第22話 病魔の姉妹

 コウキとサーナは2柱の女神と対峙する。

 体の大きいジャヒダラナと小さなシュウシュトゥ。

 ジャヒダラナはフードの付いたマントを脱ぎ棄てると剣を構える。

 見慣れない衣装でかなり露出が多い。

 だが、見たいとは思えなかった。

 ジャヒダラナの体は青色で火傷のような痣が体中にあり、そこから瘴気を放っている。

 瘴気を帯びているのは身体だけではないジャヒダラナが両手に持つ捻じ曲がった剣からも強く瘴気を感じる。

 斬られたらただでは済まないだろう。


「姉さま。あの男の子は傷つけないで捕えて下さい。私のものにしたいですから」


 シュウシュトゥは姉に言う。


「おう、まかせな。だが、ちょっとぐらい痛ぶっても良いよな」


 ジャヒダラナは嗜虐的な笑みを浮かべる。


(すごく強そう……。できれば戦いたくない。だけどサーナ様もいるし、階段の下には攫われた子もいる。逃げられない)


 覚悟を決めるとコウキは目を瞑る。

 

(多分来てくれるはずだ。剣よ来い!!)


 コウキがそう念じた時だった。

 建物の屋根を突き破り、何かが降って来てコウキの目の前に突き刺さる。

 それは一振りの剣だ。

 暗黒騎士である父が授けてくれた剣がコウキを守るために飛んできたのだ。

 コウキは剣を取ると構える。

 

「へえ何だ? その剣は? 振れるのかい? ぼうや?」


 ジャヒダラナは笑う。

 コウキの事を完全に侮っている。

 傍目からみたらコウキの背丈に剣の大きさが合っていない。

 普通の剣でなくても変に見えるだろう。


「振れるよ……。負けたりなんかしない。サーナ様。ラシャ。下がってて」


 コウキは隣のサーナと頭の上にいるラシャに言う。

 ラシャはジャヒダラナを見て唸っている。


「何だ? 犬か? 変な奴だね?」


 竜の子を見たことがないのかジャヒダラナはラシャを見て首を傾げる。


「あら、その子は私の相手をするのじゃないのかしら? 本人もそのつもりみたいだけど。うふふふ、その頭に穴を開けて脳みそをすすってあげるわ」


 シュウシュトゥはサーナを見て言う。

 サーナが後ろに下がる気配はない。


「コウキは渡さない……」


 サーナは小さく呟くとその体が光る。


「何っ!!」

「嘘っ!!!」


 サーナの体が光った瞬間、ジャヒダラナとシュウシュトゥの体が吹き飛ぶ。

 両者は吹き飛び、壁を突き破る。


「くそが!! 小娘があああああああ!! その腹を裂いて臓器を食ってやる!!!!!!」


 しかし、すぐにジャヒダラナが戻って来てサーナに襲いかかる。

 とんでもない速度だ。

 ジャヒダラナが剣をサーナに向かって振るう。


「サーナ様!!」


 コウキはサーナの前に立つと剣でジャヒダラナの攻撃を受け止める。


「どけ!!」

「させないよ!!」


 コウキはジャヒダラナの剣を受け流すと胴を斬り裂こうとする。


「えっ!!? 軽い!!?」


 突然ジャヒダラナの体が上と下に分離する。

 急に体が分かれたのでコウキの反応が遅れる。

 ジャヒダラナの上半身と下半身が分かれるとそれぞれ別方向からコウキに襲いかかる。

 上半身が剣を振り、下半身の断面から触手が伸び襲い掛かる。


(何だよ!! これ!! クソ!!)


 何とかコウキは上半身の剣を受け止める。

 しかし、後ろからくる下半身までは対処できない。


「があああああああ!!!!!!!!」


 そんな時だった頭の上にいたラシャがジャヒダラナの下半身に体当たりをする。


「クソが!!?」


 奇襲に失敗したジャヒダラナは後ろに下がり再び1つになる。


(上半身と下半身が分離するのか。危なかった……)


 コウキは驚いてジャヒダラナを見る。

 病魔の双子姫ジャヒーダとダラーナ。

 上半身の姉ジャヒーダと下半身の妹ダラーナ。

 その姉妹が合体した姿がジャヒダラナなのである。

 姉は背中の翼で空を飛び。

 妹は下半身の断面から消化液で攻撃する。

 この両者の攻撃を避けれたのは奇跡であった。


「ジャヒダラナお姉様。その子は殺さないでください」


 遅れてシュウシュトゥが戻ってくる。


「それは難しいな、シュウシュトゥ。思ったよりもこいつら強い。本気でやらねえと倒せない。覚悟を決めろ」


 ジャヒダラナの姿が変わっていく。

 姉のジャヒーダは斑点のある鷲のような魔鳥に、妹のダラーナは首のない巨大な鶏ような姿へと変わる。

 どうやら本性をあらわしたようだ。


「そんな、姉様が本気を出すなんて……。まさか、この子がこんなに強いなんて。わかりました……」


 シュウシュトゥは驚いてコウキを見る。

 強いとは全く思っていなかったようだ。

 最初に見せた余裕の表情が完全に消える。

 そしてシュウシュトゥもまた姿を変える。

 長い髪が翼のように変形し、口から牙が伸びる。

 両手から火打石をいくつも取り出すとそれを宙に浮かべる。

 

