユキは鏡の映像を見て、言葉を詰まらせる。

 映像ではレイジとアルフォスがモードガルに捕らわれている姿が見える。

 レイジとアルフォスは黒い霧に体を包まれ動けなくなってしまっているようであった。

 冥王の勝利であった。

 それを見たチユキ達は慌てだす。


「レーナ様!! 冥王がこちらに来ます!! お逃げ下さい!!」


 レーナのいる空船の一室に戦乙女のニーアが入って来る。

 だけど、その事は既にチユキ達も知っている。


「別に逃げる必要はないわ。少し出迎えてやりましょうか。貴方達も一緒に来なさい」


 レーナは笑うと部屋を出て甲板へと向かう。

 チユキ達は顔を見合わせる。


「ちょっと、チユキさん。レイ君が……」


 サホコは心配そうに言う。

 後ろにいるサーナも不安そうだ。

 サーナはコウキに抱き着いて震えている。

 それに対してコウキは冷静に見える。

 

「わかっている。レーナには何か考えがみたい。それに賭けましょう」


 チユキはそう言って仲間を見る。

 すると仲間達は頷き一緒に甲板へと向かう。 

 チユキ達が甲板へと出ると空船を守るようにアータル率いる天使の軍勢が取り囲んでいる。

 甲板にはレーナがいて、多くの戦乙女達が傍に控えている。

 レーナは堂々とした態度で、向かって来るザシュススを見る。


「邪魔だ!! お前ら!!」


 突撃してきたザシュススは瞬時に天使達を吹き飛ばす。

 そしてザシュススは甲板に降り立ちレーナの前に立つ。

 戦乙女達がザシュススに挑もうとするがレーナはそれを止める。


「良く来たわね。新たな冥王。私に何の用かしら?」


 レーナはザシュススに臆する事なく笑う。


「ふん、噂通りの美しさだな、レーナ。お前を守る光の勇者も、エリオスの最強の騎士もこの冥王の前に敗れた。我が物になれ、死の女王の地位をくれてやるぞ」


 ザシュススはレーナの身体を舐めまわすようにみると手を差しだす。


(ちょっと!! どうするのよ!! レーナ!!?)


 チユキはレーナの後ろで成り行きを見守る。

 シロネもナオも戦う姿勢になっている。

 コウキも剣を背中に構えている。

 そして、戦乙女達も同じように構える。

 レーナが合図をすれば飛び掛かるだろう。

 だが、ここにいる全員でも勝てる気がしない。

 チユキの額に汗が流れる。


「あら、とてもありがたい申し出ね。でも、私にかまけていて良いのかしら? 貴方の家……、燃えているわよ」


 レーナは笑ってザシュススの後ろを指す。


「何!!? どういう意味だ!!?」


 ザシュススは振りかえる。

 チユキもザシュススの後ろを見る。

 そこには黒い炎に包まれるモードガルの姿があった。


 

 

 



★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 ちょっと遅れたけど更新です。

 まあ、一番見逃したら行けない存在を見逃した。

 それがザシュススの敗因です。

 そして、レーナはもてる。


 しかし、この章はどうしても短くなります。

 上手く話が膨らませられませんでした……。

 

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