第23話 冥王の進撃
「良くやりましたね。コウキ。死の眷属がすぐ足元にいた事を突き止めるとは、さすがです」
レーナは空船に戻って来たコウキを褒める。
側にいるのはレーナと天使達だけであり、チユキとナオは他に死の眷属がもぐりこんでいないか探すために外出中で、サホコとサーナは地上で浄化活動をしている。
シロネは天使達を率いて空の巡回中だ。
「いえ、突き止めたのは偶然です。それにチユキ様達が来てなかったら危ないところでした」
コウキは首を振って言う。
これは本当の事だ。
2柱の女神は危険な存在だった。
奇襲で危なかったが、それさえわかればテリオンの方が強かったように思う。
だけど、あのまま戦えば捕らえられていた子ども達が巻き添えになっていたかもしれない。
だからこそチユキは彼女達を帰したのだ。
その子ども達は既に親元に返している。
子どもが戻って来た親達はかなり喜んでいた。
だが、既に何人もの子どもが攫われていたようなので、それがコウキの心に影を落とす。
「謙虚ね、コウキ。しかし、少し危なかったみたいね。今度からは護衛を用意する必要があるかもしれないわ……」
レーナはそう言って考え込む。
「いえ、あの護衛はいらないです……」
コウキは首を振って否定する。
「そう。まあ良いわ。こっちが勝手に用意するだけだから。でも、ルウシエンはう~ん、適任じゃないわね……。チユキとかなら大丈夫そうだけど常には見てくれなさそうだし……」
全然良くない事をレーナは言って考え込む。
(はあ、何を言っても聞いてくれないよね。)
何を言っても聞いてくれなさそうなのでコウキは黙っておく。
そして、少しの時間が流れる。
「レーナ様!! 大変です!! 冥王の軍隊がこちらに迫っています!! シロネ殿とアータル様が向かっていますが!! どういたしますか!!?」
コウキとレーナが話をしている時だった。
1名の戦乙女が部屋へと入って来て報告する。
「そう……。予想より早かったわね。さてどうしようかしら?」
レーナはそう言うと溜息を吐くのだった。
◆
浮遊する死の都モードガル。
その王宮にザシュススはいる。
王座に腰掛けるザシュススの前にはジャヒダラナとシュウシュトゥの2名の娘が頭を下げている。
「失敗したようだな。お前達」
「申し訳ございません。お父様。予想外の事がおきまして」
シュウシュトゥは弁明する。
コウキと再会し、思った以上に相手が強かった。
そして、勇者の仲間に気付かれて撤退を余儀なくされたのである。
「ああ、出会った子どもが思った以上に強かった。想定外の者がいるようだ。警戒した方が良いぞ、父上」
ジャヒダラナは首を振って言う。
「想定外か……。それはお前も同じかビフロン?」
ザシュススは横に控えるビフロンに聞く。
ビフロンは光の勇者レイジとアルフォスとほとんど戦う事なく撤退した。
その事をザシュススは面白くなく思う。
「アルフォスも光の勇者もかなり強さでした。予想以上の強さに撤退せざるを得なかったのです。ここは冥王様に御出陣していただくしかないと思いまして」
ビフロンはわざとらしく言う。
「ふん、つまり俺に王としての力を見せよという事か? ビフロン?」
「ふふ、ハーパス殿はともかく我らは新たな王の力を見たいのですよ」
ビフロンはザシュススの睨みに臆することなく答える。
「ふん、そういう事か……。まあ良い。もうすぐレーナの所に辿り着く。かの女神の前で光の勇者もアルフォスも殺してやるわ。アシャク! 奴らは今どこにいる!!」
ザシュススは傍らにいる側近に声をかける。
「かなりの速度でこちらに来ています。もうすぐ、ここに来るでしょう」
アシャクは魔法の映像を出して言う。
そこにはレイジとアルフォスがモードガルに迫っているのが映っている。
「なるほどな。ならば追いつけるように少し遅そく行こう。それまでは宴を楽しむとしようか」
ザシュススは手を上げる。
すると美しい人間の少年少女が料理と酒を運んでくる。
少年少女達は攫った後、冥王に仕える者として厳選した者達だ。
外れた子どもはその身を料理にと変えられた。
つまり、少年少女達は同じ人間の肉を運んでいるのだ。
だが、少年少女達には肉となった子どもを悲しんでいる様子はない。
冥王に仕える事を心底喜んでいる。
生きながら死の眷属となった子達はもはや元に戻る事は不可能だ。
「前祝いという奴ですかな。冥王様」