「サーナ様。気を付けて下さい。本気できます」


 コウキは剣を構える。

 ジャヒダラナ達からの瘴気が強くなっている。


(まずい……。こんな強い瘴気があふれだすとこの辺り一帯が危ないぞ。引き離さいと)


 瘴気により床の板が腐りはじめている。

 人の多い場所から引き離さないといけないだろう。


「ちょっと、臭い……」


 サーナがそう言うとその体が再び光る。

 ジャヒダラナとシュウシュトゥは警戒する。

 しかし、今度は吹き飛ばない。


「馬鹿な! 瘴気が!!」


 ジャヒダラナが驚く。

 サーナの力により、周囲の瘴気が全て消えたのだ。


「くっ、この子。もしかして、私達とは対極にあるの?」


 この力にはコウキも驚く。

 間違いなく聖女サホコの娘である。

 コウキとサーナはジャヒダラナとシュウシュトゥと対峙する。

 その顔にはもはや侮りはない。

 強敵としてみている。

 そんな時だったシュウシュトゥの翼が激しく動く。


「姉様!! 危ない!!」


 シュウシュトゥが叫んだ時だった。

 何かが建物の中に入ってくる。

 疾風の如き速さで入って来た何かはコウキとサーナの前に立つ。


「申し訳ないっす。大丈夫だったっすか2人とも」


 入って来たのはナオだ。

 ナオはコウキとサーナに謝るとジャヒダラナとシュウシュトゥに向かい合う。

 

「貴様は……」


 ジャヒダラナはナオを睨む。 

 その上半身の脇から黒い血を流している。

 ナオにやられたようだ。


「少し外したっす。惜しかったっすよ」


 ナオは少し悔しそうに言う。

 シュウシュトゥが一瞬早く気付いたのでジャヒダラナが避けてしまったのである。

 そのため、仕留めそこなった。


「全く、こんな奴らが忍び込んでいたなんて……。迂闊だったわ」


 ナオ以外にも誰かが入ってくる。

 長い黒髪の女性チユキである。


「姉様。どうしましょうか?」


 シュウシュトゥは前にいるナオと後ろにいるチユキを交互に見る。

 ジャヒダラナとシュウシュトゥはチユキとナオで挟み込まれる形になっている。


「やるしかないな!! ふん!!」


 ジャヒダラナは剣を構える。


「大人しく去るなら追わないわよ。ここで戦うと被害が大きいからね。でもどうしてもというなら全力でお相手するわ」


 チユキは杖を構える。

 ジャヒダラナとシュウシュトゥは何も言わずにチユキとナオ、そしてコウキとサーナを見る。


「仕方がない。撤退するぞ、妹よ」

「はい、姉様」


 ジャヒダラナとシュウシュトゥは翼を広げ天井を突き破ると飛んでいく。

 戦いは終わったようだ。

 コウキは剣を降ろすと緊張を解く。


(少し危なかった……。ありがとう、ラシャ)


 コウキは頭の上に戻ったラシャを撫でる。

 ラシャは嬉しそうな声を出す。

 ジャヒダラナの奇襲はもう少しで成功するところだった。

 ラシャが飛び掛からなければ危ないところだったのである。


「ごめんなさいね。コウキ君にサーナちゃん。遅くなったわ。まさか、あんな奴らもぐりこんでいるなんて……」


 チユキはコウキに謝るとコウキの頭に抱き着く。


「あの、チユキ様……」


 胸が顔に押し付けられてコウキは戸惑う。

 それを見てサーナは不満の声を出すのだった。 





 


★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 更新です。

 ジャヒダラナはこういうキャラがいたら面白いなと思ってだしました。

 元ネタはマナナンガルとか色々。

 暑さが和らいだと思ったらまた熱くなりました。熱中症に気を付けないといけないですね。

 

 後告知ですが仕事の都合で9月8日は休みます。

 9月の最初の週はかなり忙しく執筆がちょっと難しいです。

 シズフェの冒険も休むかもしれません。

 ついでにネクストのシズフェの冒険無料期間なので良かったら読みに来てくれると嬉しいです。

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