「そうだ、ビフロン。俺の偉大さを見たら、今度こそ俺に忠誠を誓え」
ザシュススはそう言って赤い水が入った杯を取る。
「はい。わかっておりますよ。冥王様」
ビフロンはそう言って頭を下げるのだった。
◆
クロキはレイジとアルフォスを追う。
彼らの方が速いので付いていく事ができない。
「さて、どうしようか? クーナからの連絡だと、モードガルは移動速度を落としたみたいだけど……」
先程遠くからモードガルの様子を見ていたクーナから連絡があった。
どういう心境の変化があったのかしらないが、どうやら冥王ザシュススはレイジとアルフォスを迎え撃つつもりらしい。
だから、少し遅れて行った方が良いようであった。
クロキは周囲を見る。
周囲はかなり悲惨な状況だ。
死の軍勢は各方面に出撃している。
大きな国は何とか防いでいるが小さな国のいくつかは滅んでしまった。
「あれは……?」
クロキはある場所を見て走る。
そこには多くの人間の死体が転がっている。
逃げ遅れた人達のようだ。
特にモードガルが通った場所は瘴気が濃くなるのでアンデッドが湧きやすい。
そのため、この死体からアンデッドが生まれ、屍肉を食らう死の眷属が寄って来る。
曇り空を見上げると多くの鳥が飛んでいる。
普通の鳥ではない。
ヴァルチャグと呼ばれるハゲワシ人達だ。
既にクロキに気付いていたのだろうか取り囲むように降りてくる。
「まさか、生きている
「くく、良い屍兵になりそうだ」
ヴァルチャグ達は杖をクロキに向ける。
どうやらこのヴァルチャグ達は
こうやって死体の多い場所を訪れてはアンデッド兵を作っているようであった。
「一応聞くけど、自分の事を知っている者はいる?」
クロキはヴァルチャグ達に聞く。
「知るわけないだろう。お前は平凡そうでどこにでもいそうだからな。いちいち
ヴァルチャグの1匹が杖を掲げると死体だと思っていた人が起き上がる。
起きたのは年寄に壮年、若い人等の老若男女だ。
起きた人々はクロキを見ると不気味な笑みを浮かべる。
そして、突然耳が大きくなると翼のように羽ばたき、そのまま首が外れる。
頭部は耳を翼のように羽ばたかせ、クロキの周りを飛び回る。
普通の死の眷属は日の光を苦手とする。
しかし、
中には胴体と繋がっている間は自身を
だが、日が落ちると胴体から分離して空を飛び回り、人を襲うようになる。
そして、胴体と離れている間は日の光を浴びると死ぬ。
そんな特殊な存在が
死神によって生み出された種族なのであった。
「さあ、実力を見せろ。その後お前の身体をどう使うか考えてやるぞ。ギシャシャシャシャ」
ヴァルチャグは笑う。
「そう……。死の眷属は好きじゃないんだ。君達が悪いわけじゃないけどごめんね」
クロキはそう言うと足元にある剣を拾うと前進する。
遮るように
「何!? どういう事だ!?」
ヴァルチャグは驚きの声を出す。
「な、何か変だ! 逃げろ!!」
ヴァルチャグ達は空を飛んで逃げようとする。
しかし、飛び立つ事はできなかった。
「何だ!? この茨は!?」
ヴァルチャグ達は足元を見て驚く。
足にいつの間にか黒い茨が絡まり、飛べなくなってしまったのだ。
クロキはそんなヴァルチャグ達に剣を振るう。
剣はナマクラだ。しかし、クロキが持てば鋭利な刃物と化す。
全てのヴァルチャグ達が頭を斬り落とされ瞬時に死ぬ。
「君達は瘴気を振りまく、共に生きる事はできない……」
クロキはそう言うと黒い炎を出してヴァルチャグの亡骸ごと死体を消滅させる。
死の眷属は瘴気を発生させる。
多くの生き物はその中では生きていくことができない。
そのため、対立せざるを得なかった。
クロキは黒い茨を全ての遺体に絡ませるとその瘴気を全て吸い取りその体ごと消す。
「さて、どのタイミングで行くかな……」
クロキは遠くのモードガルを見て呟くのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新です。
仕事の都合で来週9月8日は休みます。
9月1日から8日まで忙しいんですよね。この間は執筆する暇がなかったりします。
そのため、ネクストの外伝もこの週は休みます。
マナナンガルを出したなら、今度は飛頭蛮です。ぺナンガラン、ピーガスやチョンチョンでも良いです。
世界観はどうなっているんでしょうね。
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